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三滝の調査
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響き渡る喧騒が日差しの輝きと微かな熱に包まれていた。熱狂は一つの世界の輪の中に収められていた。行き交う人々は雑談を撒きながら笑いを咲かせ、愉快な世界を作り上げ、三滝はこの雰囲気から取りこぼされたように感じてしまう。隣に立つ通訳担当の男も同じように浮いているようで口を開けて圧倒されていた。
「これがヴァルプルギスナハトか」
辺りは不思議な飾りで満ちていた。恐らく酒場だろう、吊り看板から更に吊るされた白い魔女、地面に飾られた色鮮やかなキノコと紫色の老いた魔女の明るい笑顔、屋台に置かれているのは箒に跨った木彫りと思しき魔女の置物。
人々の中には魔女の姿を真似した美しき女も見受けられた。
――俺には手の届かない宝石、ってよく言われたものだ
雑誌の向こうの世界の存在だから諦めろ、お前の存在など眼中にも無い、お前とそういう関係を持つことの出来る女などこの世に存在しない。冗談半分という言葉を覆す勢いで口にする彼らに正気かと訊ねてみせた三滝に返される言葉など半分以上は本気、との事。
そうして自信にも満たない一過性の憧れを抱くことすら封じられてしまった三滝だったが運命とはどのような悪戯を仕込んでくれたものだろう。今では三滝が雑誌の向こうの存在へとなっていた。
しかしながらそれでも雑誌の表紙や巻頭の数ページを飾るような美しき人々には届かない。指一本触れる事すら許されなかった。三滝の担当する雑誌はオカルト雑誌。カメラのレンズは美人ではなく怪奇現象に関係した物や景色、それに関係する人々と言ったところ。取材というインタビューはグラビアアイドルのあれやこれを問うものなどではなく怪しい現象の数々について。あまりにもジャンルがかけ離れていた。
――街角インタビューでもするか
本来の目的はノートパソコンの中に眠っており、その文面が意味を持って動き出す時間までまだ余裕があった。
隣に連れた男に通訳を頼み、二人組の魔女に声を掛ける。
「二人の美しい魔女さん、お伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
笑顔を並べて歩いていた二人の女性は立ち止まり、ボイスレコーダーを見せて無言で許可を仰ぐ三滝にも笑顔を保ったまま会釈をする。
「こちら、日本のオカルト雑誌、月刊アガルタの高石三滝と申します」
三流程度、毎月死神の鎌を向けられたような雑誌。風が吹けば倒れるというより積み重ねて来た誌面が吹き飛び無くなってしまうと自虐を披露したくなるようなその雑誌の編集部は毎日必死で界隈に食らい付いていた。
「日本でもヴァルプルギスナハトに対する理解を深めたいもので」
それ程大それた使命を帯びた雑誌ではない事など承知の上。マニア向けある事は誰もが認めていた。しかしながらこうした取材はマニアではあまり目を向けない一面を雑誌の一面として飾ることが出来るのではないだろうかと三滝は考えていた。
透き通るレース生地のひらひらとした不思議な質感を纏った腕を、その先に伸びる手に持った紙コップに注がれたハーブティーを揺らして湯気と香りを広げながら魔女の姿をした人物は答える。
「ワルプルガはご存じかしら」
八世紀のイングランドの修道女。ドイツまでの伝道、つまりは布教の旅に出てその地で大修道院長となった宣教師。
「そのワルプルガが列聖された五月一日の祭典の前夜祭よ」
礼を告げ、一旦止めて視界の遠くで魔女たちが輪を成して踊っている姿をカメラに収めた後に再び話を聞き始める。
「キリストでは古い神は悪しきものだし信仰する人は魔女なのでしょ」
そんな魔女たちが己の信じる神々にケチを付けられる状況はどれ程残酷なものだっただろう。
性別など関係ない。ただ神々を信仰していたが為に魔女と呼ばれた人々が山に集い春の到来を祝う宴を開く祭りとも言われている。
――諸説あり、だな
