政略結婚の末に待っていたのは熱過ぎる溺愛でした

あん蜜

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第二話

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 レイラが悲しみに打ちひしがれてから数日後のこと。彼女は一人、いそいそと宮殿の廊下を小走りで進み、その先にある長いらせん階段を登っていた。

「はぁ……はぁ……」

 階段を登った先に待っているのはレイラが幼い頃からジェイルとよく遊んでいた秘密の空間だ。そこは狭いながらも見晴らしがよく、ジェイルと二人きりになれる特別な場所だった。

 統合の話を聞かされたあの日、涙を拭ったレイラはジェイルに宛てて手紙を書き、ローネに託して届けてもらっていた。ローネには”今までのお礼を記した手紙”と説明したが、実際は”伝えたいことがあるからいつもの場所に来てほしい”と記していた。お互いに好き合っていることは感じていたが、きちんと言葉にしたことがなかったレイラはどうしても直接伝えておきたかった。伝えたらもっと悲しくなるかもしれないと思ったが、彼女にとっては気持ちに区切りをつけて立派な女王になるために必要なことだったのだ。

 あと少しで階段を登り切れそうな頃、見上げた先にジェイルの姿が映った。

(よかった……来てくれたのね……)

 安堵したのも束の間、そこにはジェイル以外にも人がいることに気がついた。ジェイルは誰かと向き合っており、話をしているようだった。はっきりとは見えなかったが、彼の顔はどこか険しく明るくは見えなかった。

(ジェイルは誰と話しているの……? 私の手紙を読んで来てくれたのではないの……?)

 レイラの胸がざわつきはじめ、自然と足音を立てないようにゆっくりと一段一段を上がっていく。片手で手すりを持ち、もう片方の手で胸の辺りを押さえながら足を動かすたびジェイルの姿がはっきりしていく。一段上がるごとに緊張感が増し、胸に当てている手に心臓の動きが感じられるほど鼓動が激しく騒がしい。

(誰といるの……? ローネ? ローネにバレてしまったのかしら……)

 あと一段上がれば一緒にいる人物が視界に入るだろうというところで、突然ジェイルが腕を伸ばしその人物を引き寄せた。そのおかげでもう一段上がらずとも相手の姿が目に映り、その者が誰かを理解した頃には二つの唇が重なり合っていた。レイラの体は無意識に振り返り崩れ落ちるかのように階段を駆け下りていった。

 父から告げられた後で充分泣いたはずなのに、もうこれ以上出る涙はないほど流したはずなのに、宮殿の廊下を走っているうちに徐々に視界がぼやけていき、部屋に着く頃には頬を伝った涙が顎からこぼれ落ちていた。

 部屋の扉を閉めるや否や、レイラの体は扉にもたれかかるように崩れていった。扉を背にうずくまり、彼女の部屋では再び悲しい音だけが響き渡ることとなった。


 翌日、侍女たちに身だしなみを整えられたレイラはグルイスとともにパイルエ国にやってきた未来の夫ゼフトと顔を合わせた。侍女たちの頑張りにより、泣いたことでぼってりと腫れ上がっていたレイラの瞼は、至近距離で見なければ泣いていたことがわからない程度にまでカムフラージュされていた。

 昨日あんなにも泣き崩れていたレイラであったが、終始そのようなことは一切感じさせない振る舞いでグルイスやゼフトと接したのだった。しかしながらそれは表面的にはそう見えているだけであり、心の内ではもやもやとした感情がふつふつと沸き立っていた。
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