フリーター、魂を刈る。

なつかしすと

文字の大きさ
17 / 38

第15話 償い

しおりを挟む
 俺は炎獣ベルガモットを倒すことに成功し、残るはカルディナのみ。

 カルディナまで少し距離はあるが、一気に間合いを詰めれば逃げられないだろう。

 今のカルディナからは、これまでのチカラより恐れるものを感じなかった。

 しかし、カルディナの今までの言葉が気になり躊躇してしまう。



「絶対に後悔する、それでもいいなら受けて立つわ」



 カルディナはそう言うと、愛鎌である『リーンカーネーション』を構え、赤く光る刃の周りに炎を纏わせる。

 迷う暇はなかった。その姿を見た瞬間、俺の中の闘争本能が勝った。負けたくない、ただそれだけ。

 カルディナは『リーンカーネーション』を思いっきり振るうと炎を纏う衝撃波となり、俺に向かって襲い掛かる。 

 それに合わせて俺は全力で迎え撃つ。愛鎌『スノードロップ』に冷気を纏わせ思いっきり振るう。


 ――ドゴォオオオオオ!!


 それは強烈な吹雪となって炎の衝撃波と激突する。

 しかし、カルディナの発した衝撃波は今までと比べ物にならないほど貧弱だったが、俺の発した吹雪と相殺するには十分だった。

 相殺した際に発した衝撃がお互いを襲い、身体は軽く吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた衝撃でカルディナは気絶。俺もうつ伏せとなり、意識がもうろうとしている。

 あと少し……あと少しでカルディナを。

 それだけを考えて腕の力で前に進む。

 だが、思うように前に進めない。心のどこかで止めを刺さずに済むと安心しているのかもしれない。



「よくやりました、ユミルさん。もう十分ですよ」



 ……絶対にここにはいないはずなのに、聞き覚えのある声。

 カルディナと俺のちょうど間ぐらいの空中に亀裂が入る。そこから細い指が現れる。

 両手でその亀裂を無理やりこじ開けると、中からメフィストが現れた。



「……メフィスト、どうしてここに? 俺はまだ止めを……」

「安心してください、アナタは十分働いてくれました」



 メフィストは満足そうにカルディナの方に視線を向け、ゆっくりと近づく。



「おい、メフィスト。一体何を……」

「ローブを回収するだけデス」

「な!? そんな話聞いてないぞ……!」



 やっぱりメフィストは俺に、俺たちに何か隠している。

 カルディナの言った通り、メフィストの元で働けばろくでもないことになってしまう。

 メフィストはカルディナのローブをゆっくりと脱がせる。傷つけないように優しく。



「おい、それ以上はやめろ。すぐに離れろ……」

 意識が薄れながらも腹這いになり、必至にメフィストに言葉を投げかける。

 しかし、それに対してメフィストは耳を貸す気配はない。



 メフィストはカルディナの着ていた紅いローブを脱がせ終わると、丁寧に畳み右の小脇に抱えた。

 その足元には、今までローブでよく見えなかったが赤みがかった茶髪に白いワンピースの若い女性が横たわる。

 体型はまるで変わっていない。その女性がカルディナだということだけはすぐに認識できる。



 メフィストは満足そうな笑みを浮かべると、背中に黒い蝙蝠のような巨大な翼が生えた。

 その翼を羽ばたかせ、この空間の上にある巨大なシャンデリアに立ち見下ろす。



「もう用済みデスので、ここは破壊してしまいましょう。それと、ユミル……いえ、フブキさん。アナタは約束通りクビです」



 メフィストは左手を掲げ、黒く禍々しい球体を生成し始める。

 まずい、アイツは本気でこの空間を破壊しようとしている。クビとなった今、もう迷う必要はない。



「サヨウナラ、愚かな死神……ではなく『人間』デスね」



 俺は動かないと思っていた身体を無理やり立ち上がらせ、無我夢中でカルディナの元へ駆け寄った。

 次の瞬間、メフィストは生成した巨大な球体を地上に向かって投げつける。

 どうしていいか分からなかったが、とりあえず小さい身体ながらもカルディナの上に被さって必死に守ろうとした。



 凄まじい衝撃の後、音も途絶え、何もない暗闇の中に閉じ込められたような感覚に襲われた。





 ――あれからどのくらい時間が経ったのか分からない。

 お腹のあたりに暖かく柔らかい感触……。

 気が付くと、あの時の路地裏でカルディナの上にうつ伏せで乗っかっていた。

 周りは暗く夜のままだが、月明かりが綺麗なおかげで状況は確認しやすかった。

 カルディナはまだ気を失っている……のか。なんとか助けた……いや、助かったというべきか。

 あの歪はすでに無くなっていて、メフィストの気配もない。ひとまず、安全な場所……家に帰ろう。



 さすがにカルディナをこのままにしておくわけにはいかないよなぁ……。

 顔をよく見たことはなかったが、どことなくあどけなさが残っている。

 もしかして、俺より年下だったりするのか……? 相変わらず胸は立派に成長しておられるようだが。

 とりあえず、俺は小さな身体でカルディナを担ごうと頑張る。しかし、思うようにいかない。

 元の姿ならなんてことないだろうけど、別の問題があるな……。

 まぁ、この姿でも問題はあるんだけど。



 必死で誤魔化し、タクシーで俺のアパートになんだかんだ着くことができた。

 悪いが気持ちよさそうに寝ている妹を叩き起こし、説明もろくにせず気絶したままのカルディナを運ぶのを手伝ってもらった。

 今更だが、俺は取り返しのつかないことをしている……そう実感した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

囚われの姫君の♥♥♥な舞台裏

AIに♥♥♥な質問
ファンタジー
清楚で可憐な王女、魔物を操る敵国に幽閉、肉体改造。何も起きないはずがなく…。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...