現在では昼間から空気を愉快な色に染めて魔女の飾りや装いを愉しむ一般的な祭りであるものの、恐らくアガルタの読者はそう言った部分にはあまり興味を示していなかっただろう。情報として魔女祭りの一言で片付ける様が目に浮かんで来る。
「今の魔女は特に怪しい儀式など行なっていないのですね」
三滝の疑問に表情を強張らせる魔女に扮した二人は震えを見せながら一つの情報を与えてその場を立ち去った。
「なるほど、人が帰って来なくなる事件と魔女を結び付けたくなるか」
もしかすると人さらいの不審者がこの街にも存在するのかも知れない。寧ろその思考回路を持つ人物がいないという三滝が薄っすら抱いていた希望混じりの仮定そのものに不自然さを覚えていた。
それから加えて数人に祭りに対する印象や感想を主としたインタビューを終え、腕時計に目を落とす。
――そろそろだな
太陽はその顔を殆ど空から落とし、店は戸締りを始めていた。通訳担当者にも一旦別れを告げて三滝は歩き出す。これから先の事に今回の通訳担当を巻き込むわけには行かなかった。
閉まった店たち、明かりは途絶えて眠りのよう。昼間にはあれ程動き回っていた人々の姿が嘘のようにいなくなっている。まるで昼間の喧騒が幻を見せる魔法のよう。魔法が解けてしまったなら待っているのは寂しい時間。
暗闇が節々に蔓延る怪しい夕暮れの朱に身を焦がしながら一軒の建物を見つけてドアを開いた。店など全て仕舞っているにも拘わらず閉まっていないそこに待つ若い男は日本人の目では未だに慣れない大人の雰囲気を漂わせていた。
「今回の記事の方を先に纏めてどうぞ」
言われるまでも無くキーボードを叩く音を響かせている三滝の真面目な姿勢に二重の意味で束ねた感心を向けながら目を細める男の感情に気が付いていなかった。
手早く入力を済ませる事で仕事人としての三滝の在り方を一旦終わらせると共に男が淹れたハーブティーが運ばれて来るのを見つめ、一息ついた。
「三滝よ、ようこそ私の世界へ」
今までは世界ではなかったのだろう。営業を終えた後の店、建物の中にいながら建物の中という世界の外にいたのだと実感を抱きながら様々な彩りを持った爽やかな香りを、気分をすっきりさせるという方向性に絞られた美しさを持つ薄っすらと緑がかった黄という色を持った透き通る液体を口へと運んでいく。
「ああ、慣れない味だ」
「それは良かった」
何が良かったのだろう。恐らく慣れてしまえば効力が薄らいでしまう類いの人間なのだろう。同じだと思われている事に引っ掛かりを覚えつつも下手な口を叩くことなく話を続ける。
「何が目的なのだ」
ノートパソコンのキーを叩いて画面を男の方へと向ける。映されたメールを眺めて男は目を尖らせ顔に影を纏わせる。
「実は大切な妹がいなくなってな」
つい先週まで共に過ごしていたという妹が急に返って来なくなったのだという。三滝は頭を捻るもオカルトとはどうにも結び付けられずにいた。
「もしかすると男と駆け落ちたのかも知れないぞ。その手は頼みより拍手に使うべきだ」
平和的な思考は相手の顔をますます曇らせるだけ。時計の針が進む音だけが部屋を充たす事十回以上だろうか。それだけの時を経て耳を突き抜ける静寂が心臓を締め始め、気まずさを取り入れた頃に男は口を開く。
「あの子に恋人などいないはずなんだ」
「黙っているのが普通だろう、身近な人程遠ざけてな」
三滝は学校で過ごした日々の中の一ページを思い返していた。四人程度で遊んでいたクラスメイト。いつまでも同じ日々が続くと思っていた仲間たち。
そんな彼らの内の一人がある日を境に離れて行ってしまった。当時は家庭の事情で忙しいのか、校則を破ってアルバイトでもしているのだろうと思って深入りは避けていたものの、揃った意識を裏切るように一人が提案を放り込んだ。
その仲間に唆されて後をつけてしまったあの日。たった一日にして築き上げた過ちを後悔すると共にその時の臨場感から秘密の恋人の情報を手に入れた高揚感、もしかすると三滝の記者としての道が開かれたのはその時かも知れなかった。
「あまり人の深みに踏み入らない事だ。ぬかるみに嵌まるぞ」
