魔女に心を奪われて

焼魚圭

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美味の魔法

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 雑草抜きの仕事を終えて月が登り、そして日がまた昇った。朝の時が終わり始めて昼へと時は向かう。時計の針は一体幾度数字の刻まれた円盤を回ったのだろう。
 和室の部屋の中、正座をして読んでいた本を閉じてちゃぶ台に置く十也。あの黒いローブを纏った魔女に声を掛ける。
「学校に行くための手続きは今日するんだよね?」
 魔女、奈々美はわざとらしい笑顔を浮かべながら答えた。
「ええ、そうよ。今から不自然に見えない格好に着替えるわ。お互いのことをよく知るためにと思ってしっかり見ていて欲しいものね」
 十也がいるところで堂々と服を脱ごうとした奈々美。十也は顔を赤くして部屋を出て行ったのであった。



 着替え終わったらしい奈々美は十也の元へと忍び寄る。
「どう? 似合っているかしら」
 白のシャツの上から黒いノースリーブのワンピースを着ていた。
 十也は服の感想よりも先に叫びたいことがあった。
「あのさ、ボクがいるとこで脱ごうとしたよね? やっぱり〈エッチの魔女〉なんじゃない?」
「ハハハ、私がそんな人なわけないじゃない。私は極東に住まう〈東の魔女〉、英智は無いけれどもエッチでも無いごくごく普通のありきたりな魔女なのだから」
 奈々美の格好に少しばかりの不安を抱えつつも、ローブを纏った姿で街を彷徨くよりは何倍も何十倍もマシだと心に叩き付ける。その間に奈々美は学校へ連絡し、そして学校へと向かう。
 十也は奈々美の歩く姿に見蕩れていた。それは大人の歩み、人生の中で磨き上げられた姿。十也と10歳近く離れた肉体年齢と、素早く成長させるような薬を飲まされ無理やり育て上げられたがためにこの世の時を歩んだ年数は20年近くも離れていた。そんな十也にとって隣りを歩く魔女の姿はあまりにも遠く感じられた。
 奈々美が様々な資料を提出する姿はまさに大人で、十也はそんな奈々美の姿を後ろから眺めて早く追い付きたいと思うのであった。
 それから夕日が地平線の向こうへと帰る頃にふたりは帰って、それから家にてふたりきり。奈々美はいつものローブを纏ってIHコンロで鍋を熱して中のものを木べらで掻き混ぜていた。妖しく笑う奈々美の姿を見て十也は思う。
-凄く魔女なんだけど……流石に怖いかも-
 美しい顔が余計に恐怖感を掻き立てる。季節を考えない姿もまた不気味で、それでありながらも十也は奈々美がとても綺麗に見えて心を揺さぶられる。

 十也の心はもうとっくの昔に魔女に魅入られていた。

 奈々美はIHの加熱を止めて鍋の中身を皿に移す。皿を持ってちゃぶ台へと零さないように運び、そして最後に白くて長い指をゆっくりと振って魔法を使うのであった。
「美味しくなぁれ」
 魔力など必要ない、魅力だけでかけられた魔法は今の十也にとってはこの世でもっとも強くてステキな魔法だったであろう。
 十也は季節外れのシチューをスプーンで掬い、息を吹き冷ましながら口へと運ぶ。温かな料理に暖かな味、あたたかな想い。そして何より大切な人、奈々美が傍にいる事。

 それは十也にとってのこの上ない程の幸せなのであった。
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