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風使いと〈斬撃の巫女〉

ベッドにて

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 お嬢さまに担がれてベッドへと運ばれた少女。立っているのがやっと、そんな状況で運ばれるのは当然のことであった。
 お嬢さまは少女をベッドに運んで寝かせる。
「お召し物は後でお持ちしますわ」
「そりゃどうも」
 お嬢さまの愛の篭った顔と言葉に顔を赤くしながら答えた少女。愛の篭った対応、それはいつ以来であろうか。幼い頃は親も可愛がってくれていたのは分かっていたが、ここ二、三年は魔導教団の手下として働かされるばかり、発言も許されていなかった。
 想いに浸る少女はお嬢さまが出て行ったことを知って、ポツリと呟く。
「ありがとう、私も好きだ」
 お嬢さまとはズレが生じたその『好き』は姫を護る騎士となるのに相応しい感情。少女はしばらくベッドに身を預けようとして近くで寝ているある気配に気が付いた。少女はその方向を見て、かけるべき言葉をかけるのであった。
「呪ってゴメン、今解くから待って」
 指を一度だけ鳴らし、少女は眠りに就いた。
 そうして那雪にかけられた呪いはかけた本人の手によって解かれたのであった。



 屋敷の中、お嬢さまは語り始めようとした。
「さて、これで敵はいなくなりましたわ」
 執事は顔を押さえて首を横に振る。見ていられない、そんな感情を見せていた。その姿、血が滲んだドレスは所々が裂けて顔からも血が滴るという悲惨なものであった。
「待て、凄い姿してるぞ」
 お嬢さまは答える。
「服が裂けたセクシー路線ですわ。それに私は派手な血の化粧も似合う女でしてよ」
 刹菜は笑っていた。そして呆れ気味の言葉が口をついて出る。
「そりゃあ実にお似合いのおつもりだろうな。高いものを台無しにしてアーティスト気取りだなんてお金持ちの感性はまるで分からないな」
 それからお嬢さまは語ることは出尽くしたため他の情報が欲しければ魔導教団に入信するフリをしてとだけ言って客人たちを帰らせたのであった。
 結局、三人の持つ情報を合わせると推測出来ることしか得られなかった。
 その情報量の一致に那雪はただ首を傾げていた。

-もしかして、お嬢さまのスパイの正体って-

 きっと那雪と一真の父親コンビ、その事実を見抜き、ただ微笑むだけであった。
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