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魔王様の愛おしい所
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「難しい顔をして、何を考えているんだ?」
「ロイト?」
「また眠ってしまうんじゃないかと、慌てて戻って来て正解だったかな」
くすりと笑うロイトは、ナティスが待っている間に眠ってしまいそうになる事まで、お見通しだったらしい。
例え本人がその場に居なくても、ロイトの気配が残る場所というだけで安心感に包まれてしまい、つい気を抜いてしまうのは、ナティスの悪い癖かもしれない。
(緊張、していたはずなんだけれど……)
音もなく頭上に現れたロイトの姿を、まじまじと見上げる。
部屋着に着替え準備を整えていたナティスとは違って、ロイトは戻って来たばかりだ。
儀式の時に着用していた花婿衣装のままのだったから、格好良いその姿に再び見惚れてしまう。
ロイトが魔王らしくない、けれど人間であるナティスと一緒にこの先を歩いてくれるという、決意証明とも取れる白のマントを外す。
傍にあった椅子に無造作に放り投げて引っかけると、次々とその身を飾る装飾を外しながら、少し身軽になったロイトがそのままナティスの横たわるベッドの上へと、身体を乗り上げた。
思いの外性急な行動に、ドギマギしてしまう。けれど、迫り来るその姿から目を離せない。
「お話し合いは、もう良いのですか?」
「ナティスとの時間を邪魔されてまで、する話ではなかった」
ロイトは、ナティスと二人で過ごす一分一秒までも大切に思ってくれていた様で、不機嫌な幼子みたいに、取り隠すことなくふて腐れた表情を露わにする。
今、ナティスの目の前に居るのは魔王ではなく、ただのロイトという一人の青年だ。
きっと各種族の長達からすれば、この機を逃すまいと必死で引き止めるほど、重要事項ばかりだったに違いない。
けれど、確かに「今ではなくても良いのに」とナティスも多少なりとも思っていたので、ふっと笑うに留める。
その辺りも、人間と魔族との考え方の違いなのかもしれない。
ロイトがナティスが感じている、一日中離れたくないという感情の方が、誰か特定の一人の為に心を砕く事の方が、魔族らしくはないのだろう。
魔王の結婚式は、本来ただの報告の儀式なのだ。
国中の民に広く知らしめるという規模の大きさや、権力を誇示する場ではあっても、二人にとっての特別な一日という意識は、薄くても可笑しくはない。
思い返せば、ティアの誕生日だったあの日も、ロイトはティアの為だけに一日予定を空けてくれていた。
結果的に、ずっと一緒に居るというその約束は果たされず、永遠の別れとなってしまったけれど、あの頃からロイトは、恋人と二人で過ごす時間を大切にしてくれる人だったのは間違いない。
魔王として魔族達の前に立つ姿も格好良いけれど、こんな風にロイトの魔族らしくない部分も、愛おしく思う。
ナティスに寄り添ってくれるその気持ちが、とても嬉しい。
「お疲れでしょう? 少しゆっくり……」
儀式と謁見に続いて、執務までこなして来たロイトが、疲れていないはずがない。
部屋に戻って来たらお茶でも入れようと、ナティスはロイトの為にティーセットを用意していた。
少しでも寛いで貰おうと、起き上がろうとしたナティスは、どさりと体重をかけるように落ちて来たロイトの下敷きになって、身動きが取れなくなる。
「あぁ。だから一刻も早く、ナティスに癒やして貰いたい」
「ロイ、ト?」
「眠たそうな所すまないが、今夜は簡単に休ませてやれないからな?」
「え……っ、んぅ」
起き上がるのも億劫な程に疲れてしまっているのかと心配して、下から顔を覗き込もうとしたナティスの唇に、温かいロイトのそれが重なる。
口付けは、どんどんと深さを増し、遂には舌を絡め取られてしまう。
最初は、軽く触れるだけだった所から始まった長く甘いキスは、いつの間にか呼吸ごと奪われるような激しさに変わっていて、解放された時には息が荒くなってしまっていた。
「今はゆっくりするよりも、ナティスを目一杯愛したい……良いか?」
「お断りする理由が、ありません」
「ナティスは、何でも受け入れてくれるから、困る」
「困るんですか?」
「甘やかすと、図に乗るぞ」
「甘やかしているのは、ロイトも一緒です。それに、私も……その、早くロイトに触れたいので」
思ったままの言葉が溢れ出てしまい、恥ずかしくなってロイトの胸に顔を埋めると、ロイトは何故か暫く固まってしまったように動きを止め、そして盛大に息を吐いた。
まるでナティスから誘うような言葉に、はしたないと呆れられてしまったかと不安になっていると、そっとナティスの髪にロイトが触れる。
撫でられる気持ちよさと共に、ゆるゆると顔を上げると、そこには熱の籠もった瞳が、真っ直ぐナティスだけを見つめていた。
その瞳に宿った色だけで、ロイトがナティスを求めてくれている事がわかる。
「あまり煽らないでくれ、加減できなくなりそうだ」
「はい。もう、我慢なさらないで欲しいと言っています」
