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第五十一話 聖剣エクス争奪戦

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 早朝、森の中を静かに武装した帝国の騎士たちが忍び足で進む。丘の上に集まった総勢50名のシルビアの親衛隊員は神妙な面立ちで、丘の下に野営する魔物の群れの様子を伺っていた。

 そんな中で、アストラインとリアが先行して、他は少し離れた場所で待機させる。

 見晴らしの良い丘からアストラインは野営地を見渡した。

「なんだ、あれは……?」

 アストラインが見たのは魔物たちが人間のように鎧を着込み、そして、周辺を警戒に当たっている姿だ。遠目では分かりにくいが、その魔物たちは死霊騎士なのだろうと判断した。それにしても装備はバラバラでどこかの王国に所属していたであろう立派な鎧を身に着けている骸骨騎士までいた。

 アストラインは記憶をたどりながらつぶやく。

「エンベルク王国に、カルロムス王国、それにテアエステン帝国の騎士か。ずいぶんと大集合じゃないか」

 どれも、とうの昔に滅んだ王国ばかりで、そんな亡国の騎士たちがなんの目的で集まっていることにアストラインは疑問を持った。

 骸骨となった騎士たちを見ながら言う。

「リア、どいつだ。強そうなのは?」

 隣にいるリアに視線をチラリと向ける。彼女はアストラインと同じく、野営地に視線を巡らせていた。多くの幕舎を見た後、野営地の中央にいる黒髪の少年と少女を見つけた。そして、黒髪の少年へを指さす。

「あの子。かなりヤバいと思う」

 アストラインはその言葉に、指先を追うように視線を向けた。そこには黒髪の少年少女が何かの会話をしているように見える。

「ヤバいやつは二人いるといったな?」
「うん。はっきりしないけど」
「なるほど。どっちかはわからないということか。なら確かめてみるか」

 アストラインは黒髪の少年を見て、ニヤリと笑みを浮かべたあと後方で待機している狙撃手のルマンを呼んだ。すぐにルマンが駆け寄ってくる。アストラインは顎をしゃくって少年を示す。それを受けてルマンも黒髪の少年へ注目した。

 その顔を見て、へへと汚い笑みを浮かべたあと、持っているクロスボウガンを取り出し、ばれないように様子を伺いながら丘を下っていった。

「モルゴ、キデンお前らもいけ」
「へい」
「あいよ。隊長」

 アストラインの言葉に従い、二人の騎士が下っていく。



 ♦♦♦♦♦♦




 岩陰に隠れたルマンはクロスボウガンを構えた。左目を閉じ、照準を合わせる。狙う先は黒髪の少年だった。


「へへ。この距離なら外れねぇーぜ」

 そう言って引き金に指をかける。同じく、他の場所でモルゴとキデンもクロスボウガンの矢を装填し構えていた。放つのは一斉に。お互いに目くばせしたあと、同時に放った。三方向からの同時射撃。これならば外さない。

 だが、次の瞬間に信じられないことが起こった。黒髪の少年へボルトが届く前にポニーテールの女騎士が前に出て、剣を一閃させたのだ。それも凄まじい速さで、移動し、3つのボルトを全て叩き落とした。その光景を見て、ルマンは驚きの声をあげ、顔を上げた。

「な、斬り落としただと?!」

 狙撃の腕は誰にも負けないという自信があった。だから、今回も眉間を射抜いたとそう思っていた。

「くそったれ! ぶっ殺してやる」

 そういって、ギデンが急いで次のボルトを再装填しようとしたが遅かった。既にポニーテールの女騎士が目の前にいたからだ。

「な、なに?!」

 慌ててクロスボウガンを投げ捨て、腰に差した短剣を引き抜くも、凄まじい速さで横一文字に薙ぎ払われた。

「へ?」

 短剣ごと両断され、上半身と下半身が分かれる。血を吹き出しながら倒れたギデンの死体を前に、モルゴは悲鳴をあげて、クロスボウガンを投げ捨てて、逃げようとする。そこに騒ぎを聞きつけた骸骨騎士たちが駆け付け、槍を投擲し始める。無数の槍が飛来する。男の野太い悲鳴があがった。

 その一瞬の隙にルマンはクロスボウガンを再装填し終え、謎の女騎士へと狙いを定め、背中を狙って放った。しかし、剣を背中に向けて、防いだのである。まるで、後ろに目があるのかと錯覚するほどの反応の良さを見せた。

「ちくしょうが!!」

 腰に下げていた長剣を引き抜き、剣を振り下ろす。金属音が鳴り響いたあと、青白い顔の女騎士は一歩下がって剣を構え直し、目を細めた。その表情には怯えの色はなかった。

 ルマンは隠し持っていた短剣を投げつける。しかし、それを驚くとこもなく、弾き落とした。

「飛び道具など、無意味!」
「ざけんな。ゾンビやろうが」

 ルマンが吐き捨てるように言った直後、一気に踏み込んで来た。慌てて、剣を横に振るも、女騎士は姿勢を低くし、避けてみせた。

 腹部に激痛が走る。恐る恐る腹部を見ると、そこには深々と剣が突き刺さっていた。

「魔物が……」

 力なく倒れると、そのまま息絶える。どさりと倒れ込んだところを見届けた。留めにと背中に剣を突き立てる。どこまでも抜け目がないことにアストラインは目を細めた。

 ポニーテールの女騎士。漆黒色の鎧を身にまとい、剣の腕は間違いなく、洗練されている。ただの騎士ではないとすぐにわかった。

 鎧にある紋章にアストラインはどこか見覚えがあった。どこで見たのか思い出そうとしていたとき、背後から声をかけられた。

「あいつら、捨て駒に使っただろ?」

 振り返るとそこには若い少年騎士が不機嫌そうな顔をしていた。男なのに妙に肌がきれいで、どこか中性的な美しさを放っている。女々しさもあり、前髪をいじりながらそう言ってきたのだ。

 アストラインは肩をすくめてみせた。リアも薄々はわかってはいたが、何も言わない。視線をそらした。

 どうせ死ぬなら、役に立てと命令を下したのは事実だ。それが彼は気に入らないようだった。
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