彼にも分かるように告げてみたものの、返された表情は不満の文字を描くだけ。それはやがて言葉にも現れ出てしまう。
「いつでも夕飯には帰って来ていたというのに」
そんな一言が三滝の記憶を刺激する。魔女に扮した女が噂していたあの事を脳裏を走る衝撃に変えて身体を容易く突き動かした。
「分かった、探ってみよう」
その返事に黙って頭を下げるのだから三滝は利用されているのだと気が付いてしまった。
辺りは闇に塗り潰されている。カンテラの頼りない明かりを頼りに足音の一つ、草を掻き分ける音が奏でる自然のコンサートがこの上なく美しい。
――魔女の山にでも行ってみるか
宴を行なう山。正常を欠いた人物が真っ先に向かいそうな分かりやすい異常性を目印にして歩き始める。
暗闇は恐怖心を生み落とし、異常者がいるのではないかと言う噂も同じ感情を生み落とし、互いが互いを育て上げる。
山へと踏み込み進み始める事数十分が経っただろうか。どこへと向かっているのかそれすら迷いの中に放り出してしまう山の中で透き通る声の旋律が流れ出す。
女たちの歌声を耳にした三滝は木々によって捻じ曲げられた根源を辿るべく耳を澄ます。こだまは彼女たちの行方をくらませるものの、歩き回って意識を研ぎ澄ませてみれば女たちの歌が耳に入ってしまう。
――向こうだな
慣れた手つきで、染み付いた動作でカメラを取り出そうとするものの思い返してその手を止めた。
――取材はすでに終えているし今から目にするのは
取材の外側、公開してはならない情報だと三滝は取材の構えを取ってしまいそうになる己を必死に抑えた。
幾つも生えた木々、元気な自然の隙間からある光景を覗き込む。
女の集団が踊り回り、歌いながら大きな鍋に入れた木べらを掻き混ぜキノコのクリーム煮込みを作っている姿。
三滝はポケットから男の妹の写真を取り出しカンテラで照らして踊る女たちのいる光景を見渡す。
そうして一つの気付きを得て思わず出て来てしまいそうになった叫びを必死に抑え込んだ。
――これは
彼の味方でいる事を諦め山を下り始める。
この夜を踊り明かす女の中に彼女の顔を見てしまい、魔女の一人なのだと、三滝の手に負えない事なのだと知って暗い選択肢を選ぶ事しか出来ずに睡眠と言う暗がりを目指して再び街へと踏み込み宿のドアに掛けられたベルを鳴らした。
「これがヴァルプルギスナハトか」
辺りは不思議な飾りで満ちていた。恐らく酒場だろう、吊り看板から更に吊るされた白い魔女、地面に飾られた色鮮やかなキノコと紫色の老いた魔女の明るい笑顔、屋台に置かれているのは箒に跨った木彫りと思しき魔女の置物。
人々の中には魔女の姿を真似した美しき女も見受けられた。
――俺には手の届かない宝石、ってよく言われたものだ
雑誌の向こうの世界の存在だから諦めろ、お前の存在など眼中にも無い、お前とそういう関係を持つことの出来る女などこの世に存在しない。冗談半分という言葉を覆す勢いで口にする彼らに正気かと訊ねてみせた三滝に返される言葉など半分以上は本気、との事。
そうして自信にも満たない一過性の憧れを抱くことすら封じられてしまった三滝だったが運命とはどのような悪戯を仕込んでくれたものだろう。今では三滝が雑誌の向こうの存在へとなっていた。
しかしながらそれでも雑誌の表紙や巻頭の数ページを飾るような美しき人々には届かない。指一本触れる事すら許されなかった。三滝の担当する雑誌はオカルト雑誌。カメラのレンズは美人ではなく怪奇現象に関係した物や景色、それに関係する人々と言ったところ。取材というインタビューはグラビアアイドルのあれやこれを問うものなどではなく怪しい現象の数々について。あまりにもジャンルがかけ離れていた。
――街角インタビューでもするか
本来の目的はノートパソコンの中に眠っており、その文面が意味を持って動き出す時間までまだ余裕があった。
隣に連れた男に通訳を頼み、二人組の魔女に声を掛ける。
「二人の美しい魔女さん、お伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
