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那雪と美雪
内なる戦い
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闇の中、先は何一つ見通せない程に昏いそこは地の底であろうか。そんな深淵の闇は那雪の心に不安を与える。
悪魔による内側からの侵略をどうにか抑えてかつ悪魔を支配しないように、心掛けは命懸け、フラ付きながらどうにか脚を動かし地を進む。
あまりに重く苦しい身体と心で進んでいた那雪はどこまで進んだのかすらも分からないまま、力が抜けて地にへたり込む。
力が入らない、どう入れればいいのか分からない、意識の保ち方すらも忘れて、遂には倒れて意識を闇の中へと落としてしまった。
✡
目を開けたそこは家の中、夕日を浴びながらひとり時を過ごす。
-一昨日は何も無かった、昨日も何も無くて、今日もまた何も無い、明日もきっと何も無くて、明後日もその次もきっと。そうして私は死に行くんだろうね-
寂しさは心を溺れさせる。息苦しさが襲う。息を吸って吐いて吸い込み吐き出し繰り返しまたしても繰り返し。
しかし、それでもどこか底に溜まった息苦しさは抜けない。
那雪は窓の向こうを何となく見つめて息が止まりそうな程の驚きを心に打ち込まれた。
窓の向こうにいるのは紛れもなく自分自身。
窓に映った像などではなく、見間違えることもない自分自身の痩せこけたみすぼらしい姿。
目の前の那雪はこの世の黒よりも闇よりも何よりも黒く昏い靄のように曖昧な大剣を右手に握り、大剣を振り回して窓を割った。
「私を呪うのは私、あなたはあなたに呪われて」
衝撃に尻もちを着いている那雪は目の前の那雪を恐怖を込めた目で見ていた。
「つまらない、これでおしまい」
那雪は大剣を持ち上げて振り下ろそうとする。
しかし、それは叶わなかった。那雪は横へと飛ばされ地に倒れる。
そこに現れたのは、那雪、3人目の那雪であった。ビニール傘を手にした那雪は家の中で尻もちを着いている力無き那雪を見下ろしていた。
「ああ、なゆきち、私を助けに来たわ。私が別の私を殺せば私は外の私として生きた私になれる」
始まりの那雪は外にいるビニール傘を持った那雪を見たまま、尻もちを着いた体勢のまま手を動かし後ずさる。
そこで何か細いものにぶつかった。那雪は後ろを確認する。そこにはニヤけ面を浮かべた那雪が万年筆を握り締めて立っていた。
「那雪ちゃん、愛しい那雪ちゃん、キミになって生きて行きたいな、この愛しい身体にイヤらしいことをいっぱいしてさ」
那雪はそこでようやく思い出した。
どうして家にいるの? さっきまで……魔導教団の秘密の地下室にいたのに。
「一真、刹菜さん……悪魔め、私の大切な思い出を勝手に借りてぶち壊さないで!」
すると突如ドアが開き、那雪が入ってきた。
那雪の思い出を勝手に借りて那雪の姿しか取ることの出来ない悪魔、そんな悪魔な那雪はただでさえ醜い顔をさらに崩す程に、裂けそうな程に大きく口を横に広げた。
「那雪ちゃん、私は那雪ちゃんのこと大好きだよ。食べちゃいたいくらいに」
「イヤだ! 洋子さんのマネをしないでっ!!」
那雪は耳を塞ぎ目を閉じて叫んでいた。
そんな那雪の耳元で囁く那雪の声。
「イヤなら逃げればいいわ。私にちょうだい。あなたより上手く生きてみせるから。そしたらあなたの人生なんかに価値なんてないものね」
那雪は目を開いて立ち上がり耳元で囁く那雪の胸ぐらをつかむ。
「悪魔……私のことを奪おうとしないで!」
息を大きく吸って続けた。
「確かに私なんかに価値は無い。それは分かってる」
那雪の目には何が映っているのだろう。目の前の悪魔は映っているのかいないのか。目の前の者が誰であるのか分からない、悪魔が何なのか分かりはしない。それでも構わず言の葉を紡ぎ続ける。
「でもね、そんなこと言ったら誰にも価値なんて無いと思うの……勿論あなたもね」
悪魔は那雪の顔をしていた。その顔が胸に着きそうな程に首を傾けて、それでも変わらない那雪の声で言った。普段からあまり話さなかったがために少し喉が弱ってしまったような嫌な掠れ気味な声で。
「で? 価値が無いならどうしたの?」
那雪はそんな悪魔に大した強みもない声で叫ぶ。
「人の事を人生を価値なんて基準で勝手に殺そうとしないで!」
そして胸に手を当てて那雪は祈る。
「私を……世界に帰して。こんな自分だけのセカイにはさよならして帰るから。最後はみんなで笑って終わるから!」
