13 / 18
第十二話
しおりを挟む
朝から晩までゼフトと絡まりあった日から一週間が経った頃、二人が暮らす新しい宮殿ではレイラの侍女たちが会話に花を咲かせていた。
「このところレイラ様の美しさに磨きがかかっていらして、うっとりと見惚れてしまいますの」
「わたくしもですわ。元々きめ細かなお肌をされていらっしゃいますが、ますますお綺麗なられて眩しい限りにございます」
「誠に艶めいておられますわね。これもひとえに……」
「うふふふふ」
レイラは侍女たちのこうした会話を直接耳にしたことはなかったが、彼女たちの微笑んでいる顔や自分へかけてくれる褒め言葉などから、きっと何か言われているに違いないとは感じていた。
あの熱い休日以降、翌日を除いて毎晩ゼフトに抱かれており、ゼフトは一晩につき最低でも二回、多い日には四回も絶頂を迎える。優しいながらも熱くて深い愛を心と体で感じており、それが健康状態に影響を与えるのか、肌の調子や顔色がいいことをレイラ自身実感していた。だからこそ、侍女たちに褒められるたび、ゼフトとの交わりが思い起こされ嬉し恥ずかしい気持ちになるのだった。
「はぁぁ…………」
レイラは胸に両手を当てながら、幸せからくるため息を吐いた。今日はこれからゼフトと街へ出かけるのだ。
「レイラ、待たせてすまない」
爽やかな笑顔で駆けつけてきたゼフトと目が合い、レイラの胸がきゅんっと心地よく跳ねる。本当は一時間ほど前に出発する予定だったが、ゼフトに緊急の仕事が入ったため、それが終わるまでの間宮殿の庭園で待っていたのだ。
「可愛い花々を見ておりましたので、ちっとも長く感じませんでした」
「本当か?」
「はい。ゼフト様、お仕事お疲れ様でございます」
「ありがとう。では行こうか」
二人は並んで歩き、馬車に乗り込むと街へと向かった。今は冬に入る前の割かし気候のいい時期で、寒さを感じることなくデートをすることができる貴重な季節だった。新しい宮殿はパイルエ国に近いソプレナ国の領土にあるため、冬でも寒さはマシではあるが、それでも外へ出てゆっくりとデートを楽しむことは難しいのだ。
街は活気に溢れており、みな気候のいい季節を楽しんでいるようだった。そこで二人は美しい宝石を眺めたり、髪飾りを購入したり、美味しいパンを食べたりしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎていった。そろそろ帰ろうか、とゼフトに言われ返事をしようとした時、とある男女の姿が目に留まった。ジェイルとアイナだった。
「あっ……」
レイラがそうこぼした直後、アイナがこちらに気付いた。そのまま駆け寄ってくる。
「お姉様……!」
「アイナ……!」
ジェイルとアイナがキスする場面を目にしたあの日以来、レイラはアイナともジェイルとも顔を合わせていなかった。新しい宮殿へ引っ越す前は、妹のアイナとは同じ宮殿に住んでいたわけだが、父バーリカの指示でアイナと会えないようになっていたのだ。
「久しぶりに会えたんだ。姉妹水入らずで話したいだろう。私はジェイル君と新鮮な果物を買ってくるから、席に着いて待っていてくれるかい?」
「! ……はい。ありがとうございます」
レイラとアイナが席に着くと、ゼフトはジェイルと共に近くの果物屋へと向かった。
「アイナ、元気そうでよかった……本当に……」
「お姉様こそ、お元気そうで何よりでございます。それになんだか……」
そう言って見入るようにレイラの顔を観察する。
「……?」
「以前よりも雰囲気が違って見えます。輝いていらっしゃると言いましょうか、あるいは……艶めいていらっしゃるような……」
「っ……!!」
アイナはホッとしたように微笑んだ。
「ゼフト様と幸せな時間を過ごしておられるのですね。とっても安心いたしました」
「……うん、そうなの。信じられないほどに幸せで……」
「もうジェイルのことを思い出すこともないのですね」
「うん」
はっきりそう返事をすると、アイナはまたどこか安堵したような顔を浮かべながらも、その表情にはどこか寂しさが含まれているような気がした。
「このところレイラ様の美しさに磨きがかかっていらして、うっとりと見惚れてしまいますの」
「わたくしもですわ。元々きめ細かなお肌をされていらっしゃいますが、ますますお綺麗なられて眩しい限りにございます」
「誠に艶めいておられますわね。これもひとえに……」
「うふふふふ」
レイラは侍女たちのこうした会話を直接耳にしたことはなかったが、彼女たちの微笑んでいる顔や自分へかけてくれる褒め言葉などから、きっと何か言われているに違いないとは感じていた。
あの熱い休日以降、翌日を除いて毎晩ゼフトに抱かれており、ゼフトは一晩につき最低でも二回、多い日には四回も絶頂を迎える。優しいながらも熱くて深い愛を心と体で感じており、それが健康状態に影響を与えるのか、肌の調子や顔色がいいことをレイラ自身実感していた。だからこそ、侍女たちに褒められるたび、ゼフトとの交わりが思い起こされ嬉し恥ずかしい気持ちになるのだった。
「はぁぁ…………」
レイラは胸に両手を当てながら、幸せからくるため息を吐いた。今日はこれからゼフトと街へ出かけるのだ。
「レイラ、待たせてすまない」
爽やかな笑顔で駆けつけてきたゼフトと目が合い、レイラの胸がきゅんっと心地よく跳ねる。本当は一時間ほど前に出発する予定だったが、ゼフトに緊急の仕事が入ったため、それが終わるまでの間宮殿の庭園で待っていたのだ。
「可愛い花々を見ておりましたので、ちっとも長く感じませんでした」
「本当か?」
「はい。ゼフト様、お仕事お疲れ様でございます」
「ありがとう。では行こうか」
二人は並んで歩き、馬車に乗り込むと街へと向かった。今は冬に入る前の割かし気候のいい時期で、寒さを感じることなくデートをすることができる貴重な季節だった。新しい宮殿はパイルエ国に近いソプレナ国の領土にあるため、冬でも寒さはマシではあるが、それでも外へ出てゆっくりとデートを楽しむことは難しいのだ。
街は活気に溢れており、みな気候のいい季節を楽しんでいるようだった。そこで二人は美しい宝石を眺めたり、髪飾りを購入したり、美味しいパンを食べたりしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎていった。そろそろ帰ろうか、とゼフトに言われ返事をしようとした時、とある男女の姿が目に留まった。ジェイルとアイナだった。
