異世界に転生しようとしてモブ男子に生まれ変わったある少女の話

第1章

3. 転生したけれども

「ーい、おーい、タツ」
「んんー、ん。ン？」

目の前には、鼻筋の通ったイケメンがいた。
…え？どういうこと？

「あれ、寝てた？」
「は！完全に寝てたよ」

というか、誰この声。
こんなに声低くないし、私。

…え？

「ちょっと待って」
「タツ、なんかお前変だぞ。大丈夫か？」
「と、トイレ行くわ」

おー、と下から声が聞こえている中、トイレに走り出した。
見覚えのない廊下らしきところに全身鏡みたいなのがあった。

「いや、誰？」

何、この、黒髪マッシュルームヘアの男の子。
前髪ちょっと長いから目にかかってるし、身長も私よりちょっと高いくらいの、所謂ちんちくりん………。
大変失礼だけど、さっきのイケメンと比べると、尚ちんちくりんさが際立つぞ、この人。

て、いうか。
これ、転生したんじゃない？
してるよね？ね？ね？ねぇ？！？！

でもさ、転生したいとは言ったけど、こんなちんちくりん(しかも男子)とかアリ？
ひどくない？

「主人公がいいって言ったじゃん…」

とりあえず、前髪が目に入って痛い。

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「おせーぞ」
「ごめんごめん、ちょっと先生に呼ばれて」
「担任？」
「そうそう…」

そして、この目の前のイケメンは誰だ。
転生したものの、あまりに情報量が少なすぎる。
ひとまず、机の中の教科書をひっくり返してみる。

(名前書いてないんかい…)

私は、自分の名前おろか何者かも分かっていないのだ。
まずは自分とは何かを知るところから始めないと、この世界で生きていけない。
いっそのこと記憶飛んだ体でこのイケメンに教えてもらった方が早いかな。
でも、せっかく転生したんだ。
ある程度は自分の力で何とかしたい。

(………学生証！)

机の横に引っ掛けているリュックに手を入れて、軽く回してみる。
それっぽい小さな手帳みたいなものが手に当たった。
探していたそれだった。

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どうやら、私もとい僕、は「西野 達弥(にしの たつや)」という名前らしかった。
ありがたいことに住所も学生証に書かれていた。
おかげで寝床については心配せずに済みそうだ。
次にあのイケメン、これは手帳の中に折り畳まれた名簿からおそらく「仁川 颯人(にかわ はやと)」くんだろう。
隣の席の人に、さりげなく席順って五十音順だっけ？と聞いたのが功を奏した。
(めちゃくちゃ不思議そうな目線だった)

この仁川くんと僕は苗字で言う前後だから、仲良いのか。
しかし、これでも情報量が少ないから、今夜は徹夜でクラスメイトの顔と名前を覚えるようにしよう。
少しでも馴染めるように…。