銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第19話:ノヴァルナ包囲網

#10

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 同時刻、ヤヴァルト宙域HY-8438455星系付近―――

 撤退中の総旗艦『ヒテン』に座するノヴァルナのもとに、殿軍しんがりを務めている、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータの第7艦隊に関する、新たな報告が届いていた。

「…以上、第7艦隊は後方の、“レバイン星雲”で三次防衛線を引く、との事にございます」

 参謀長のマグナー准将の言葉に、戦術状況ホログラムに投影された宇宙地図を眺めながら、ノヴァルナは問い質す。宇宙地図には撤退中のセッツー宙域派遣軍本隊後方、150光年に位置する濃密なガス星雲の“レバイン星雲”と、その雲間に列を成した、シルバータ麾下の第7艦隊が表示されている。

「ゴーンロッグの艦隊の、損害状況は?」

 ノヴァルナの問いにマグナー准将は、「損耗率35パーセント、といったところです」と答えた。シルバータ艦隊はここまで、追撃を仕掛ける“ミョルジ三人衆”の本隊に対し、二度の防衛戦を行って遅延に成功している。
 だがその代償は大きく、損耗率35パーセントは通常の戦闘であれば、撤退が必要な数値だ。それでいながらもう一度、防衛戦を行わなければならないのが、殿軍というものだ。ノヴァルナは頷いて、マグナーに指示した。

「次の戦いが終わったら、ゴーンロッグには全面撤退させろ。針路も別針路を取らせていい。連中の狙いは俺だからな。宙域駐留軍からミディルツの艦隊を、迎えに行かせてやれ」

 死ぬなとは言ったものの、シルバータの実直な性格を考えると、最後の一艦となるまで戦場に踏み止まりかねず、それは避けなければならない。ミディルツ艦隊を迎えに出すのは、シルバータが独断で艦隊を戦場に留めて、潰滅させてしまわないためでもある。

 さらに広域モードの宇宙地図をみると、それぞれ右側後方の別針路から追撃して来る、アーワーガ宙域からのミョルジ家増援軍と、イーゴン教総本山『イシャー・ホーガン』軍の反応。
 左側前方のオウ・ルミル宙域との境界付近には、カーナル・サンザー=フォレスタ率いる軍が、アーザイル/アザン・グラン連合軍と対峙。そこから予定針路右側には、皇都キヨウのあるヤヴァルト星系があり、皇都を巻き込まないために、撤退には迂回が必要となる。
 ただそこから真っ直ぐ、新本拠地建設中のアデューティス星系に向かうのは、危険であった。オウ・ルミル宙域のコーガ恒星群から出撃した、ロッガ家の残党部隊が、艦隊を展開しているからだ。
 
 ノヴァルナの退路を断つのが目的の、このロッガ家残党部隊には、オウ・ルミル宙域軍のコーバル=ゴードンの第27艦隊、カートビット=ガモフの第34艦隊が迎撃に出てはいるが、“コーガ五十三家”を中心戦力に据えた、ロッガ家残党軍に対して戦力的に劣勢だった。
 ただこの状況を覆すために、同じオウ・ルミル宙域に領地を有する、トゥ・キーツ=キノッサの第31艦隊が増援に向かっており、またミノネリラ宙域軍からも、ノヴァルナのクローン猶子で、現在の次期当主ヴァルターダの判断により、“ミノネリラ三連星”の三個艦隊が出動したとの事である。

 しかしこの撤退に成功したとしても、ノヴァルナには安心できる状況ではない。かねてからウォーダ家が動向を警戒していた、イーセ宙域のイーゴン教自治星系ナナージーマが軍事行動を本格化。総本山『イシャー・ホーガン』から派遣された、大僧官長ショウ・スーの指揮のもと、基幹艦隊五個で隣接するオ・ワーリ宙域へ侵攻を開始したからだ。
 するとこれに呼応し、イーセ宙域側では複数の独立管領が、ウォーダ家に対して叛旗を翻した。これによりウォーダ家の支配下にあった、イーセ宙域星大名キルバルター家は、ナナージーマ星系への派兵が困難となり、同宙域のシズマ恒星群を奪回したクーギス家や、クァーナ星系を領地に与えられていた、カーズマルス=タ・キーガーも、軍を動かせない状態となる。

 またこれに加え、カイ/シナノーラン宙域星大名のタ・クェルダ家が、ウォーダ家及びトクルガル家との同盟を破棄する事を告げて来ている。その理由はウォーダ家が、イーゴン教総本山『イシャー・ホーガン』と、戦争状態に入ったからだ。
 タ・クェルダ家の支配する宙域でも、イーゴン教は勢力を拡大していたのだが、タ・クェルダ家との関係は良好で、他宙域で起きているような過激派信徒による、破壊・叛乱行為はほとんど発生していなかった。タ・クェルダ家が、ウォーダ家及びトクルガル家との同盟を破棄したのは、イーゴン教との関係維持を優先させたものと思われる。

 今回ばかりは巧妙な仕掛けだと、ノヴァルナも考えずにはいられない。

 おそらく“ミョルジ三人衆”が、アーワーガ宙域から再侵攻して来た事自体が、この包囲網の発端として計画されたものであり、さらに裏を読めば、“ミョルジ三人衆”を封じておく役割のはずの、アン・キー宙域星大名モーリー家が、ブンゴッサ宙域星大名オルトモス家に、大規模攻勢を仕掛けたのも、三人衆に行動の自由を与えるものであったと思える。

 そう思考を重ねていくと物的証拠はなくとも、ノヴァルナはこの包囲網の黒幕を導き出す事が出来た。「ふん…」と鼻を鳴らして、胸の内で呟く。


『ゴーショ・ウルム』に巣食う、あの妖怪どもか―――




▶#11につづく
 
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