悪魔たちの姿は塵となり、消えていく。侵略は防がれて、このセカイの中で支配されることもなく、心のどこかの深淵を漂うのだろう。
那雪は輝きに包まれていた。セカイは輝き、那雪はその眩しさに目を閉じるのであった。
悪魔による内側からの侵略をどうにか抑えてかつ悪魔を支配しないように、心掛けは命懸け、フラ付きながらどうにか脚を動かし地を進む。
あまりに重く苦しい身体と心で進んでいた那雪はどこまで進んだのかすらも分からないまま、力が抜けて地にへたり込む。
力が入らない、どう入れればいいのか分からない、意識の保ち方すらも忘れて、遂には倒れて意識を闇の中へと落としてしまった。
✡
目を開けたそこは家の中、夕日を浴びながらひとり時を過ごす。
-一昨日は何も無かった、昨日も何も無くて、今日もまた何も無い、明日もきっと何も無くて、明後日もその次もきっと。そうして私は死に行くんだろうね-
寂しさは心を溺れさせる。息苦しさが襲う。息を吸って吐いて吸い込み吐き出し繰り返しまたしても繰り返し。
しかし、それでもどこか底に溜まった息苦しさは抜けない。
那雪は窓の向こうを何となく見つめて息が止まりそうな程の驚きを心に打ち込まれた。
窓の向こうにいるのは紛れもなく自分自身。
窓に映った像などではなく、見間違えることもない自分自身の痩せこけたみすぼらしい姿。
目の前の那雪はこの世の黒よりも闇よりも何よりも黒く昏い靄のように曖昧な大剣を右手に握り、大剣を振り回して窓を割った。
「私を呪うのは私、あなたはあなたに呪われて」
衝撃に尻もちを着いている那雪は目の前の那雪を恐怖を込めた目で見ていた。
「つまらない、これでおしまい」
那雪は大剣を持ち上げて振り下ろそうとする。
しかし、それは叶わなかった。那雪は横へと飛ばされ地に倒れる。
そこに現れたのは、那雪、3人目の那雪であった。ビニール傘を手にした那雪は家の中で尻もちを着いている力無き那雪を見下ろしていた。
「ああ、なゆきち、私を助けに来たわ。私が別の私を殺せば私は外の私として生きた私になれる」
始まりの那雪は外にいるビニール傘を持った那雪を見たまま、尻もちを着いた体勢のまま手を動かし後ずさる。
そこで何か細いものにぶつかった。那雪は後ろを確認する。そこにはニヤけ面を浮かべた那雪が万年筆を握り締めて立っていた。
「那雪ちゃん、愛しい那雪ちゃん、キミになって生きて行きたいな、この愛しい身体にイヤらしいことをいっぱいしてさ」
那雪はそこでようやく思い出した。
どうして家にいるの? さっきまで……魔導教団の秘密の地下室にいたのに。
「一真、刹菜さん……悪魔め、私の大切な思い出を勝手に借りてぶち壊さないで!」
すると突如ドアが開き、那雪が入ってきた。
那雪の思い出を勝手に借りて那雪の姿しか取ることの出来ない悪魔、そんな悪魔な那雪はただでさえ醜い顔をさらに崩す程に、裂けそうな程に大きく口を横に広げた。
「那雪ちゃん、私は那雪ちゃんのこと大好きだよ。食べちゃいたいくらいに」
「イヤだ! 洋子さんのマネをしないでっ!!」
那雪は耳を塞ぎ目を閉じて叫んでいた。
そんな那雪の耳元で囁く那雪の声。
「イヤなら逃げればいいわ。私にちょうだい。あなたより上手く生きてみせるから。そしたらあなたの人生なんかに価値なんてないものね」
那雪は目を開いて立ち上がり耳元で囁く那雪の胸ぐらをつかむ。
「悪魔……私のことを奪おうとしないで!」
息を大きく吸って続けた。
「確かに私なんかに価値は無い。それは分かってる」
那雪の目には何が映っているのだろう。目の前の悪魔は映っているのかいないのか。目の前の者が誰であるのか分からない、悪魔が何なのか分かりはしない。それでも構わず言の葉を紡ぎ続ける。
「でもね、そんなこと言ったら誰にも価値なんて無いと思うの……勿論あなたもね」
悪魔は那雪の顔をしていた。その顔が胸に着きそうな程に首を傾けて、それでも変わらない那雪の声で言った。普段からあまり話さなかったがために少し喉が弱ってしまったような嫌な掠れ気味な声で。
「で? 価値が無いならどうしたの?」
那雪はそんな悪魔に大した強みもない声で叫ぶ。
「人の事を人生を価値なんて基準で勝手に殺そうとしないで!」
そして胸に手を当てて那雪は祈る。
「私を……世界に帰して。こんな自分だけのセカイにはさよならして帰るから。最後はみんなで笑って終わるから!」
悪魔たちの姿は塵となり、消えていく。侵略は防がれて、このセカイの中で支配されることもなく、心のどこかの深淵を漂うのだろう。
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