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第四十話 ソリアの街 その4
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「なるほど。それでどうだった?」
エイラムの言葉にマーガレットは一度、言いよどむ。
「それが我々が着いた時にはすでにいなくなっていたんです。被害も全く出ておらず、一人も死人を出しておりませんでした」
「いなくなっていた?」
「えぇ。そうなんです。そもそも現れたのかも怪しいかと」
確かに街の住民たちのあの落ち着きようからして、強大な魔物が現れたにしては、あまりにも静かすぎる。それに本当に脅威となるほどの相手ならば、住民に大きな被害が出ているはずだ。それがないということは……
エイラムが顎に手を当て考えた。
「では、誤報告だった、ということですか?」
アリシアの問いに対して、マーガレットはそういうことになります、と答えた。なんとも歯切れの悪い回答だ。辻褄はあってはいるが、何かが引っかかる。だが、それしか答えがない以上、そう言うしかないだろう。
その後、軽く話してから二人は会釈した後、しばらくこの街へ駐屯すると伝えて去って行った。フェレン聖騎士の部隊が駐屯しているのであれば、この街に魔物による危険はないだろう。
だが、なぜ、駐屯する必要性がある? 疑問を残しつつも、これ以上の発展はないと考えたエイラムは洗い物をしているオドの背中に尋ねた。
「一泊しても?」
「一泊銀貨八枚(八千円)だ」
「え、高っ?!」
アリシアが驚き声をあげる。それにオドは振り返り、指を二本たてて言った。
「二人でだ」
「え、安っ?!」
高い料金だったので、一人当たりだと思ったが、むしろ二人合わせてその値段だという。どんだけ良心的なんだよと思いながらそもそも商売をする気があるのか、この店は。
とりあえず、エイラムは手持ちの金を確認する。余裕であるので、銀貨を8枚取り出して、カウンターの上へ置いた。
オドは確かめることもなく、受け取っていた。そして、銀貨を受け取った代わりに部屋の鍵を渡してきた。
「二階の一〇一号室だ。風呂は一階に共同浴場があるが、時間制で夜7時から朝6時までだ。あと、飯は1階の酒場で食える。それじゃあ、ごゆっくりとな」
オドはそう言って奥へと引っ込んでいった。ユイもその後ろを追いかける。一度、立ち止まって、手を振ってきた。アリシアは小さく手を振り返した。ユイを見送ったあとエイラムは鍵を持って、階段を上り始める。それにつられて、アリシアもついて行く。
エイラムが扉を開けて中に入る。
部屋の中はベッドと小さなテーブルに椅子。シンプルではあるが、清潔感がある。アリシアが一番にベッドへ腰を下ろし、背伸びして大きく息を吐く。
エイラムと椅子に腰をかけた。
「無駄足でしたね~」
と少し嬉しそうに言うアリシアにエイラムは苦笑する。確かに彼女の言う通り、何事もなかったのは良かった。しかし、フェレン聖騎士団の上層部が今回動いている。何か裏がありそうだ。それも、ただの誤報告ではない気がする。街中から何かの魔のオーラを感じていた。残り香というべきか。なにか強大な魔物が立ち寄った痕跡が残っていたのだ。それを搔き消そうと妙な魔法の力も感じる。
本当に何もせずに立ち去ったのか。それとも街全体に何かの魔法をかけているのか。引っかかるのはそれだけではない。マーガレットの存在だ。彼女も闇のオーラを感じることができるはず。なのに、何も報告をしてこなかった。
考えれば考えるほど、疑問が残る。エイラムは頭を掻いて、これからどうするか考えていた。
アリシアはもう眠たそうに瞼を擦っていた。 エイラムはそんなアリシアを見て、肩を落とす。
結局、今日は進展なし、か。そう思いつつ長旅だったので、ひと眠りすることにした。まず、扉に罠を仕掛ける。ドアノブに糸をくくり、鈴をつけた。これにより、扉が動いたときに鳴る仕掛けだ。窓にも同じく細工を施す。これで、侵入者があればすぐに気づくだろう。
念のため、寝ている間に襲撃されてもいいように、エイラムは部屋の中に魔法を唱えた。
『―――サーチ―――』
薄い緑色の幕のようなものが部屋の壁や床へと張り付き、消えていった。魔力の波動を飛ばし、周囲の気配を探れるようにした。扉の向こう側や窓の近くで動きがあれば反応する仕組みだ。話し声も聞こえる魔法だ。ふとアリシアへと視線を向ける。どうやら眠っているようで、いびきをかいている。
「……警戒心がなさすぎる」
と呆れつつも、まぁ仕方がないか、とつぶやいた。外で待機している部隊には連絡はしない。誰かが様子を伺っているかもしれないし、自分と同じく魔法感知の魔法を使っている者もいる。だから広範囲 のサーチの魔法を部屋だけにとどめたのである。これなら、部屋に近づかなければ魔法を使っていることを感知されることはない。それにこの程度の魔法であれば、冒険者や魔法使いは良くしているので、疑われることはないだろう。
