異世界に転生しようとしてモブ男子に生まれ変わったある少女の話

第1章

2. はじまり

「この展開は最高だわ…」

布団の温もりと今読んでいる漫画のシーン、転生した美少女主人公を抱きしめるイケメン王子、そしてキ…

「あっつ、布団の中あっつい…！」

パタパタ、と手で仰ぎながら思い出す。
そういえば明日友人と遊びに行く約束していたっけ。
あまり遅くまで起きていると朝起きられないからなー、とスマートフォンの画面を閉じ、そっと目を閉じた。

このまま夢の中で転生してくれないかな…。
そして、そのままあわよくば目が覚めず転生先の世界でイケてる主人公、略してイケ主として、末永くお幸せな人生を送りたい。
あ、可能ならイケメン王子とくっつけて…ほし……

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おはようございます。
昨晩も転生はできませんでした。
これから準備のお時間です。

「えっと、待ち合わせは普段と違うところか。これどうやって行くんだ？えーつと…線乗り換えからの、ふんふん…おっけ、まあ何とかなる」
「独り言で何言ってるの？」
「ちょっと、お母さん、いつの間に」
「ご飯、ちゃんと食べてから行きなさいよー」
「わかってるって」

独り言は大分多い方だと思われる。
大分恥ずかしい。
大分穴があれば入りたい。

「いってきまーす」
「あんまり遅くならないようにねー？」
「はいはーい」

ガチャン…ガチャ、と玄関の扉と鍵が閉まったのを確認して歩き出す。

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待ち合わせのはずのカフェがあった建物は、何でだか工事中になっていた。
建物を建て直す予定というようなことが看板から分かった。
友人からちょっと前にメッセージが入っており、別のカフェで待ち合わせだそう。
やれやれ、と思い歩き出そうとした時だった。

「ちょっと、ごめんね？」
「え？」

振り向いたあと、じわっ、とお腹の辺りが熱くなった。
視線を向けると、見知らぬスウェット姿の男、続けて手に包丁、周りに数人いた人たちの叫び声で、ハッ、と下を向いた。

(………服、血が付いてんじゃん)

いや、こんな展開ある………？
いくら転生したいって常日頃思ってたけど、こんな知らない人に血を付けられてなんか熱くて、あれ痛くなってきた…いやそんな痛い思いしてまでではなかったよ？
あれ？

「ーーーちゃん！！！いやぁぁ！！」

あれ？友人、そこにいたの。
ごめん、服に血が付いちゃって、着替えたいから一回家に帰ってもいい？

「あ……」

言葉が出ないや。
眠くなってきた。

意識の遠くで友人の泣き声と、多分救急車のサイレンが聞こえた辺りで、私は眠ってしまった。