「あっ……」
レイラがそうこぼした直後、アイナがこちらに気付いた。そのまま駆け寄ってくる。
「お姉様……!」
「アイナ……!」
ジェイルとアイナがキスする場面を目にしたあの日以来、レイラはアイナともジェイルとも顔を合わせていなかった。新しい宮殿へ引っ越す前は、妹のアイナとは同じ宮殿に住んでいたわけだが、父バーリカの指示でアイナと会えないようになっていたのだ。
「久しぶりに会えたんだ。姉妹水入らずで話したいだろう。私はジェイル君と新鮮な果物を買ってくるから、席に着いて待っていてくれるかい?」
「! ……はい。ありがとうございます」
レイラとアイナが席に着くと、ゼフトはジェイルと共に近くの果物屋へと向かった。
「アイナ、元気そうでよかった……本当に……」
「お姉様こそ、お元気そうで何よりでございます。それになんだか……」
そう言って見入るようにレイラの顔を観察する。
「……?」
「以前よりも雰囲気が違って見えます。輝いていらっしゃると言いましょうか、あるいは……艶めいていらっしゃるような……」
「っ……!!」
アイナはホッとしたように微笑んだ。
「ゼフト様と幸せな時間を過ごしておられるのですね。とっても安心いたしました」
「……うん、そうなの。信じられないほどに幸せで……」
「もうジェイルのことを思い出すこともないのですね」
「うん」
はっきりそう返事をすると、アイナはまたどこか安堵したような顔を浮かべながらも、その表情にはどこか寂しさが含まれているような気がした。
17
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と氷の騎士兄弟
飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。
彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。
クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。
悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください
「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」
呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。
その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。
希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。
アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。
自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。
そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。
アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が……
切ない→ハッピーエンドです
※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています
後日談追加しました
白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。
お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。
……少なくとも、リオナはそう信じていた。
ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。
距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。
「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」
どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。
“白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。
すれ違い、誤解、嫉妬。
そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。
「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」
そんなはずじゃなかったのに。
曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。
白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。
鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。
「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」
「……はい。私も、カイルと歩きたいです」
二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。
-
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜
紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。
しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。
私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。
近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。
泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。
私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる