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風使いと〈斬撃の巫女〉

入信

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 お嬢さまに渡された紙に導かれて進む三人。見覚えのある道を通り、見覚えのある景色を目にして通り過ぎ、紙に書かれた住所そこまでもが見覚えのあるものであった。
 そこは朝から開いている和菓子店、『桃ん雅和菓子店』という場所。
「魔女引き渡した場所らしいじゃないか」
 刹菜と一真、そして那雪の三人で話し合う。ホムンクルス計画の邪魔までしてしまったみんなでどうやって魔導教団に潜入するのか。
「内部からぶっ壊す、その為の潜入だというのに入れない気がしてきた」
 一真の弱音に頷く那雪。那雪は関わっていないものの、二人も魔女研究所に忍び込んだ関係者がいる辺り、確かにそれは厳しいものになるであろう。
 そう言いつつも一真は和菓子屋の娘、和服美人の鹿島 志乃に入信希望を出してみる。
「すみません、魔導教団に入信したい者なのですが」
 志乃は笑顔で答える。
「はい、信じることは自由なので」
「ふぅん……まるでキミ側の意思が見えない答え方だなぁ。はっきり言ってはっきり言わなきゃ信頼得られないな」
「変なこと言うな刹菜」
 わざとらしい分かりにくい言い回し、刹菜の態度はいつも通りであった。
 志乃は三人を招き入れる。
「お抹茶でもどうぞ、コチラのお菓子屋、抹茶も人気なのですよ」
「苗字は鹿島だろ? 抹茶より緑茶を出しなっ。それとも和菓子の勉強で精一杯で名産地も分からない?」
「あら、原材料の碾茶は佐賀のお隣の福岡でも採れるのですよ? お得意の言い回しを使いこなす為にさぞ努力なさっていたことでしょうね」
 志乃の言葉を受けて刹菜はいつも以上にニヤついていた。
「ははっ、私のが直接的で分かりやすい言い回し。人に理解させる気の無い言葉は二流だな」
「あらあら、相手を傷付けないための心遣いが伝わらないだなんて。言葉の世界はとても広くて奥深いのですから好奇心が大切なのですよ」
 もはや、入信の話どころでは無くなっていた。
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