魔女に心を奪われて

焼魚圭

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甘い夜

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 それは昨日の事。魔女の奈々美とホムンクルスの十也が住まう古い一軒家。そこかに用事があって来ていた人々が立ち去った後の事、奈々美と十也はふたり家の中に取り残されていた。
「これで、この『セカイ』にはふたりだけなのね」
 奈々美のその言葉を十也は理解することなど出来やしない。
「どう? 歳上の彼女、とてもステキだと思わないかしら。そんなもの研究所の教育では教えてもらえなかったでしょう?」
 十也は分かったこと思ったことを正直に答えた。
「分からない。でもこれだけは分かる。奈々美さんがとても変態なこと。さっきからボクを見る目が凄くいやらしい」
 そう、先程から奈々美は顔をほんのり赤く染めていつもより細く色っぽい目付きで十也のことを眺めているのだ。
「あの人には脚好きはお黙りと言ったけれども男の子の細い脚、女の子と違って頼りなくて守りたくなってしまうわね」
 奈々美はそう言ってから十也の脚を綺麗な指でなぞっていく。その柔らかでくすぐったい感触は十也の頬に熱を与えていく。恥ずかしさと嬉しさ、多彩な感情はそれぞれの色を混ぜ合わせ、十也の内側から染みて現れるのだ。
「ななみさん」
「呼び捨てで呼んで、遠い距離は禁止よ。こんなに近くにいるのに遠い事は悲しい事なのだから」
 奈々美は次に十也の頭を撫で、奈々美は電気を消す。
 闇は光をも食べてしまい更には音をも食べてしまったのだろうか。辺りは静かで、近くにいるはずの魔女の姿すら包み隠していて正直に言うと十也にとっては少しばかり恐ろしい。
 奈々美は十也の手を包むように握る。長い指は十也の小さな手などいとも容易く包み込んでしまう。
「温かい。これが十也の生きている温度なのね……愛してる」
 暗闇の中、表情は見えなかったがきっとあの色っぽい目付きと艶のある唇で語っているのだろう。それを想像するだけで十也の心臓の鼓動は加速していく。
 それから布の擦れる音が静寂の中から十也の耳へと響き渡っていく。奈々美は畳の上に座ったらしい。
「おいで、私の可愛いカレシくん」
 十也を導いていく先は恐らくあの魔女の恐ろしいほどに美しきふとももであろう。十也を誘惑する魔女はまさに色欲の味を教え罪を被せる悪しき女。
「座ってちょうだい」
 そうして十也は奈々美の脚に腰掛けた。
「ふふふ、これが十也のお尻の感触ね」
「恥ずかしいからやめてよ」
「いや。可愛いんだもの」
 十也は身体を伝う熱に冷静さを奪われて考えるだけの余裕もありはせず、奈々美の言うことに従うのであった。
「ご覧。夜空に輝く星たちを」
 家の窓の向こうに輝く星。それは手を伸ばしても届かない遠いところを飛ぶ鳥のようで、遠くに広がる海のようでもあり、思うことはあれども上手く伝えられない。そんな十也が言える事はただひとつ。
「きれいだね」
 奈々美は艶やかな声で仄かに笑って言うのであった。
「本当にきれいね」
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