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第2話:キノッサの大博打
#08
しおりを挟む明けて翌日は3月9日。キオ・スー城の会議室に集められたウォーダ家の重臣達の前で、ノヴァルナが行ったのは、新たな『スノン・マーダーの空隙』築城部隊の編制であった。出撃は3月23日。資材の輸送船団はカーマック星系へ送り込んでいたものを使用。護衛艦隊もカーマック星系に駐留している、ウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊と、シウテ・サッド=リンの第7艦隊が前衛部隊として同行。代わりにカーマック星系へは、モルザン=ウォーダ家の艦隊が入る。
モルザン=ウォーダ艦隊はかつてはノヴァルナの叔父ヴァルツ率いる、ウォーダ一族最強の艦隊であったが、ヴァルツの横死後は政策を誤り、ノヴァルナに叛旗を翻して一度は壊滅の憂き目に遭っていた。それ以来、再編を許されたものの弱体化しており、カーマック星系の“防衛程度なら可能だろう”と判断されて、参陣する事となったのである。
また惑星ラゴンからも、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊が発進。ノヴァルナも第1艦隊で出動し、『ナグァルラワン暗黒星団域』でカーマック星系からやって来る輸送船団と合流。その直掩を行う手筈となっている。第1艦隊が後方支援的な配置になっているのは、これに所属していたシンモール=ザクバーとカッツ・ゴーンロッグ=シルバータの部隊が、前回の戦いで壊滅的打撃を受けて再編中だからである。
ただしこの築城部隊の中に、昨日ノヴァルナへ作戦立案とその指揮を直訴した、キノッサの名前は無い。
また別動隊として第4艦隊・第10艦隊がアイノンザン星系方面へ、第2艦隊・第13艦隊が、第3艦隊とノアの災害派遣部隊がいるミノネリラ宙域のウモルヴェ星系へ進出。他の敵部隊が動いた場合に備える。
これにより惑星ラゴンには整備中の第8艦隊の他に、第12艦隊と第14艦隊が残るだけという、手薄とも呼べる状況となるが、ここで意味を持って来るのが、トクルガル家との同盟だ。
トクルガル家がイマーガラ家に従属していた時代は、ウォーダ家の敵対勢力だったため、大規模作戦を行うにもミ・ガーワ宙域方面へ、戦力を配置しておく必要があった。それが両家が同盟関係となった事で、トクルガル家に背中を預けられるようになったのである。
これはトクルガル家も同様で、後背の心配をする事無く、現在はミ・ガーワ宙域での勢力拡大を図る事ができていた。
会議を終えたノヴァルナは、カーナル・サンザー=フォレスタを呼び止め、話があるから、と執務室へ付いてくるように命じる。そこに待っていたのはトゥ・キーツ=キノッサだ。ノヴァルナはサンザーにソファーを勧める。
「サンザー。まぁ座れ」
「ははっ」
畏まりながらソファーに腰を下ろしたサンザーに、ノヴァルナもその向かい側へ座り、「キノッサ。てめーも座れ」と促す。キノッサは「はい」と応じ、二人の間の小振りのソファーに、ちょこんと座った。
「サンザー」
「は…」
応えるサンザーにノヴァルナは、今しがたの会議で話した中身を、あっさりと否定する。
「さっきの会議の話な。あれは忘れろ」
「はぁ?」
そして親指でキノッサを指差しながら、簡単に言い放つ。
「次の『スノン・マーダーの空隙』への築城作戦は、コイツにやらせる」
「はぁ!!??」
肝の座ったサンザーもこの時ばかりは、驚きのあまり頓狂な声を上げた。お構いなしにさらに続けるノヴァルナ。
「つまり、コイツが大将さま。で、おまえの第6艦隊は、コイツの援護だ」
茫然とするサンザーを前に、キノッサはソファーから一旦立ち上がり、深々とお辞儀をする。そして誠実そのものの口調で告げた。
「ご助力のほど、何卒よろしくお願い申し上げます!」
とは言え困惑を隠せないサンザーは、ノヴァルナに問い質す。
「それでは、会議での部隊編成などは?…嘘なのですか?」
「やるよ。全部陽動だけどな」
ノヴァルナはそう応じながら右手を振って、突っ立ったままのキノッサに、もういいから座れと身振りで命じる。
「………」
キノッサがソファーに座り直す様子を見て、サンザーは胸の内で“うーむ…”と唸った。自分達の主君が、この小柄な猿顔の若者を妙に気に入っており、何かにつけ重用していること。そして“フォルクェ=ザマの戦い”後、パイロットの道を諦めて、戦略や戦術、艦隊指揮を熱心に学んでいるという事も知っている。しかし、ろくに少人数の部隊の指揮すらした事がない“子供”に、いきなりの大役とは…
「不納得か?」
尋ねて来るノヴァルナに、サンザーは正直に言葉を返した。
「不納得にございます」
「そらそうだわな」
頷いたノヴァルナは、当然だろうという表情でキノッサに命じた。
「キノッサ。てめーから計画の中身をサンザーに説明しろ。このノヴァルナ様の配下にも、イースキー家のティカナックとかいう奴に負けねぇ、知恵者がいる事を教えてやれ」
やがて二時間後、カーナル・サンザー=フォレスタはノヴァルナに、「仕方ありませんな。殿の酔狂に付き合わせて頂くと致しましょう…」と言い残し、執務室を退出する。ただその鋭い眼は、“これは面白くなって来た…”と、語っているようであった………
▶#09につづく
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