呪う一族の娘は呪われ壊れた家の元住人と共に

焼魚圭

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風使いと〈斬撃の巫女〉

地下へと潜り行く、心潜り行く

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 走り始める走る走って走った走り行く。3人はかつてニヤけ面の少女が欠陥構造だと思っていたあの場所へと駆ける。
 そして他と比べて扉と扉の間隔が広い壁、満明はそこを勢い良く殴り付けて大穴を開けた。
 口を開けた壁、開かれ作られた穴の向こうは闇、闇は空気を吸い込み熱を吐いてしまったのだろうか、向こう側は息苦しく肌寒く感じられた。
 満明は堂々とした姿勢で穴の向こうへと足を進める。
 一真と腕に細い腕を絡めている那雪もまた、少し遅れて進んで行く。そうして進んで行った奥に待つものは大きな鉄の扉、その前にいた存在に一真は目を見開く。空いた口は塞がらず、しかしそこから声のひとつも出て来ることもない。
 扉の前で制服を着崩したように着こなす金髪褐色肌の少女が倒れており、大人な美人が少女に寄り添いしかしどちらも共に元気もなく力もない、そんな状況。
「大丈夫か、真昼さん、ヴァレンシア」
 満明の声を耳に入れたのか、ヴァレンシアは力なく地に伏した手の指先をほんの少しだけ動かすのみ。
「大丈夫、ヴァレちゃん……満明が、来た……から」
 真昼もまた、助けが来て安心を抱き枕に意識を闇に落としてしまった。
 その様子を見て那雪は一真と満明に指示を出す。
「ふたりは叔母さんとヴァレンシアさんを安全なところまで連れて行って下さい。私はひとりで妹のところに行くので」
 満明は那雪を鋭い視線で睨み付けた。
「やれるのか? 悪魔も制御出来ないようなそんな身体で」
 那雪は苦い貌をしつつもどうにか微笑んでみせる。
「行きます、悪魔は出来るだけ制御しないようにしてるんです、私だけを保つように……ギリギリで」
「なゆきち、ムリはダメだ、満明さんに任せろ」
 一真の言葉を聞き入れて、しかし那雪は目を伏せて俯き気味に首を横に振る。
「ダメ、私が妹を……美雪を連れ戻さなきゃ」
 重たい扉に手をかけて、無理やり力を入れて思い切り引っ張った。
 扉は鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。
 進もうとする那雪に一真は着いて行こうとするものの、那雪は振り返り、言った。
「来ないで……ここからは醜いふたりの女の子たちの戦いだから」
 そんな姿は彼氏には見せたくない、そんな意地を感じた一真だったがそう簡単には引き下がらない。
「いやだね、俺はどう足掻いてもなゆきちを助ける」
 那雪はそれを否定してみせた。
「助けるべきは……那雪じゃないの。助けるべきは……美雪だから」
 分からない者は通さない、分かったとしたら通れない、ふたりの関係に入る権利など他の誰も持ち合わせていないのだから。
 那雪は静かな闇へと吸い込まれるように部屋へと入っていく。たったのひと言だけを残して。


 これから姉妹喧嘩に行って来るから。
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