エイラムはひと段落したと腰につっている長剣の留め具を外し、手に持つと抱えるようにベッドに横になった。アリシアは変わらずに眠っている。
エイラムの言葉にマーガレットは一度、言いよどむ。
「それが我々が着いた時にはすでにいなくなっていたんです。被害も全く出ておらず、一人も死人を出しておりませんでした」
「いなくなっていた?」
「えぇ。そうなんです。そもそも現れたのかも怪しいかと」
確かに街の住民たちのあの落ち着きようからして、強大な魔物が現れたにしては、あまりにも静かすぎる。それに本当に脅威となるほどの相手ならば、住民に大きな被害が出ているはずだ。それがないということは……
エイラムが顎に手を当て考えた。
「では、誤報告だった、ということですか?」
アリシアの問いに対して、マーガレットはそういうことになります、と答えた。なんとも歯切れの悪い回答だ。辻褄はあってはいるが、何かが引っかかる。だが、それしか答えがない以上、そう言うしかないだろう。
その後、軽く話してから二人は会釈した後、しばらくこの街へ駐屯すると伝えて去って行った。フェレン聖騎士の部隊が駐屯しているのであれば、この街に魔物による危険はないだろう。
だが、なぜ、駐屯する必要性がある? 疑問を残しつつも、これ以上の発展はないと考えたエイラムは洗い物をしているオドの背中に尋ねた。
「一泊しても?」
「一泊銀貨八枚(八千円)だ」
「え、高っ?!」
アリシアが驚き声をあげる。それにオドは振り返り、指を二本たてて言った。
「二人でだ」
「え、安っ?!」
高い料金だったので、一人当たりだと思ったが、むしろ二人合わせてその値段だという。どんだけ良心的なんだよと思いながらそもそも商売をする気があるのか、この店は。
とりあえず、エイラムは手持ちの金を確認する。余裕であるので、銀貨を8枚取り出して、カウンターの上へ置いた。
オドは確かめることもなく、受け取っていた。そして、銀貨を受け取った代わりに部屋の鍵を渡してきた。
「二階の一〇一号室だ。風呂は一階に共同浴場があるが、時間制で夜7時から朝6時までだ。あと、飯は1階の酒場で食える。それじゃあ、ごゆっくりとな」
オドはそう言って奥へと引っ込んでいった。ユイもその後ろを追いかける。一度、立ち止まって、手を振ってきた。アリシアは小さく手を振り返した。ユイを見送ったあとエイラムは鍵を持って、階段を上り始める。それにつられて、アリシアもついて行く。
エイラムが扉を開けて中に入る。
部屋の中はベッドと小さなテーブルに椅子。シンプルではあるが、清潔感がある。アリシアが一番にベッドへ腰を下ろし、背伸びして大きく息を吐く。
エイラムと椅子に腰をかけた。
「無駄足でしたね~」
と少し嬉しそうに言うアリシアにエイラムは苦笑する。確かに彼女の言う通り、何事もなかったのは良かった。しかし、フェレン聖騎士団の上層部が今回動いている。何か裏がありそうだ。それも、ただの誤報告ではない気がする。街中から何かの魔のオーラを感じていた。残り香というべきか。なにか強大な魔物が立ち寄った痕跡が残っていたのだ。それを搔き消そうと妙な魔法の力も感じる。
本当に何もせずに立ち去ったのか。それとも街全体に何かの魔法をかけているのか。引っかかるのはそれだけではない。マーガレットの存在だ。彼女も闇のオーラを感じることができるはず。なのに、何も報告をしてこなかった。
考えれば考えるほど、疑問が残る。エイラムは頭を掻いて、これからどうするか考えていた。
アリシアはもう眠たそうに瞼を擦っていた。 エイラムはそんなアリシアを見て、肩を落とす。
結局、今日は進展なし、か。そう思いつつ長旅だったので、ひと眠りすることにした。まず、扉に罠を仕掛ける。ドアノブに糸をくくり、鈴をつけた。これにより、扉が動いたときに鳴る仕掛けだ。窓にも同じく細工を施す。これで、侵入者があればすぐに気づくだろう。
念のため、寝ている間に襲撃されてもいいように、エイラムは部屋の中に魔法を唱えた。
『―――サーチ―――』
薄い緑色の幕のようなものが部屋の壁や床へと張り付き、消えていった。魔力の波動を飛ばし、周囲の気配を探れるようにした。扉の向こう側や窓の近くで動きがあれば反応する仕組みだ。話し声も聞こえる魔法だ。ふとアリシアへと視線を向ける。どうやら眠っているようで、いびきをかいている。
「……警戒心がなさすぎる」
と呆れつつも、まぁ仕方がないか、とつぶやいた。外で待機している部隊には連絡はしない。誰かが様子を伺っているかもしれないし、自分と同じく魔法感知の魔法を使っている者もいる。だから広範囲 のサーチの魔法を部屋だけにとどめたのである。これなら、部屋に近づかなければ魔法を使っていることを感知されることはない。それにこの程度の魔法であれば、冒険者や魔法使いは良くしているので、疑われることはないだろう。
エイラムはひと段落したと腰につっている長剣の留め具を外し、手に持つと抱えるようにベッドに横になった。アリシアは変わらずに眠っている。
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