笑顔を並べて歩いていた二人の女性は立ち止まり、ボイスレコーダーを見せて無言で許可を仰ぐ三滝にも笑顔を保ったまま会釈をする。
「こちら、日本のオカルト雑誌、月刊アガルタの高石三滝と申します」
三流程度、毎月死神の鎌を向けられたような雑誌。風が吹けば倒れるというより積み重ねて来た誌面が吹き飛び無くなってしまうと自虐を披露したくなるようなその雑誌の編集部は毎日必死で界隈に食らい付いていた。
「日本でもヴァルプルギスナハトに対する理解を深めたいもので」
それ程大それた使命を帯びた雑誌ではない事など承知の上。マニア向けある事は誰もが認めていた。しかしながらこうした取材はマニアではあまり目を向けない一面を雑誌の一面として飾ることが出来るのではないだろうかと三滝は考えていた。
透き通るレース生地のひらひらとした不思議な質感を纏った腕を、その先に伸びる手に持った紙コップに注がれたハーブティーを揺らして湯気と香りを広げながら魔女の姿をした人物は答える。
「ワルプルガはご存じかしら」
八世紀のイングランドの修道女。ドイツまでの伝道、つまりは布教の旅に出てその地で大修道院長となった宣教師。
「そのワルプルガが列聖された五月一日の祭典の前夜祭よ」
礼を告げ、一旦止めて視界の遠くで魔女たちが輪を成して踊っている姿をカメラに収めた後に再び話を聞き始める。
「キリストでは古い神は悪しきものだし信仰する人は魔女なのでしょ」
そんな魔女たちが己の信じる神々にケチを付けられる状況はどれ程残酷なものだっただろう。
性別など関係ない。ただ神々を信仰していたが為に魔女と呼ばれた人々が山に集い春の到来を祝う宴を開く祭りとも言われている。
――諸説あり、だな
現在では昼間から空気を愉快な色に染めて魔女の飾りや装いを愉しむ一般的な祭りであるものの、恐らくアガルタの読者はそう言った部分にはあまり興味を示していなかっただろう。情報として魔女祭りの一言で片付ける様が目に浮かんで来る。
「今の魔女は特に怪しい儀式など行なっていないのですね」
三滝の疑問に表情を強張らせる魔女に扮した二人は震えを見せながら一つの情報を与えてその場を立ち去った。
「なるほど、人が帰って来なくなる事件と魔女を結び付けたくなるか」
もしかすると人さらいの不審者がこの街にも存在するのかも知れない。寧ろその思考回路を持つ人物がいないという三滝が薄っすら抱いていた希望混じりの仮定そのものに不自然さを覚えていた。
それから加えて数人に祭りに対する印象や感想を主としたインタビューを終え、腕時計に目を落とす。
――そろそろだな
太陽はその顔を殆ど空から落とし、店は戸締りを始めていた。通訳担当者にも一旦別れを告げて三滝は歩き出す。これから先の事に今回の通訳担当を巻き込むわけには行かなかった。
閉まった店たち、明かりは途絶えて眠りのよう。昼間にはあれ程動き回っていた人々の姿が嘘のようにいなくなっている。まるで昼間の喧騒が幻を見せる魔法のよう。魔法が解けてしまったなら待っているのは寂しい時間。
暗闇が節々に蔓延る怪しい夕暮れの朱に身を焦がしながら一軒の建物を見つけてドアを開いた。店など全て仕舞っているにも拘わらず閉まっていないそこに待つ若い男は日本人の目では未だに慣れない大人の雰囲気を漂わせていた。
「今回の記事の方を先に纏めてどうぞ」
言われるまでも無くキーボードを叩く音を響かせている三滝の真面目な姿勢に二重の意味で束ねた感心を向けながら目を細める男の感情に気が付いていなかった。
手早く入力を済ませる事で仕事人としての三滝の在り方を一旦終わらせると共に男が淹れたハーブティーが運ばれて来るのを見つめ、一息ついた。
「三滝よ、ようこそ私の世界へ」
今までは世界ではなかったのだろう。営業を終えた後の店、建物の中にいながら建物の中という世界の外にいたのだと実感を抱きながら様々な彩りを持った爽やかな香りを、気分をすっきりさせるという方向性に絞られた美しさを持つ薄っすらと緑がかった黄という色を持った透き通る液体を口へと運んでいく。
「ああ、慣れない味だ」
「それは良かった」
