フリーター、魂を刈る。

なつかしすと

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第20話 ローブ職人アネモネ

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 あれから数日、俺はハデス社で順調に任務をこなしていた。

 今までの経験は無駄ではなかった……けど、胸を張って言えることじゃないな。

 カルディナも支給された黒いローブを羽織り、いつもの紅いローブとは違う使用感に慣れようとしていた。

 カルディナ自身のスペックが高いので、苦労することはないだろう。

 RPGゲームで例えるならレベルが最大の主人公が初期装備になったぐらいか。

 とはいえ、死神の強さを大きく左右するのはローブと鎌だ。もちろん油断をすれば命取りとなる。



 俺が簡単な任務を終え、ヘヴンタワーに戻るとカルディナと鉢合わせになる。

 カルディナは俺の顔を見るや否や、

「私のローブの件忘れてないでしょうね?」

 と、冗談交じりに睨んでくる。俺の顔が引きつり、思わず愛想笑いで誤魔化す。

 カルディナは、軽くため息をつくと俺に提案があると言う。



「あんた、死神について興味あるんだよね。そのローブの事とか知りたい?」

「もちろん、今まで何も知らな過ぎたんだ。知っておかなきゃいけない事……だと思うから」



 勉強熱心なことに関心した様子のカルディナは満足げに頷いた。

 なんと、俺の羽織っている白いローブを作った職人の居場所を教えてくれるというのだ。

 このローブだけではない、ほとんどの死神のローブを作っているという凄腕の職人だ。

 死神のローブを作っている人がいるんだ、という少し考えれば当たり前のことに驚いてしまった。

 勝手に装備品が生まれて……なんてファンタジーではなかった。


 ゴウンゴウン……。


 ヘヴンタワーの地下深く、俺やカルディナのヒョウゴクやエンゴクのさらに下、ずーっと下。

 エレベーターでグングン降りていく。

 しばらくすると、エレベーターは静かに止まった。チャイムが鳴り、扉が開く。

 ……そこは、まさに深淵と呼ぶに相応しい空気感。

 暗く静かで、明かりはほとんどない。ただ、道がわかるように小さなランプが点々と設置してある。

 建物の中というより、ごつごつとした岩肌が目立ち、洞窟のようにも思える。

 本当に、こんなところにローブ職人がいるのか不安に思いながらも暗くて見えづらい奥へと慎重に進んでいく。



 すると、おそらく一番奥、木で出来ている古びた家具が配置されている小さな部屋らしき場所に着いた。


 古びたテーブルの上には奥ゆかしいランプが優しく暖かな光を放っている。

 そのすぐ傍には、くすんだオレンジ色のボロボロになったローブを羽織り、フードを深く被った小柄なヒトが、大人しく座っていた。

 テーブルの上には、ランプの他に裁縫道具のようなもの、布切れなどがある。

 このヒトがローブ職人で間違いないだろう。



「あの、あなたがローブ職人さんですか?」

 俺は勇気を出して声をかける。

 静かなこの空間では大声を出せば驚かせてしまうと思いなるべく小さめの声を意識した。

 ……しかし返事がない。聞こえていないのだろうか。もう一度、さっきよりも少し大きめの声で話しかける。



「……おぉ、お客さんかの。耳が遠くてすまないのぉ、ワシがローブ職人をしておる『アネモネ』じゃ」

「いきなりお邪魔し、驚かせてすみません」

 随分と歳を取られたお婆さん、といった雰囲気だ。頑固者で強面の職人とかじゃなくて良かったと一安心する。



「しかし、こんなところにお客さんとは久しいのぉ。……おや、もしかしてあんた、ユミルじゃないのかい? 死神は引退したって聞いてたけど、ちゃんとそのローブもまだ着てくれているのかい、嬉しいねぇ。お菓子でもまだあったかの……探してこようかね」

 アネモネは、ずいずいと近づいて俺を見る。

 職人のフードの中には肉体のようなものは確認できず、暗い闇の中に赤い明かりが2つ、それは目のように見える。

「ちょちょちょ、ちょっと待って! お気遣いは嬉しいですけど、お菓子は結構です。あと俺、ユミルじゃなくて、フブキと申します!」

 お婆さんが久しぶりの孫にあったかのようなトークに押されてしまいそうになる。やはり、このヒトもユミルを知っていた。



「……おや、ユミルじゃないのかい。しかし、その白いローブは間違いなくユミルのものじゃな。作ったワシが言うんじゃ、間違いない」

「このローブを作った……あなたが……」

「じゃが、ユミル以外がそのローブを着れるとはのぉ。少なからずお前さんはユミルと何かしらの縁がありそうじゃな、フェッフェッフェ……」


 アネモネは不気味に笑った。俺とユミルに縁……?

 このヒトは適当に言ったのかもしれないが、本当にそんなことがあるのだろうか。


「その、いきなりなんですけど、俺のせいでカルディナっていう死神のローブを悪いヤツに奪われてしまったんです。だから、量産の黒いローブじゃなくて、代わりのモノをどうにかできないかなって……」

「……おや、カルディナちゃんの知り合いかい。カルディナちゃんを死神の世界に入れたのはユミルなんじゃよ」

「へ? それってどういう……」



「ふむ……、少しだけ話そうかの。カルディナちゃんは若くして交通事故で亡くなったんじゃよ。生きたいという強い意志を持って現世を彷徨っておったんじゃ。それをユミルが可哀そうに思った、それだけじゃあない、死神としての才能を見込んだのじゃ」

「え? じゃあ、今のカルディナって……まさか幽霊!?」

「なあに、慌てるでない。ちょうどその頃、ワシの新作で力作の紅いローブの適合者を探しておってのぉ。ワシはムチャだと言ったのじゃが、ユミルは聞かずにカルディナの魂にローブを羽織らせたのじゃ。それが上手くいってしまっての……」

「俺、そんな大事なものを……早く取り返さないと!」

「そうじゃな、あのローブこそカルディナが肉体を保っていられる理由の一つじゃからな。あまり時間が経つと……分かっておるな?」

「……はい。そ、それで、代わりのローブを!」



「ない」



 ――驚くほど即答だった。



「え?」



「ないものはない。ワシも、もう年じゃから新しいモノを作るのはシンドイのじゃ、すまんのぉ。黒い普通のローブでも、応急処置ぐらいの役割は持てるじゃろうて」

 俺はその言葉を聞いて、悔しいことに少し安心してしまった。……ただ慌てればいいわけではないのだ。



 ローブを作る職人がいて、それを着る死神がいる。このことをもっと早く知っていたら……。

 俺は、ローブ職人アネモネに礼を言うと、その場を後にした。
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