上 下
75 / 132
風使いと〈斬撃の巫女〉

添い寝

しおりを挟む
 カーテンすらないこの部屋、怜本人の言った後輩に言われた事以外はてんでダメ、まさにその通りなのだろうか。しかし鈴香は違うことを思っていた。
-もしかして…………わざと……ダメな……感じ、を?-
 推測は推測、結局答えなど出るわけもなくこの日は眠ることにした。
 若葉家で儀式を終えればすぐにでも眠ることの出来る鈴香に対して怜はまだ、シャワーすら浴びていなかったのであった。怜は着替えを持って風呂場へと向かう。着替えを持っている怜の様を見て鈴香は微笑んだ。
「それも…………後輩から……の教え…………なの?」
 ダメ人間ではない部分の全てが後輩からの教えのように思えていた。
「そうだな」
 しかも、それは正解のようである。それから15分ほどを経て、怜は戻って来た。清潔な姿を見て、鈴香は笑顔で手招きをしていた。
「怜……こっち」
「なんだ? 俺に用でもあんのか」
 鈴香はより一層笑顔を強める。
「明日……は。お買い物…………行こうよ」
「なんでだ面倒だ」
「私…………これしか……服が…………ないの」
 怜は納得した表情で財布を取り出し中身を探り始めるも、何をするつもりか分かっていた鈴香はそれを引き止める。
「一緒が…………いいよ」
 一緒がいい、一緒に行きたい。怜の頭の中ではまたしても後輩女子、菜穂の事が思い浮かんでいた。
-そういやアイツも同じこと言ってたな、めんどくせ-
「分かった、鈴香の学校が終わったらな」
 財布を棚の上に置いて怜は布団を敷き始める。そしてそこに鈴香を寝せて自分はソファで寝よう、そうしよう。しかし、鈴香を寝かせた布団から離れようとしても何故だか引き戻されるような感覚があった。
「風邪……引いちゃうよ」
「知らねぇよ」
「お買い物…………行って……くれるん……だよ、ね」
-鈴香、分かれ、流石に女と一緒に寝るのは気が引けるぞ-
「おんなじ……布団で」
-もっと入りずれぇじゃねぇかやめろ-
 断ろうとするも、やはり鈴香の目に浮かぶ感情はあの後輩に似ているもので、どうにも断りづらいのであった。
「分かった。何があっても鈴香が一緒に寝たいっつったわけだからな。何か間違いがあってもな」
「何も…………しない……くせに」
 鈴香はイタズラな微笑みを投げかけていた。そして怜を布団に招き入れて怜の服を小さく頼りない手で摘むように持って寝息を立て始める。
-甘えん坊なとこまでそっくりかよ-
 何かといつも怜の傍にいようとする後輩はきっと寂しかったのだろう。そして今目の前にいる小さな少女。兄を喪った少女もまた、寂しくて仕方がないのであろう。
しおりを挟む

処理中です...