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第16話 失職
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「……ここは?」
白いワンピースを着た少女、カルディナがいつも俺とコユキが寝ている布団で目を覚ます。
だが、部屋には誰もいない。
もう昼近くで、もちろんコユキはすでに学校へ行っている。
布団が一つしかないとは言え、流石に俺は一緒に寝られないので適当に横になったりしていたが、気まずくなり食料の買い出しに出かけていた。
ガチャッ。
――玄関が開く音がした。
「誰!?」
カルディナは肩をすくめて少し怯えた様子、驚くのも無理はない。
気づけば知らない場所にいて、誰もいなかったのだ。
「……!! ユミルの偽物、何で……」
「すまん、起きてたのか。腹減ってると思って、その……何が好きか知らないからいろいろ買ってきたんだけど……」
昨日の今日だから何があるかわからなかったから、白いローブを着たまま出かけてしまった。
この格好がカルディナに変な気を起こさせなければ良いが……。
「返してよ……私のローブ、ペンダントも、『リーンカーネーション』も、何もない!! どこ、何処なの、ねぇ!!」
俺の両肩を掴み、必死に問い詰めるカルディナ。その姿は今までの凛とした態度からは想像つかない。
しかし、それに対してどう答えるのがベストなのか考えても出てこない。
「ごめん……盗られたんだ」
「あんたじゃなければ誰に!?」
その問いに今までなら契約でヤツの名を口に出すことはできなかったが、クビとなった以上関係ない。
「……俺のことを雇っていた『メフィスト』ってヤツなんだ」
「メフィストって、まさかあの……」
どうやらメフィストという人物の正体は悪魔で、要注意人物となっているらしい。
しかし、変装や逃げるのも上手く、人を騙すことを得意としているため被害が後を絶たない。
「本当にすまん、謝って許されることじゃないのは分かってる。だから……」
謝って許されることではない、そんなことは分かっている。
だが、どんな顔をしてどんな言葉をかければ良いのか分からない。
「じゃあ、取り返してよ。本当に悪いと思ってるなら」
「ああ、もちろん。あと……このペンダントを」
例の空間から抜けて気が付いた後、近くにペンダントが落ちていた。
メフィストはチカラを失ったこのペンダントに価値がないと思ったのか、単にローブと鎌だけしか眼中になかったのかは分からない。
懐に大事にしまっておいたペンダントをカルディナに渡したが、ボソッと礼を言うだけで暗い表情だ。
「その、それがあればアイツ、ベルガモットを呼べるんだよな?」
「……無理よ、多分。あのローブもないのにチカラが足りるわけない。仮に呼べたとしてもその辺の犬や猫と大差ない姿よ」
どうやらベルガモットを呼ぶにはそれ相応のチカラが必要らしい。
あの時、カルディナが万全な状態ならベルガモットのチカラは更に強大で、勝ち目は無かっただろう。
今のカルディナは死神のチカラはおろか、ベルガモットの召喚も満足にできない。
実質、俺一人でこの問題を解決することになる……だろうか。
何はともあれ、カルディナのローブの奪還が最優先の目標となる。
しかし、メフィストの居場所も分からなければ勝てる見込みもない。不安に押しつぶされそうだ。
「……あんた、無職になったんだよね?」
ボソッとカルディナが口にした言葉が刺さる。しかも、今までしてきたことが犯罪行為にもかかわらず。
「じゃあ、『ハデス社』に来なさいよ。正式に死神になるの」
……ハデス社か、話には聞いていたけど、まさか自分が関係者になる時が来るとは思ってもいなかった。
ハデス社とは、死神を統括、管理している会社。
日本以外にも、世界中に支部があり、魂の循環を円滑にしているのだ。
つまり、ハデス社に所属していない死神は取り締まりの対象となる。
メフィストの元で働いていた自分は、犯罪者だったというわけだ。
「そういえば、あんたの本名聞いてなかったわね。もう契約も無いんだし、教えてくれてもいいんじゃない?」
死神は素性を明かさないのが決まりだが、もう隠す必要もないか。と言うより、隠して良い立場じゃないよな……。
今までユミルの偽物扱いだったことに慣れてしまっていた自分がいる。
「俺は、鎌倉フブキ……です。その、借金があって……返済するために死神に」
カルディナは俺の名前を聞いたときに、何か思い当たる節があるような素振りをしたが、特に何も口にしなかった。
――カルディナは深呼吸をし、少し落ち着いたようで顔が少し明るくなった。
「そうと決まれば向かうわよ、ハデス社がある『トウキョウヘヴンタワー』に」
そう意気込んで立ち上がるが、ふらふらとバランスを崩して倒れそうになる。
「お、おい、大丈夫か!? ってなんか透けてないか……?」
「ハァ!? ど、どこ見てんのよ!!」
誤解を招いたが、服が透けているのではなく、肌が、肉体が消えかけているように見えた。
はっきりとそう見えたわけではなく、目を擦りもう一度確認すると、元に戻っているといった感じだ。
「……隠そうと思っていたんだけど、無理だったかな。私がこうして、この世に居られるのは、死神として契約しているからなの」
俺は、それ以上理由を聞かなかった、いや、聞けなかった。
死神のローブがないと、消えてしまうということは理解できた、それだけで十分だ。
死神になってまで、この世に居たかったってことだもんな……。
――メフィストが姿を消してから、借金の取り立ても姿を見せなくなった。
