フリーター、魂を刈る。

なつかしすと

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第12話 天使ユキエル

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 コユキの魂を刈る、それが今回の目的だ。

 布団で寝ているコユキに向かって、青白い刃が光る愛鎌スノードロップを構える。

 今日はコユキに対してありえない感情が湧いてくる。怒り、憎悪……分からない。

 このまま鎌を振ればいい、ただそれだけだ。

 こんな簡単なことで依頼が達成できる。俺は目を見開き、鎌を大きく振りかぶった。



「オワリだ」



 ――鎌を振り下ろそうとしたその時、眩い光に辺りが包まれる。

 その光で薄目を開けるのが精一杯だ。



 ……羽?



 沢山の白くて綺麗な羽が舞い散る。どこかで見たことがある。何年も前に……確か。



「ユミルちゃん……ううん、お兄ちゃん、だよね」



 そこには立って俺を見つめるコユキの姿があった。だが、背中にはまるで天使のような白い翼が見える。

 雰囲気もいつもと違う。そして、俺の中の何かが恐怖の対象と認識した。



「オマエは、ダレだ……? ……俺はシっているぞ。……ユキエル!!」

「……私はユキエルであって、ユキエルではないの。ユキエルはママ、私はそのチカラと名前を受け継いだだけ」



「ウアアアアアアアアア!!」

 俺は鬼の形相で、奇声を発しながらコユキに鎌を振り上げ襲い掛かる。

「邪悪な気配を感じる……」

 それに対して、コユキが俺に向かって手をかざす。

 次の瞬間、俺の小さな身体は何かに縛られたかのように動かなくなった。

 ……鎖? 無数の光が鎖のように、俺の身体を縛っていた。



「ヤメろ……ハナせ! 忌々しいテンシがオレの邪魔をスルナ!!」

 纏わりつく光を全力で引きちぎろうとするが、びくともしない。

 それどころか、力を入れるたびに更にキツく縛られるのだ。



「悪しき者よ、お兄ちゃんを……返して!!」

 辺り一面、眩い光で何も見えなくなる。部屋の窓からも光が漏れ、近所の住民や通行人がざわつく。



「イヤだ……、オレはマダ……!」

 強烈な光が身体を槍のように突き刺す。そして、身体が焼けるように熱い。

「グアアアアアアアアアアア!!」



 俺の中にいた黒い何かが身体から蒸発した。俺はその場で倒れ、あまりの苦痛にそのまま気を失った。





 ――しばらく経ち、俺は布団から小さな身体を起こす。

 あれ? なんで俺は寝てたんだっけ、身体はどこも痛くない。

 ……しかし、嫌な夢を見たな。あまり覚えていないけど。



「あ、よかった……、お兄ちゃん大丈夫?」

「ああ、なんともないよ」



 ……ん?

「コユキ、もしかして今……お兄ちゃんって言ったか?」

「うん」

「前から気づいてたのか……?」

「うん、でも確信は無かったから」

「寝言でも言ってたのか? それとも普段の行動自体……」



 俺はがっくりと肩を落とす。それと同時に肩の荷が下りた気がした。

「その、こんな姿になったのはワケがあってだな……。こんな兄じゃ嫌……だよな」

「姿が変わっても、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ。本当に遠くに行っちゃったと思ったんだから……。一緒に居れるんだもん、嫌なワケないよ!」


 もう、嘘をつかなくていいんだ。

 姿が変わっても兄として妹に接することができる、それだけで嬉しい。



「あ、そうだ。夢を見たんだ。コユキが天使みたいになってて……(普段から天使のように可愛いんだが)」

 コユキが視線を逸らし、黙ってしまう。

「なんか、懐かしい気がしてさ。コユキが俺たちのところに来てくれた時のことを、ちょっと思い出して……」

「その、天使のことなんだけど……夢、じゃないよ」

「夢じゃない……? ああ、なんだ。寝起きだからって、からかってるのか」



 コユキがちょっとだけ頬を膨らませた。どうやら本気で言ってたらしい。

「わたし、ちょっと前から悪い人を見ると胸が苦しくなったり、頭が痛くなったりしてたの。気が付くと足元に白い羽が落ちてたりして、白い鳥さんもいないしおかしいなって。」

「そうだったのか……、また天使になれそうなのか?」

「多分すぐには無理……かな。ちゃんとチカラを使ったのはさっきが初めてなの。それに、わたしなんだけど半分わたしじゃない気がして……記憶もちょっとぼやけてるの」



 コユキがこの姿の俺をすぐに受け入れてくれたのも、コユキが天使だという普通のヒトとはかけ離れた素質を持ってるからなのかな。

 しかし、さっきのことが夢じゃないとすると、夢の中で俺はコユキに何をしようとしていたのか……それが思い出せない。

 コユキにそのことを聞こうとしても、濁されてちゃんと答えてくれないのだ。



 そうだ、仕事……。俺は、ふと思い出しスマホを確認する。

 もちろん例の依頼が目に入った。俺はまさか……と思い血の気が引いた、気がする。死神なのにな。

「コユキ、ちょっと行ってくる」

「どこに? ……危ないこと、しないでね?」

「俺が何をしているかは約束で言えないんだ、でも必ずなんとかする」



 俺はそう言うと、いつもの白いローブを羽織り、短い棒状態の鎌を手に取り玄関を飛び出した。

 コユキを巻き込むわけにはいかない。

 絶対に危ない目に合わせない。

 何かいい考えがあるわけでもない。

 というより、考えるヒマがない。

 今やれることをやるんだ。
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