銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第19話:ノヴァルナ包囲網

#08

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 全員の視線が注がれる先で、やって来たモルンゴール星人の男は、胸を反らして自らの名と、連れている男の名を告げた。

「俺はザリュード・デーム=バビュラ、こいつは弟のバジラード・アルム。二人共一等民だ。何を騒いでいるのか?」

 二人が一等民だと聞いて、係員は「これは一等民様」と胸に右手を当てて、その場で片膝をついた。それはガルバックも同様である。モルンゴール星人とその帝国に、属していた種族のしきたりなのだろう。モルンゴール星人の一等民は、全て戦士階級であり、ザリュードとバジラードの兄弟も軍人という事だ。

 立ち上がった係員は、一連の流れを二人に伝える。話を聴いたザリュードはガルバックを指さし、強い口調で言う。

「おいおまえ、三等民に格下げされた理由を、知りたいのか!?」

「いえ。そういうわけでは…しかし私の客人達を、書庫へ案内する役目を果たす目的に、差し障りが出ては困りますので」

 その言葉に、ザリュードは嘲る表情を見せた。

「ふん。フォクシア星人が客人とは、いかにも三等民だな」

 これを聞いてノア達ウォーダ家の人間の間に、不快感の空気が広がる。ランを目の敵にしているらしい。バジラードと紹介された弟の方も、同じような視線をランに向けているところから、共通の意思があるようだ。

「彼女の素性は関係ありません」

 きっぱりと言い返すガルバック。モルンゴール星人の基準では、一等民に対して三等民がとっていい態度ではない。だがザリュードは怒るよりも、からかうような表情で返答する。

「まぁそう怒るな。おまえが降格された理由を、俺がこの場で調べてやる」

 ザリュードはそう言うと、上着の内ポケットから自分の国民証を取り出し、端末機に提示した。そしてガルバックに「おまえの国民証を貸せ」と命じて受け取り、そこから素早くホログラムキーボードを操作。旧帝国のネットに接続する。そして一等民権限で、ガルバックについての最新登録情報を取得する。これを黙読したザリュードは、「なるほど…」と面白くも無さそうに言い捨てた。

「どうやらおまえが三等民に格下げされたのは、おまえの父親のせいらしいな」

「!?」

 眼を見開くガルバックにザリュードが伝えたのは、彼の父親のベルボビク・エクル=ランヴェラの一件である。ベルボビクはノア達がアーワーガ宙域にある旧モルンゴール帝国領の、イルクルス星系を訪れた時に発見した、“メガラーム独立軍”と呼ばれる宇宙海賊に襲われ、漂流中だったモルンゴール帝国巡航艦の艦長だ。
 
 ベルボビク艦長はモルンゴール軍の基地に出頭するため、途中の惑星でノア達と分かれ、代わりに長男のガルバックが、惑星ヒュドラムへの案内役に呼ばれたのであるが、この基地に出頭して敗北の報告を行ったのち、生き残った兵の最上級士官として、司令部から責任を取らされた結果が、五日前からのランヴェラ家の、三等民への降格だったのだ。

「旅の途中だったおまえは、一族が降格された事を知らなかったってわけだ。可哀相になぁ」

 感情の籠っていない、言葉だけの慰めを口にしたザリュードは、手にしていたガルバックの国民証を、無造作に床に投げ捨てた。その傍らでは彼の弟のバジラードが、薄ら笑いを浮かべている。これに対してガルバックは、無言で歯を喰いしばって、自分の国民証を拾い上げるだけだ。
 この光景に怒りの眼を向けて来る、ランの三人の部下達を察したのか、バジラードが機先を制して告げる。

「おっと。あんたらお得意の、“生き残った者が責任を取らされるのは云々”や、“親の責任を子供まで云々”という話は無しにしてもらう。これがモルンゴールの社会の掟なんでな」

 これに抗して主張したのはノアだった。

「あなた方の社会制度に干渉する気はありません。私達が腹立たしく思っているのは、あなた方二人の、私の友人のフォクシア人に対する侮辱的な態度や、ガルバックさんに対する高圧的な態度についてです」

 正しいノアの言葉だが、バジラードはさらに反駁する。

「俺達の一族は皇国との戦争の時に、そこの“宇宙ギツネ”どもに裏切られたせいで、全滅しかけたんだ。恨む理由がある。それにこのガルバックとかいう奴の父親は、戦いに敗れた“敗北者”だろう。単に三等民に降格されただけじゃなく“敗北者”だというなら、その家族に対してはこれが正しい接し方だ」

 なるほど、ベルボビク艦長と別れる際にカートライトが、“戦いに敗れたモルンゴール人は、社会的に色々とあるんだろ?”と言ったのは、こういう事かとノアは思った。ランへの民族的嫌悪感も、分からなくはない。だが“宇宙ギツネ”の蔑称を使われるのには、許しがたいものがある。夫のノヴァルナがここにいたなら、その言葉だけで一悶着起こしているだろう。

 さらに言い返そうとするノア。しかしそこへザリュードが先に口を挟む。

「あんたの気の強さはモルンゴール人並みだが、ここで口論したって、どうにもならんぞ。もういいから帰んな」




▶#09につづく
 
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