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第二十八話 死者には安らぎを。 その2

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「そうだ。みんなで死者を弔うための祭りをしましょうよ!」

 その声に俯いていた住民たちが一斉に顔を上げ、ロランへ視線を向ける。

「みんなで、弔おうよ! どうだい? お酒や音楽、美味しい料理を食べて、みんなで騒ごうじゃないか!」

 住人たちは戸惑うような顔をした。それもそうだ。大切な人が死に今、土の中にいるのだ。それなのに生き残った自分たちが美味しいご飯を食べて、酒を飲み、楽しんでいいのだろうかと。考えただけで耐えられないほどに辛いはず。

「死んだ人たちの為にも、残された僕たちは元気にやっていくからね!と伝えるためでもあるんだよ」

 ロランの説明に誰もが項垂れる。しばらく、沈黙が続くとレオが視線を上げた。

「私、みんなのためにもお祭りがしたい」

 レオの言葉に住民たちは互いに顔を見合わせる。それでも賛同することに躊躇いがあった。

 そんな中、若い男が声を上げる。
 
「みんな、やろうじゃないか! 俺たちが元気だって、頑張ってお前たちの分も生きていくからなって!」

 生き残ったソリアの住民たちは頷き合い、若者の一声に頑固そうなハゲた男が手のひらを拳で叩いた。

「よぉし! その提案、俺は乗ったぞ!! てめぇーら! 早速準備だ!」
「「「「おぉー!!!」」」

 掛け声と共に住民たちはお祭りの準備に動き出す。それに満足げに頷いたロランは小さく声を発する。


「リベル」

 呼ばれたリベルがすかさず、地面から現れ、恭しく頭を下げる。

「御身の前に」
「舞台を用意して。それと、たーくさん、お酒もね」

 その言葉に彼女の眉がはねたが「仰せのままに」と言って、リベルは地面に消えていった。

「これで、少しはみんな元気になってくれるといいんだけど……」

 ロランが呟いた。


 ♦♦♦♦♦


 しばらくして、街の中心にある広場に大きな舞台が組まれていた。そこに松明が置かれ、ステージの前には大勢の住民が座っている。メイド服を着た獣たちが料理を運んでいた。それを見て、住民は感嘆の声を上げる。

「おい、あれってまさか獣人のメイドか?」
「信じられん。こんなにも美しいとは……」
「うわ、すげぇ、マジでかわいい。あの兎耳のメイドとかどうだ」
「いやいや、あの猫耳の子とかどうだ。モフモフしてて可愛いぞ」
「魔王様はあんな美人の獣人たちに囲まれているのか、なんてうらやましい……」

 そう言いながら住民たちは興味津々と見ていた。そんな住民の前にオークたちが次々に酒樽を運び込む。それを見て、住民たちは大喜びする。

帝国軍に食料は何もかも持ち去られ、明日食べる物すらなかった彼らにとって、無料で提供されることに感謝しかなかった。誰もが、我先にと両手いっぱいに食べ物や酒を抱え込んだ。

 そして舞台の上に一人のメイド服を着たハーピーが立つ。礼儀正しくお辞儀したあと、いきなり服を勢いよく脱いだ。するとお洒落なフリル付の衣装へと早変わりする。

「みんなーこんにちは~みんなの歌姫カイリちゃんだよ~!!」

 可愛らしい声と共に手を振ると魔物たちが歓声をあげた。住民たちは誰なのかわからなかったが、魔物たちに合わせて戸惑いながらも手を振った。

「さぁさぁ、楽しんでいってくださいね! 今日は無礼講ですよ!!」

 さらに盛り上がる魔物たち。

「じゃあ、まずは乾杯しましょう! カンパーイ!」
「「「カンパ―――イッ!!!」」」

 手に持ったグラスを掲げる。中には果実酒が入っていた。それを一気に飲み干す。

「じゃあ、早速、カイリの自慢の歌を歌いまーす!」

 おぉ、と盛り上がる観客。

「ではでは、ミュージックスタート~!!」

 指をパチンと鳴らした。するとどこからか音楽が流れ始め、足でリズムを取り、それに合わせるように歌い始める。その歌声は心が癒されるような美しくてきれいなものだった。まるで、賛美歌のように清らかで、それに住民たちは聞き惚れる。誰もが歌を聴くことに集中していた。

