呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

風使いと〈斬撃の巫女〉

普通の登校

　優雅なコーヒーの時を終えて、鈴香は制服に着替えていた。怜を見つめて何かを訴える。怜はそんな鈴香を見て言葉を送る。
「わりぃな、俺は魔力が殆ど残ってねぇんだ。だからよぉ、送ってくのはムリだ」
　鈴香は口を開いた。
「そんなの…………分かってる。でも……怖い……の。だから、一緒に…………行こ」
　結局怜は鈴香に逆らうことなど出来やしない。鈴香は怜の手を引いて登校の見守りを行わせるのであった。外は既に明るくて鮮やか。優しい空を眺めながら怜は鈴香の手の感触をその手に心に染み込ませながら鈴香に引かれて歩いていく。温もりを感じながらついていく。吹いてくる風が心地よい。建ち並ぶ家たちは景観を崩すこともなく、よく馴染んでいた。
　やがて駅が見えてくると鈴香は怜にしがみつく。
「安心しろ。痴漢はさせねぇ」
　列車に乗り込むと怜は鈴香を守るように立っていた。
－にしても中学生狙うとんだクソもいたもんだな－
　そういう輩はきっと誰が相手でも構わなかったのかも知れない。
　震える鈴香の頭を撫でる。
　鈴香は顔を赤くして小さな自身よりももっとずっと大きな怜を見上げていたのであった。
　やがて電車はある駅へとたどりつく。あまりにもうるさい駅を降りてから歩き始める。そこは大量の人が歩いているような都会。道路を走る車も多く、見ているだけで疲れそう。それから大きな学校、立派な白い建物へと入って行く鈴香、それを手を振りながら見送る怜。鈴香の姿が見えなくなった途端回れ右、そして去る。
　魔法も使わない普通の登校はそうやって果たされ、残された怜は今日は出来る仕事が無いことを確認して大いに溜め息をついて都会でただ時間を潰すことに決めたのであった。