異世界に転生しようとしてモブ男子に生まれ変わったある少女の話

詩花(Shiika)

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第1章

4. 僕という人間

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それは、思った以上に大きな家だった。

放課後、仁川くんと駅で別れ、学生証に書かれた住所に向かって歩き出す。
そもそもここの地区、見渡すとちょっと大きな門とか家が連なっていて、何だか怖い。
ひょっとして、お金持ちが多く住む町なんだろうか。

「ここ………?よね?」

駅から徒歩20分、目の前に見えるのは規律良く並んだタイルの壁と洋風の門扉。
横を見遣ると車用のガレージが別にあり、その扉は閉まっていた。
………思った以上に豪華な家だった。

(え、ひょっとして、おぼっちゃま?)

スッ、と指を呼び鈴に向けて押す。
しばらくして、少し離れた玄関から女性が出てきた。

「達弥さん、おかえりなさい!」
「ただいま…です」
「ちょうどご飯が出来たところなの」
「わ、わぁーい……」

…というか、この人は誰?
くりくりとした瞳に綺麗な歯が見えるキラキラ笑顔。
お姉さん?お母さん?それとも…恋人?
うーん、分からない。

「お母さーん、虫が入るから閉めるよー?」
「あっ!待って待って、今行くから!さぁ、達弥さん早く」

玄関からちょっと声の高い女の子の声が聞こえた。
なるほど、この人は"僕"のお母さん。
玄関に近づいていくにつれて、ひょこっと顔が見えたギャr…茶髪の美人さん。

「達弥、おかえり。あんた相変わらず前髪長すぎ!」

前見えてんの?と、笑いながら目の前で手を振る美人さんに、頷いて見せた。

「きっと、今流行りの髪型なんじゃない?」

お母さん、らしき人がフォローを入れてくれた。
美人さんは、「ふーん」と言いながら部屋の扉を開けて入っていく。

「お姉ちゃん、達弥さんに久しぶりに会ったから嬉しかったんだと思うの」
「はい、大丈夫、です」
「久しぶりの学校、大丈夫だった?」

ーーー久しぶり?

"僕"は、何かあったんだろうか。
大丈夫って何が?久しぶりって何が?

そんな疑問を、目の前の泣きそうなのにニコニコ微笑みながら聞いてくる女性に投げかけられるはずもなく。

「大丈夫、でしたよ」

精一杯の笑顔で、そう言うことしかなかった。

---
--
-

「すっご…」

結構大きな屋敷(多分前世?でいう私の家の2-3個分くらいの大きさ、しかも庭付き)の僕の部屋は、それまた広くて、部屋の隅にある学習机が異質に思えるほどだった。
部屋は無駄なものがなく、整理整頓されていた。
誰かと撮った写真とか、ポスターとか、サッカーだの野球だののユニフォームとか、そんな一般家庭のしかも思春期真っ只中っぽい少年少女の部屋にありそうなものは、全くなかった。

「………」

あまりにも、無駄がない。
というより、これは。

「無機質」

そうだ。それだ。
"僕"という人間は、今のところ無機質であることしか分からず、一体何者で、これまでにどんな人生を送ってきたのかが不明だ。

正直、自室に入れば色んな情報を得られると思っていた。
だって、大抵の部屋はその人と成りを表すものだから。
でもこの人には、それがない。
無機質で、空っぽで、真っ白。

「こりゃ、難儀だなぁ」

自分から、動かないと何も得られない。
読んだことない漫画の1ページ目、みたいじゃん。
何だか、楽しくなってきた。
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