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第二十四話 正義はどちらにあるのか その3

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「動くなッ!!」

 オドに向かって槍先が向けられた。

「ぬぅ!?」
「おのれ、化け物め!! よくもこんなことをッ!!」

 教会を焼いたのはオドのせいになっている雰囲気だった。それに対して、言い訳をしようとは思わなかったオドは静かに立ち尽す。腰を抜かせているマーガレットに部下が心配したように声をかける。

「騎士長、ご無事ですか?!!」
「あ、あぁ……」
「今、お助けします!!」 

 マーガレットの副騎士長のギリオンの姿もあった。ギリオンが剣を構え叫んだ。
 
「総員、斬撃陣形!!! かかれッ!!」

 ギリオンの号令と共にフェレン聖騎士たちは一斉に円を描くようにオドを囲み、波状攻撃を仕掛ける。

「はぁあああっ!!」
「うぉおおお――――ッ!!!」

 掛け声とともに四方八方から駆け込んできたフェレン聖騎士に対して、オドは焦る様子はなく、静かに斧を構える。ガチャリと音を立てた斧に視線を落とし思考をめぐらせたあと、つぶやく。

「……無駄な殺生は好まぬ。しかし、我らが憎きフェレン聖騎士だ。しばらく行動不能にはさせてもらおうか」

 オドは斧を投げ捨てて拳で構える。まるで、武道家のような構えにフェレン聖騎士たちは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。迫りくる刃を前にオドは一歩踏み出すと、フェレン聖騎士の胸部に強烈な一撃を打ち込んだ。

「ぐふっ!?」
「まずは一人!」

 続けてオドはもう二人の腹部に同じ攻撃を繰り出す。衝撃はすさまじく、鋼鉄製の鎧が砕け散り、身体をくの字に曲げた。

「二人!」

 さらにオドは三人目の顔面に掌底を放ち、吹き飛ばす。

「三人!」

 そして、四人目は振り下ろしてきた剣先を避けることなく、素手で受け止める。

「ばかなっ??! 銀の剣だぞ??!!」

「ふんっ。魔物に対して銀の剣がすべてに有効だと思っているところが己らのおごりだ」
「くそったれぇえええええ!!!」

 叫び声と共に力いっぱい、オドは掴んだ剣を握りしめ、そのままへし折って、右ストレートをお見舞いする。飛んで行ったフェレン聖騎士はそのまま二人を巻き込んだ。

「四人、五人、おっと六人目だったか」

 七人目の頭部を鷲づかみにすると地面に叩きつける。土埃が舞い上がり、オドの手の中で、フェレン聖騎士は白目になっていた。ぐったりとしている仲間を見て、攻撃の手を止めてしまう。どよめき声と共に悲鳴じみた声で言う。

「ギリオン副騎士長??!! こいつ、ただのオークじゃあありませんよ!!」
「そんなことは見ればわかる!! 全員で、かかれぇえええ!!」

 フェレン聖騎士らが一斉に飛び掛かった。しかし、オドはそれを嘲笑うかのように鼻で笑う。

「愚かなり!!」

 オドは再び、構え直すと今度は自らフェレン聖騎士たちの方へと突っ込んで行った。次々にねじ伏せていき、ギリオンへと迫る。

「おのれ、バケモノめ!!!」

 そう叫び、ギリオンは剣を振るう。しかし、虚空を切り裂くだけだった。

「ばかなっ?!」

 驚愕するギリオンの腹部に強烈なパンチが叩き込まれる。

「ぐふぅっ!?」

 腹を押さえて倒れ込むギリオン。その頭部にオドの手刀が振り下ろされた。

「かはぁ……」

 そのまま地面に突っ伏した。一瞬で、三十人のフェレン聖騎士を全員、黙らせたのである。それも、手加減をしている。本気になれば、この場にいる全ての人間を殺すことも可能だったことは誰が見てもわかる。

「さて、力の差をその身で味わったことだ。この辺りでお互いの為にも無駄な戦いはやめておかないか?」

 マーガレットは戦うつもりはなかった。上級聖騎士と対等、もしくはそれ以上の魔物に戦う術はない。苦笑いするしかなかった。するとオドが何かに感づいた。視線を向けると地面にできた影が徐々に大きくなり、そこからリベルが現れた。その光景を見ていた帝国兵たちからどよめき声があがる。

「オドッ!!」
「ぬ。リベルか。何しに来た?」
「何しに来た? じゃないわよ!! あなた、一体何をやっているの?!」
「見ての通りだが……?」

 オドはそう言うと視線を向ける。そこにはフェレン聖騎士たちが横たわり、気絶していた。リベルも一瞥したあと、ため息をつく。

「殺してはいないようね……慈悲でもかけたつもりかしら……?」

 最後の声は小さくてオドには聞こえなかった。もう呆れた、と肩を竦める。

「ところで、おぬしが何故ここにいるのだ?」
「なぜ来たのかもわからないの? この低能……」

 侮辱した言葉にオドは反応は示さなかった。侮辱されたとは思っていないからだ。それはリベルも理解していないということをわかっていたので、話を続ける。

「いい? 我らが、魔、あ、……コホン。我らが忠誠を誓うお方がお怒りですよ」
「ぬっ……。我が至高なるお方が、か……?」
「命令違反までしたんだから。怒られるのも仕方がないわね」
「……」
 
 オドは遠くで様子を伺っている女の子へとチラリと見る。静観しろ、と命じられたにもかかわらず、自分が行った行動がよかったのかどうかを考えた。しかし、オドは自分が間違っていたとは思わなかった。その態度を見抜いたリベルは怒りを覚えたが、自分がとやかくいう立場ではないと考え、またため息を吐く。

 切り替えるように、リベルは待機していたオークの兵士たちへ告げる。

「これは我らが忠誠を誓うお方の命令である。兵士たちよ、しかと聞け。帝国兵よ。自らの行いに悔い改めよ。汝らに等しく、死の罰を与える。一人残らずだ。捕虜は一切、捕らない!!」

 オークたちが鼻息を荒らす。手に持っている武器を構えた。リベルが追加で言う。

「待て! フェレン聖騎士たちは生かしておくようにせよ!」

 その命令にオークたちは「ブヒィィイイッ!!」とオーク兵らは雄たけびをあげながら、帝国兵士たちに襲い掛かる。悲鳴を上げながら逃げ惑う兵士もいたが、すぐに捕まり殺されていった。フェレン聖騎士たちには一切見向きもせず、ただひたすらに帝国兵を殺し続ける。その様子を見ていたギリオンは呆然とした。

「な、なんなんだ……。なんで……なんで、あいつらは……俺たちを殺さないんだ……?」
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