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風使いと〈斬撃の巫女〉

それぞれの行き先

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 図書館は物が散らばり本も 殆ど消えて無くなってしまった。
「知識は力に敗れた、そんなタイトルで一枚の絵になりそうだ」
 そう呟きながら刹菜は歩き出す。入り口であり出口、レンガ造りの建物から出て刹菜は那雪と一真、そして満明の3人に対してある宣言をする。
「私が今から和菓子屋の看板娘に泣き面のペイントを加えにいくから3人で那雪ちゃんの妹を助けに行って」
 那雪は刹菜に訊ねる。
「ひとりで大丈夫? 満明さんか一真は連れて行かなくて大丈夫?」
 刹菜はお得意のニヤけ面を浮かべた。
「大丈夫、ひとりじゃない。この子がいてくれるから」
 その目は天使の魔導書を、どこか愛おしさの篭った、しかしいつものようにニヤけた表情で見つめていた。


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 刹菜はこの広い施設の中を歩いていた。ある部屋へと続く大きな扉、そこを蹴り破るように開く。
「あら、行儀や礼儀を存じない? 古臭いですから仕方ありませんね」
「その嫌味、ホントに愛してる。互いにぶつけ合おうぜ、それが私たちの礼儀だろう?」
 その言葉から始まる戦い、和服の美人、和菓子屋の娘の志乃はどこからなのか包丁を取り出し構えて走り始める。
「私の活け造りか? 私痩せ過ぎて食べるとこ無いが? …………胸も尻もないし」
 自嘲の言葉を吐き捨てながら刹菜はポケットから万年筆を取り出して蓋を開いて志乃の包丁を受け止める。
 「あなたは料亭に出せる品質だとお思いのようですね、何ごとも形からでしょうか?」
「はっ、乙女の悩みを抉るキミの言葉と包丁を握る姿、よく似合ってるよ、内外共に」
 刹菜は飛び退いて壁へと飛び移り、天井を蹴り進み行く。素早く降下していく先、その到達点、それは志乃が仕事で使っている机。
 脚から突っ込み木の物質へと強烈な衝撃を与える。砕け散る机、それは志乃の仕事場の破壊という特に意味もない行い。
「私でなく机に当たる……まだまだ頭の伸び代があるみたいですね」
「だれが歳不相応の大馬鹿者だって? 言いたい事を直接言えない臆病者め」
 志乃はイタズラな微笑みを見せる。和服の美人が浮かべる笑みはとても妖艶なものであった。
「私はあまりはしたない言葉が好きではないものでしてね」
「はしたない言葉が好きじゃない? 戦場に立つ時点で身ははしたないけどな」
 刹菜は左手に持っている天使の魔導書を開いた。わずかな時間の友情の形、それは白く透ける輝きを放つ。
「世界を塗り潰せ!」
 三点のレーザー、それぞれが異なる方向へと進み、壁や床、天井を反射しながら世界を塗り潰し突き進み、志乃の元へと襲いかかる。
「塗り絵がお好きなのですね、可愛らしい」
 まだ塗り潰されていない部分、そこへと跳ねて躱して刹菜の元へと向かう。
「塗り絵? 違うね、消しゴムで世界を消してんだよ」
 志乃が来たそこを狙い、放つものは輝く槍。それもまた天使の力なのであった。
 槍は和服の美人を貫き押して飛ばして世界の白へと押し込める。志乃もまた、世界を塗り潰す白の餌食になってしまったのであった。
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