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第19話:ノヴァルナ包囲網
#07
しおりを挟むガルバックはスクリーンに映るヒュドラン星人女性に、モルンゴールの国民証の表側を提示し、ガルバック・アスム=ランヴェラの名と、モルンゴール語で八桁の数字を告げた。
するとそれに反応してホログラムの女性の眼が、国民証を見て瞬きをする。どうやらそれが認証のサインらしい。
「認証完了。ご用件をどうぞ」
「私が連れている十一名とアンドロイド一体の、第18書庫への入場許可証を、申請したい」
ガルバックの申告を聞き、女性ホログラムは「お待ち下さい」と応じると、瞼を閉じた。ものの五秒ほどで、女性ホログラムは眼を開いて返答する。ところがそれは、ガルバックも思ってもみなかった言葉である。
「恐れ入りますが、申告内容は不認可となります」
「なに?」
ガルバックの爬虫類系異星人の眉間に、皺が刻まれる。ノア達の視線が一斉に、自分の背中に注がれるのを感じ、一気に居心地が悪くなった。
「どういう事だ?」
気まずさを振り払い、ガルバックは落ち着いた口調で問い質す。しかし女性ホログラムの返答は落ち着けた気持ちを、さらに困惑させるものだった。
「ガルバック・アスム=ランヴェラは、この申請が認可される資格を、有しておりません」
「なんだと!?」
納得出来ないホログラムの返答を聞き、ガルバックは頬の筋肉を引き攣らせる。
「俺はモルンゴールの二等民だ。帝国議会以外の旧帝国及びその属国の施設なら、どこでも入れるはずだろう!?」
訴えるガルバックだが、女性ホログラムを展開する端末機には、それ以上の状況解析機能が無いらしく、同じ言葉を繰り返すだけである。
「ガルバック・アスム=ランヴェラは、この申請が認可される資格を、有しておりません」
「うぬぅ…!」
不条理さに憤りを堪える表情のガルバックに、カートライトは冷静に意見する。
「ホログラム相手に興奮しても仕方ない。ここは係員を呼ぼうぜ」
「そ…そうだな」
ガルバックが同意すると、カートライトは端末機に取り付けられている、係員呼び出し用の、小さなレバーを指先で倒した。レバーは「キンコーン…」と単調な音を立てながら、元の位置に戻る。すると一分ほどもして、端末機の隣の扉がパカリと開き、駅員風の紺の制服を着た、肥満気味のヒュドラン星人男性が出て来る。
「ミュハクム・セル・ス?」
男性係員はヒュドラン語で問い掛けた。おそらく「何か御用ですか?」あたりだろう。併呑したモルンゴール帝国の言語は、理解できるノア達だが、ほとんど交流の無いヒュドラン星人の言葉は理解できない。
ガルバックは、出て来た係員にモルンゴール語で事情を話し、説明を求めた。
これに応じた係員は端末機を操作し、ホログラムキーボードを展開させて、ガルバックの国民証の更新状況を問い合わせる。そしてスクリーンに表示された更新内容を、モルンゴール語で返答した。それを聞いてガルバックは、声を荒げる。
「なんだと!! 五日前から三等民に格下げされているだと!? なぜだ!?」
ガルバックが三等民だと知った係員は、途端にガラリと態度を変え、横柄な口調で言い放つ。ヒュドラン星人は旧帝国の準一等民であるため、対応の仕方を変えたのだろう。
「何故と尋ねられても、そちらが三等民と知った以上、二等民以上の者が立ち入れるこの施設での、さらなる対応の必要はない。知りたければ民政局へ出向き、自分で調べるのだな」
これを聞いたノアは黙っていられなくなり、係員の前に進み出て、モルンゴール語で問い質した。ほとんど使用した事が無い言語なのでたどたどしいが、毅然とはしている。
「お待ちなさい。モルンゴールの階級制度はすでに三百年前に、廃止されたはずでしょう。彼に対する扱いは、不当なのではないですか?」
ノアの方を振り向いた係員は、「銀河皇国の方ですか…ヒト族の方と、実際にお会いするのは初めてです」と応じ、言葉を続けた。
「確かに帝国の階級制度は、公式には廃止されております。しかしながら、帝国の中心宙域となるこの辺りは、旧帝国議会の自治下にあり、NNLシステムによる銀河皇国の直接統治を、受けてはおりません。したがってこの惑星ヒュドラムの社会制度は、帝国時代のまま。つまりはそういう事です」
モルンゴール帝国は銀河皇国に併呑されているため、皇国民のノアに対する係員の態度は、ガルバックに対するものとは、全く違ってはいる。ただ言葉の中身のほうは、冷淡なものであった。これにカートライトの仲間の女性、マニスが抗議の声を上げる。
「それにしたって、横暴じゃない!」
これに同感したジュゼ、キュエル、キスティスの三人もザワザワと、不満を口にし始める。するとだんだんと大きくなり始めた騒ぎに、ノアの背後から野太い声が聞こえて来た。
「おい。何だ、揉め事か?」
ノア達が振り返ると、そこにいたのは“路面電車”でランに侮蔑的な眼を向けて来た、あのモルンゴール星人の男である。男はその時には居なかった、やや背の低いもう一人のモルンゴール星人男性を連れていた。
▶#08につづく
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