上 下
84 / 132
風使いと〈斬撃の巫女〉

河川敷

しおりを挟む
 川の辺りに車を停めて、河川敷にて向かい合うふたり。それぞれ後ろには大切な少女がいた。
 怜は苛立ちを零す。
「クソが! 運転下手くそが! もしかしてテメェ狙ってやってんじゃねぇだろうな?」
 一真は首を横に振る。
 怜は苛立ちを募らせて叫んだ。
「はっ! まあいい、ここでてめぇとそこのブスをぶっ殺せばいいわけだしな」
「ブスは…………言い過ぎ……だよ」
 背後から聞こえる声に怜は目を見開いた。
「鈴香、すまん。他人とはいえ言い過ぎた」
「甘さが見えてるぞ、つか俺の彼女をな」
 そう言いながら一真は既に怜の元へと肉迫していた。
「ブス呼ばわりするんじゃない」
 ビニール傘を怜は風で弾く。ともに一真は砂利を転がるように飛んで行く。
「そいつはいい……てめぇ、盲目してんだろ」
「だから…………怜……言い過ぎ」
 振り返った怜は鈴香の目付きがいつになく恐ろしいものである事をようやくその目に見た。
「すまん。あと鈴香は一旦下がってて。俺は鈴香には危険なめに会って欲しくないからな」
「喧嘩文句言ったら怒られて、コントなのか」
 そんな疑問と共に今度こそ近付いた一真はビニール傘を縦に振るう。それを怜は飛び退いて躱した。
 舞い上がる砂利、その中に混ざるいくつもの石。その内のひとつが鈴香の頬を殴り付けた。
 鈴香は目に涙を浮かべながら頬を押さえる。それを見た怜の言葉、声はあまりにも憎しみがこもり過ぎていた。
「てめぇやりやがったな。俺の大事な鈴香にケガをおわせやがってよぉ。どう責任取るつもりだ?」
 鈴香を左腕で抱えて胸に寄せて抱き締めて全力の暴風を暴走させる。
「てめぇだけはぜってーに許さねぇ」
 じめんを殴り叩き抉る風。一真は魔力を目に集め、別の性質、魔力を視る。
 怜を中心に伸びる魔力たちは触手のようにも見えた。
 地に叩き付けられる魔力、一真はその全てを躱して怜の元へと迫ろうとするも隙が一切ない。
 とても膨大な量の魔力、それは最早温存など一切考えない子どもじみた大技。
 一真は考える。どう切抜けるか。見方のせいで触手のようだが実際に伸びているのは風、斬れるはずもなかった。
「うおおおおおおおおおお」
 怜が操る風は次から次へと一真に襲い来る。
 躱し、地へと飛びつき、転がり、飛び退いて躱していく。
 策はなく、避けるのも限界だった。
 遂に風が一真を完全に狙い、そして強力な一撃を放つ。
 身構える一真、迫る風、1メートル、70センチ、50センチ、近付いて来た。
 一真が受ける覚悟を決めて傘を構えたその時、風は消えて怜は地に蹲る。鈴香は驚き慌てて怜の背中をさする。
「自分の魔力すら管理出来ないほどにキレてたのか」
 魔力切れを起こした怜をよそ目に那雪と共に車へと戻るのであった。
しおりを挟む

処理中です...