銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第20話:薪の上に臥して苦き胆を嘗める

#05

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 そして空中浮遊しながら合流して来たP1-0号は、流石に高性能のアンドロイドらしく、相当数の関連書籍を見つけており、十数冊はある本をテン=カイと分け合って抱えている。しかもその中の半数ほどは、コルベルガ星系の大学教授や研究員が執筆したものであった。これを見てベファルは二人を褒める。

「ほほう。いいじゃないの。スイ・ケ・クアンマの著書もあるじゃないか」

「有名な方なのですか?」

 ノアの問いにベファルは頷いて答えた。

「ああ。コルベルカ人の中でも、有名な次元物理学者さ。“双極宇宙論”についての著書も多いよ」

「そうなのですか。ありがとうございます」

 ただそこからのベファルの話は長くなる。スイ・ケ・クアンマなる人物の解説に加え、データパッドを指先で触りながら、P1-0号とテン=カイが集めて来た書籍を執筆した、他の次元物理学者の解説まで、始めてしまったからだ。
 長話にノアが困惑の混じった笑顔を浮かべていると、ザリュードとバジラードの兄弟が、借りたテーブルセット付重力子プレートを二つ運んで来た。グッドタイミングである。

「ほら、婆ちゃん。借りて来たよ」

 バジラードが言うと、「遅いじゃないか」とバッサリ斬り捨てる。対する兄弟は溜息交じりに、片手で頭を搔くだけ。あの乱暴者のように思えた二人の、打って変わった態度の激変は、単に身内の老人への気遣いだけでなく、戦闘民族モルンゴール星人戦士としての過去の実績への敬意もあるのだろう。

 しかしベファルは、ただ長話をしていたのではなかった。兄弟が戻って来たのを待っていたらしく、全員が揃ったところで皆に告げる。

「揃ったね。じゃ、みんな。データパッドをお出し」

 全員が僅かに顔を見合わせながら、アンドロイド係員から渡された案内用データパッドを取り出すと、ベファルは自分のデータパッド画面に人差し指を置いて、素早くフリックさせた。すると全員の画面に、本のリストが転送される。

「いまそこのアンドロイドが持って来たもの以外の、“双極宇宙論”を扱った本のリストだよ。パッドが誘導してくれるから、みんなで手分けして探せばすぐさ」

 そう言ってベファルは手を振り、「さぁ、かかりな」と続けた。よく言えば“面倒見がいい”、悪く言えば“仕切り屋”気質が全開状態なのだろう。さらにベファルは、自分も本を探しに行こうとしていたノアに、声を掛けた。

「ノア。あんたはこれに座って、調べものを始めたらいいからね」
 
 完全にベファルに主導権を握られた形のノアは、苦笑いを浮かべて「はい」と応じ、ランに振り向くと「貴女は私を手伝って下さい」と告げる。

 傍らに浮かぶ重力子プレートに降りたノアは、椅子に腰かけて。床向きに重力指向制御がなされたテーブルに積まれている書籍の、一番上の一冊に手を伸ばした。P1-0号が集めて来た本だ。ランもノアの向かい側に座ると、二番目の書籍を手に取る。両方ともベファルのお勧めの、スイ・ケ・クアンマの著書だ。

 この浮遊書庫にはすでに述べた通り、かつてモルンゴール恒星間帝国に属していた文明の、古代から現代に至るまでの、あらゆる学問の知識が書籍にして集められている。
 その数が膨大なものとなるのは当然であり、そのためにこのような巨大な浮遊書庫が、惑星ヒュドラムに十八個も存在している。そしてこの書籍の数を膨大にしている、もう一つの要因が言語であった。
 書庫に収められている書籍は全て、モルンゴール語、ヒュドラン語、そして執筆したのがモルンゴール星人と、ヒュドラン星人以外の種族であった場合、敬意を込めてその種族の言語のまま、書かれたものも用意される。さらにこれが三冊ずつ製作されて収蔵されるため、内容的には同じものが最大、九冊存在している事になるのである。

 本を手に取って表紙に指を置くと、ノアは皮膚にしっくり来る気がした。非常に丁寧に装丁が為されているのもあるが、本というものが、ほとんど存在しなくなっている今の銀河皇国で、本に触れるのがほぼ初めてながら、どこか懐かしさを感じさせるのだ。


そういえば―――


 ノアはノヴァルナと出逢った十年前、ミノネリラ宙域でブラックホール内に存在した、熱力学的非エントロピーフィールドに二人で飛び込み、皇国暦1589年のムツルー宙域まで飛ばされた時の事を思い出した。

 現地で支援の手を差し伸べてくれた、カールセンとルキナのエンダー夫妻に借りた家で、前の住人が残した本をノヴァルナが見つけたのである。
 本の中身は確かあの辺りに大昔存在した、恒星間文明の神話を集めた内容であったと思うが、その時もノヴァルナと、“懐かしい”という感覚について、言葉を交わしたはずだ。

 するとまさに、ノアが思っていた“懐かしい”という言葉を、向かい側に座っていたランが声にして告げた。

「私…本について、懐かしい思い出があるんです」

 静かにそう言って表紙を開くランの眼は、遠い記憶を辿るようであった………




▶#06につづく
 
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