「ほぉ……これはなかなか」
「素敵ねぇ」
「うむ。これは良いものだ」

 住民たちは満足そうに何度もうなずいていた。そんな中で、レオがロランの隣に座って言う。

「カイリさんの歌すごくいいですね」
「ふふふ。僕自慢の歌姫なんだぞ」

 ロランは嬉しそうに微笑んだ。

「まぁ、カイリはハーピーだから歌が上手くて当然なんだけどね」
「でも、とても素敵な歌です」
「そうだろそうだろうとも。僕の次ぐらいには上手いんだぞ」

 そういって、ロランは胸を張り、得意げに言った。その表情にレオは思わず笑みを浮かべた。そして、何かを思いついたように両手を叩く。


「あ! そうだ。レオも一緒に歌ってみるかい?」
「えっ? 私もですか!?」
「うん。カイリと一緒に歌えばきっと楽しいよ」
「で、でも、わたし、一度も歌ったことないですよ???」
「大丈夫だって。僕が教えてあげるよ」

 ロランはそういうと、レオの手を引いて立ち上がらせる。

「ほら、行くよ!」
「あっ、ち、ちょっと待ってください!」

 カイリの歌が終わったあと、舞台の上にロランとレオが立っていた。勢いで、立たされたレオは戸惑う。大勢の観客の視点が二人へと向けられ、歓声があがった。顔を真っ赤にしたレオはロランの後ろへと逃げようとするも腕を引っ張られて、隣に立たされる。

「ひぃ?!」
「ほら、僕がリードするから!」

 そういって、ロランは肩に手を回すとレオを抱き寄せた。レオの顔はさらに赤く染まる。

「はい、じゃあいくよ!」

   無理やり、ロランはレオの口元へマイクを向ける。

「まっ、まって……」
「レッツゴー!!」

 ロランが声高々に叫ぶと同時に曲が始まった。歌い出しはカイリから。彼女の静かな入りから、ロランが歌い、徐々に盛り上がるように歌う。緊張して震えているレオだったが、ロランはそれを気にすることなく歌い続ける。

 時より、レオに視線を向けて、微笑んだ。

 レオもそんな姿のロランにつられるようにして気が付けば口を動かしていた。

 消え入りそうな声からロランにもっと声を出して、と言われて、腹から声を出してみた。

 よく見れば、観客もみんな肩を組み、魔物と人間が楽しく笑い合い、笑みを浮かべている。決して、相並ばないはずの存在が今、この瞬間、歌を通じて、手を取り合っているのだ。

 人間は魔物を恐れ、魔物も人間を恐れていた。でも、それは当事者同士ではなく、顔を見たこともない相手を忌み嫌っていただけだ。こうして、隣に立ち、会話をし、分かり合えることができる。そんな光景を見て、レオは目頭が熱くなる。涙が出そうになったが、ぐっと堪えた。

(――――あぁ、これが……)

 帝国軍が街を焼き払ったあの時、ロランに出会った時からずっと思っていた。なぜ、こんなにも魔物たちは優しいのだろうかと……。それは統べるロランが最も人を愛しているからなのではないか。そう思い、レオは歌い続けるロランの横顔をチラリと見た。ロランは本当に楽しそうだった。歌を歌っていることが心の底から幸せだと言わんばかりだ。その姿はとても輝いて見えた。

 やがて、曲が終わり、大きな拍手に包まれる。

「すごいじゃないか! 初めてなのにあんなに歌えて!!」

 ロランは興奮気味にレオの両手を握って振り回す。レオは戸惑いつつも、笑みを浮かべた。

「あ、ありがとうございます」
「いやぁ、君のおかげでいい思い出ができたよ!」

 ロランは満面の笑顔でそう言った。それから夜遅くまで宴が続いた。レオは終始、笑顔で、すっかりと悲しみは忘れてしまっていた。悲しみに包まれていたソリアの街の住民たちもすっかりと元気を取り戻し魔物と手とつないで、ダンスする。
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