父さんの借金の原因、父さんが亡くなった時に周りに散らばっていた花びら、俺の本名を聞いたときのカルディナの反応、これで全てが繋がった……。
白いワンピースを着た少女、カルディナがいつも俺とコユキが寝ている布団で目を覚ます。
だが、部屋には誰もいない。
もう昼近くで、もちろんコユキはすでに学校へ行っている。
布団が一つしかないとは言え、流石に俺は一緒に寝られないので適当に横になったりしていたが、気まずくなり食料の買い出しに出かけていた。
ガチャッ。
――玄関が開く音がした。
「誰!?」
カルディナは肩をすくめて少し怯えた様子、驚くのも無理はない。
気づけば知らない場所にいて、誰もいなかったのだ。
「……!! ユミルの偽物、何で……」
「すまん、起きてたのか。腹減ってると思って、その……何が好きか知らないからいろいろ買ってきたんだけど……」
昨日の今日だから何があるかわからなかったから、白いローブを着たまま出かけてしまった。
この格好がカルディナに変な気を起こさせなければ良いが……。
「返してよ……私のローブ、ペンダントも、『リーンカーネーション』も、何もない!! どこ、何処なの、ねぇ!!」
俺の両肩を掴み、必死に問い詰めるカルディナ。その姿は今までの凛とした態度からは想像つかない。
しかし、それに対してどう答えるのがベストなのか考えても出てこない。
「ごめん……盗られたんだ」
「あんたじゃなければ誰に!?」
その問いに今までなら契約でヤツの名を口に出すことはできなかったが、クビとなった以上関係ない。
「……俺のことを雇っていた『メフィスト』ってヤツなんだ」
「メフィストって、まさかあの……」
どうやらメフィストという人物の正体は悪魔で、要注意人物となっているらしい。
しかし、変装や逃げるのも上手く、人を騙すことを得意としているため被害が後を絶たない。
「本当にすまん、謝って許されることじゃないのは分かってる。だから……」
謝って許されることではない、そんなことは分かっている。
だが、どんな顔をしてどんな言葉をかければ良いのか分からない。
「じゃあ、取り返してよ。本当に悪いと思ってるなら」
「ああ、もちろん。あと……このペンダントを」
例の空間から抜けて気が付いた後、近くにペンダントが落ちていた。
メフィストはチカラを失ったこのペンダントに価値がないと思ったのか、単にローブと鎌だけしか眼中になかったのかは分からない。
懐に大事にしまっておいたペンダントをカルディナに渡したが、ボソッと礼を言うだけで暗い表情だ。
「その、それがあればアイツ、ベルガモットを呼べるんだよな?」
「……無理よ、多分。あのローブもないのにチカラが足りるわけない。仮に呼べたとしてもその辺の犬や猫と大差ない姿よ」
どうやらベルガモットを呼ぶにはそれ相応のチカラが必要らしい。
あの時、カルディナが万全な状態ならベルガモットのチカラは更に強大で、勝ち目は無かっただろう。
今のカルディナは死神のチカラはおろか、ベルガモットの召喚も満足にできない。
実質、俺一人でこの問題を解決することになる……だろうか。
何はともあれ、カルディナのローブの奪還が最優先の目標となる。
しかし、メフィストの居場所も分からなければ勝てる見込みもない。不安に押しつぶされそうだ。
「……あんた、無職になったんだよね?」
ボソッとカルディナが口にした言葉が刺さる。しかも、今までしてきたことが犯罪行為にもかかわらず。
「じゃあ、『ハデス社』に来なさいよ。正式に死神になるの」
……ハデス社か、話には聞いていたけど、まさか自分が関係者になる時が来るとは思ってもいなかった。
ハデス社とは、死神を統括、管理している会社。
日本以外にも、世界中に支部があり、魂の循環を円滑にしているのだ。
つまり、ハデス社に所属していない死神は取り締まりの対象となる。
メフィストの元で働いていた自分は、犯罪者だったというわけだ。
「そういえば、あんたの本名聞いてなかったわね。もう契約も無いんだし、教えてくれてもいいんじゃない?」
死神は素性を明かさないのが決まりだが、もう隠す必要もないか。と言うより、隠して良い立場じゃないよな……。
今までユミルの偽物扱いだったことに慣れてしまっていた自分がいる。
「俺は、鎌倉フブキ……です。その、借金があって……返済するために死神に」
カルディナは俺の名前を聞いたときに、何か思い当たる節があるような素振りをしたが、特に何も口にしなかった。
――カルディナは深呼吸をし、少し落ち着いたようで顔が少し明るくなった。
「そうと決まれば向かうわよ、ハデス社がある『トウキョウヘヴンタワー』に」
そう意気込んで立ち上がるが、ふらふらとバランスを崩して倒れそうになる。
「お、おい、大丈夫か!? ってなんか透けてないか……?」
「ハァ!? ど、どこ見てんのよ!!」
誤解を招いたが、服が透けているのではなく、肌が、肉体が消えかけているように見えた。
はっきりとそう見えたわけではなく、目を擦りもう一度確認すると、元に戻っているといった感じだ。
「……隠そうと思っていたんだけど、無理だったかな。私がこうして、この世に居られるのは、死神として契約しているからなの」
俺は、それ以上理由を聞かなかった、いや、聞けなかった。
死神のローブがないと、消えてしまうということは理解できた、それだけで十分だ。
死神になってまで、この世に居たかったってことだもんな……。
――メフィストが姿を消してから、借金の取り立ても姿を見せなくなった。
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