何が良かったのだろう。恐らく慣れてしまえば効力が薄らいでしまう類いの人間なのだろう。同じだと思われている事に引っ掛かりを覚えつつも下手な口を叩くことなく話を続ける。
「何が目的なのだ」
ノートパソコンのキーを叩いて画面を男の方へと向ける。映されたメールを眺めて男は目を尖らせ顔に影を纏わせる。
「実は大切な妹がいなくなってな」
つい先週まで共に過ごしていたという妹が急に返って来なくなったのだという。三滝は頭を捻るもオカルトとはどうにも結び付けられずにいた。
「もしかすると男と駆け落ちたのかも知れないぞ。その手は頼みより拍手に使うべきだ」
平和的な思考は相手の顔をますます曇らせるだけ。時計の針が進む音だけが部屋を充たす事十回以上だろうか。それだけの時を経て耳を突き抜ける静寂が心臓を締め始め、気まずさを取り入れた頃に男は口を開く。
「あの子に恋人などいないはずなんだ」
「黙っているのが普通だろう、身近な人程遠ざけてな」
三滝は学校で過ごした日々の中の一ページを思い返していた。四人程度で遊んでいたクラスメイト。いつまでも同じ日々が続くと思っていた仲間たち。
そんな彼らの内の一人がある日を境に離れて行ってしまった。当時は家庭の事情で忙しいのか、校則を破ってアルバイトでもしているのだろうと思って深入りは避けていたものの、揃った意識を裏切るように一人が提案を放り込んだ。
その仲間に唆されて後をつけてしまったあの日。たった一日にして築き上げた過ちを後悔すると共にその時の臨場感から秘密の恋人の情報を手に入れた高揚感、もしかすると三滝の記者としての道が開かれたのはその時かも知れなかった。
「あまり人の深みに踏み入らない事だ。ぬかるみに嵌まるぞ」
彼にも分かるように告げてみたものの、返された表情は不満の文字を描くだけ。それはやがて言葉にも現れ出てしまう。
「いつでも夕飯には帰って来ていたというのに」
そんな一言が三滝の記憶を刺激する。魔女に扮した女が噂していたあの事を脳裏を走る衝撃に変えて身体を容易く突き動かした。
「分かった、探ってみよう」
その返事に黙って頭を下げるのだから三滝は利用されているのだと気が付いてしまった。
辺りは闇に塗り潰されている。カンテラの頼りない明かりを頼りに足音の一つ、草を掻き分ける音が奏でる自然のコンサートがこの上なく美しい。
――魔女の山にでも行ってみるか
宴を行なう山。正常を欠いた人物が真っ先に向かいそうな分かりやすい異常性を目印にして歩き始める。
暗闇は恐怖心を生み落とし、異常者がいるのではないかと言う噂も同じ感情を生み落とし、互いが互いを育て上げる。
山へと踏み込み進み始める事数十分が経っただろうか。どこへと向かっているのかそれすら迷いの中に放り出してしまう山の中で透き通る声の旋律が流れ出す。
女たちの歌声を耳にした三滝は木々によって捻じ曲げられた根源を辿るべく耳を澄ます。こだまは彼女たちの行方をくらませるものの、歩き回って意識を研ぎ澄ませてみれば女たちの歌が耳に入ってしまう。
――向こうだな
慣れた手つきで、染み付いた動作でカメラを取り出そうとするものの思い返してその手を止めた。
――取材はすでに終えているし今から目にするのは
取材の外側、公開してはならない情報だと三滝は取材の構えを取ってしまいそうになる己を必死に抑えた。
幾つも生えた木々、元気な自然の隙間からある光景を覗き込む。
女の集団が踊り回り、歌いながら大きな鍋に入れた木べらを掻き混ぜキノコのクリーム煮込みを作っている姿。
三滝はポケットから男の妹の写真を取り出しカンテラで照らして踊る女たちのいる光景を見渡す。
そうして一つの気付きを得て思わず出て来てしまいそうになった叫びを必死に抑え込んだ。
――これは
彼の味方でいる事を諦め山を下り始める。
この夜を踊り明かす女の中に彼女の顔を見てしまい、魔女の一人なのだと、三滝の手に負えない事なのだと知って暗い選択肢を選ぶ事しか出来ずに睡眠と言う暗がりを目指して再び街へと踏み込み宿のドアに掛けられたベルを鳴らした。
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