呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

文字の大きさ
85 / 132
風使いと〈斬撃の巫女〉

菜穂の想い

しおりを挟む
 重く気怠い身体を引き摺って歩く。鈴香に支えられて、一緒に歩く。
「鈴香、荷物重いだろ? 俺はひとりで歩けるから支えなくていい」
 鈴香は首を横に振る。その意思の強さに抗う程の元気など怜は持ち合わせていなかった。
「怜が……弱ってる……から、無理…………させない」
 怜は珍しく微笑んでみせた。
「鈴香は強いな」
「弱い…………よ。ダメ……なの。戦うことも……出来ない」
「そんなこと知ってる。こうやって支えてくれてさ、やっぱ強いな」
 鈴香は頬を赤くして顔を逸らしたのであった。



 アパートで寄り添うように眠るふたり。月明かりは新しく敷かれたカーテンによって防がれて、夜の景色は閉ざされてよるらしさは暗闇と静けさ以外のなにも感じられない。
 怜は目を開く。鈴香の寝顔は穏やかで安らかで可愛らしくて、この夜の闇の中ではこの上なく輝いて見えた。
 怜は食器棚の下の段、お菓子や缶詰め等を収納しているところから缶コーヒーを取り出してアパートのドアを開く。
 家に帰ってから鈴香は魔法が使えるようになりたいと言っていた。きっと今日の戦いのことであろう。
 怜は基本的な魔力の操作方法くらいは分かると知ってひとまずは魔力による防御と肉体強化、爆発を教えておいて最後に回復魔法を教えたのであった。弱々しい回復魔法、しかし鈴香の頬の傷を治すくらいのことは簡単なようで鈴香は鏡に映る綺麗な顔を見て喜んではしゃいでいたのであった。
「勇人……妹はぜってー守り通すからな」
 夜風に当たりながら夜闇にそんな追憶の残像を映して思い返していた怜だったが、突如風向きが変わったのを感じて何処へと無く言葉を放つ。
「風使いのところまで来るっつーのならせめて風向きくらいは考えろって話だろ」
「分からせるためにしたんだよ、先輩」
 その声、その言葉、怜は知っていた、覚えていた、思い出していた。
 その場にいたのは巫女服を着て日本刀を持ったあの人。昔より少しだけ大人びた顔はそれでも相変わらず菜穂だと分かるもの。
「確か、魔導教団側なんだよな。なら」
「違うよ。確かに魔導教団に入ってる。家的にも私の意思でも。でもね、それは魔女の力を操って人から離れて行ってる勇人先輩のため」
 怜は菜穂を思い切り睨み付ける。その表情には恐ろしい程の苛立ちがむき出しになっていた。
「菜穂、勇人のためだと思うならどうして側にいてやらなかった。どうして守ってやらなかった。魔女の力を男が使えば存在が人から離れていく、変わっていくなんて分かってながら見てなかったわけだよな」
 怜は一番大切なことを付け加える。
「菜穂がそばにいて守ってやれば勇人は死なずに済んだんじゃないか? 俺だって今でもそう。一緒に戦っていれば死なずに済んだんじゃないかって後悔してる」
 菜穂の表情は凍り付き、膝から崩れ落ちる。
「もう、『お前』には用はねぇ、失せろ」
 それだけを残して怜は部屋へと戻るのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...