「…………っ!」
微笑むナティスの唇に、ロイトから再び噛みつく様なキスが落ちて来た。
「ロイト?」
「また眠ってしまうんじゃないかと、慌てて戻って来て正解だったかな」
くすりと笑うロイトは、ナティスが待っている間に眠ってしまいそうになる事まで、お見通しだったらしい。
例え本人がその場に居なくても、ロイトの気配が残る場所というだけで安心感に包まれてしまい、つい気を抜いてしまうのは、ナティスの悪い癖かもしれない。
(緊張、していたはずなんだけれど……)
音もなく頭上に現れたロイトの姿を、まじまじと見上げる。
部屋着に着替え準備を整えていたナティスとは違って、ロイトは戻って来たばかりだ。
儀式の時に着用していた花婿衣装のままのだったから、格好良いその姿に再び見惚れてしまう。
ロイトが魔王らしくない、けれど人間であるナティスと一緒にこの先を歩いてくれるという、決意証明とも取れる白のマントを外す。
傍にあった椅子に無造作に放り投げて引っかけると、次々とその身を飾る装飾を外しながら、少し身軽になったロイトがそのままナティスの横たわるベッドの上へと、身体を乗り上げた。
思いの外性急な行動に、ドギマギしてしまう。けれど、迫り来るその姿から目を離せない。
「お話し合いは、もう良いのですか?」
「ナティスとの時間を邪魔されてまで、する話ではなかった」
ロイトは、ナティスと二人で過ごす一分一秒までも大切に思ってくれていた様で、不機嫌な幼子みたいに、取り隠すことなくふて腐れた表情を露わにする。
今、ナティスの目の前に居るのは魔王ではなく、ただのロイトという一人の青年だ。
きっと各種族の長達からすれば、この機を逃すまいと必死で引き止めるほど、重要事項ばかりだったに違いない。
けれど、確かに「今ではなくても良いのに」とナティスも多少なりとも思っていたので、ふっと笑うに留める。
その辺りも、人間と魔族との考え方の違いなのかもしれない。
ロイトがナティスが感じている、一日中離れたくないという感情の方が、誰か特定の一人の為に心を砕く事の方が、魔族らしくはないのだろう。
魔王の結婚式は、本来ただの報告の儀式なのだ。
国中の民に広く知らしめるという規模の大きさや、権力を誇示する場ではあっても、二人にとっての特別な一日という意識は、薄くても可笑しくはない。
思い返せば、ティアの誕生日だったあの日も、ロイトはティアの為だけに一日予定を空けてくれていた。
結果的に、ずっと一緒に居るというその約束は果たされず、永遠の別れとなってしまったけれど、あの頃からロイトは、恋人と二人で過ごす時間を大切にしてくれる人だったのは間違いない。
魔王として魔族達の前に立つ姿も格好良いけれど、こんな風にロイトの魔族らしくない部分も、愛おしく思う。
ナティスに寄り添ってくれるその気持ちが、とても嬉しい。
「お疲れでしょう? 少しゆっくり……」
儀式と謁見に続いて、執務までこなして来たロイトが、疲れていないはずがない。
部屋に戻って来たらお茶でも入れようと、ナティスはロイトの為にティーセットを用意していた。
少しでも寛いで貰おうと、起き上がろうとしたナティスは、どさりと体重をかけるように落ちて来たロイトの下敷きになって、身動きが取れなくなる。
「あぁ。だから一刻も早く、ナティスに癒やして貰いたい」
「ロイ、ト?」
「眠たそうな所すまないが、今夜は簡単に休ませてやれないからな?」
「え……っ、んぅ」
起き上がるのも億劫な程に疲れてしまっているのかと心配して、下から顔を覗き込もうとしたナティスの唇に、温かいロイトのそれが重なる。
口付けは、どんどんと深さを増し、遂には舌を絡め取られてしまう。
最初は、軽く触れるだけだった所から始まった長く甘いキスは、いつの間にか呼吸ごと奪われるような激しさに変わっていて、解放された時には息が荒くなってしまっていた。
「今はゆっくりするよりも、ナティスを目一杯愛したい……良いか?」
「お断りする理由が、ありません」
「ナティスは、何でも受け入れてくれるから、困る」
「困るんですか?」
「甘やかすと、図に乗るぞ」
「甘やかしているのは、ロイトも一緒です。それに、私も……その、早くロイトに触れたいので」
思ったままの言葉が溢れ出てしまい、恥ずかしくなってロイトの胸に顔を埋めると、ロイトは何故か暫く固まってしまったように動きを止め、そして盛大に息を吐いた。
まるでナティスから誘うような言葉に、はしたないと呆れられてしまったかと不安になっていると、そっとナティスの髪にロイトが触れる。
撫でられる気持ちよさと共に、ゆるゆると顔を上げると、そこには熱の籠もった瞳が、真っ直ぐナティスだけを見つめていた。
その瞳に宿った色だけで、ロイトがナティスを求めてくれている事がわかる。
「あまり煽らないでくれ、加減できなくなりそうだ」
「はい。もう、我慢なさらないで欲しいと言っています」
「…………っ!」
微笑むナティスの唇に、ロイトから再び噛みつく様なキスが落ちて来た。
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