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第4話:ミノネリラ騒乱
#30
しおりを挟む自分が乗る『センクウ・カイFX』目掛けて群がり始める、敵機の大群を映し出した戦術状況ホログラムを眺め、ノヴァルナは「モテる男はツラいねぇ」と軽口を挟む。
だが、かつて皇都惑星キヨウへ旅をした時に会った、伝説のパイロットヴォクスデン=トゥ・カラーバから享受されたように、どれほど高い技量を持ったパイロットでも、殺到する無数の敵機には太刀打ちできないのが世の常である。それ故にノヴァルナは策を用意していた。
「ウイザード18。連中を十分に引き付けてからの射撃だぞ」
ノヴァルナは敵集団の動きを注視しながら、“ウイザード18”の符牒を与えられているショウ=イクマの、電子戦特化型『シデン・カイXS‐CE』へ指示を出す。この戦術でカギを握るのは、イクマの機体だ。そのためか「了解」と返すイクマの声も、幾分緊張しているように感じられた。
超高速で双方が距離を詰めて来ているため、敵の位置を示すセンサーの反応は、猛烈な速さで近付いて来る。個人の程度差こそあれ、緊張するのはノヴァルナも同じだ。それでも十秒…二十秒と、神経を集中させて待ち、“今!”とタイミングを見極めた。そして発令。
「ウイザード18。射撃開始。全弾バラ撒け!」
強い口調で命じるノヴァルナ。それに応じイクマの『シデン・カイXS‐CE』は急停止すると、超電磁ライフルをノヴァルナの針路前方に向け、楕円状に連射した。一弾倉分八発が放たれると、イクマは即座に弾倉を交換し再び全弾連射。それが終わるともう一度、全弾連射を行う。
計三十二発放たれたのは、ノヴァルナが装填を命じておいた“電子共鳴弾”であった。弾倉交換の時差を置いて撃たれた三十二発は、うまい具合に前方を進むノヴァルナと二人の『ホロウシュ』の機体を、球状に包み込む。
すると次の瞬間、今まさに攻撃体勢に入ろうとしていた、イースキー軍の機体のセンサーに、突如として三十三機もの『センクウ・カイFX』の反応が出現した。
「わぁっ!」
「なにッ!?」
「馬鹿な!」
口々に驚きの声を上げ、襲撃行動を中断するイースキー軍のパイロット達。ある者は急旋回。ある者は急降下。またある者は急降下で、機体の針路を変更させる。ノヴァルナ目掛けて無数のBSIやASGUL、攻撃艇が集まって来ていた状況でのこの急激な回避運動は、後続している期待にもたちまち伝播した。
その中で爆発するイースキー軍のBSIユニット『ライカ』。そこへ全周波数帯通信で響く、ノヴァルナの高笑いと口上。
「アッハハハハ! どーよ、ノヴァルナ流“分身の術”は!」
“ノヴァルナ流分身の術”は、機体が更新された『センクウ・カイFX』の新たな機能の一つである。『ホロウシュ』のショウ=イクマが乗る、電子戦特化型『シデン・カイXS‐CE』が放った、電子共鳴弾が『センクウ・カイFX』の機体情報を放出し、あたかも三十二機の“分身”がいるように、敵機のセンサーに偽情報を与えるというものだ。
イクマの機体から放たれた電子共鳴弾は、『センクウ・カイFX』の周囲の所定の位置に達すると、反重力ダンパーによって慣性をゼロにした共鳴モジュールを分離。『シデン・カイXS‐CE』を介して『センクウ・カイFX』の、リアルタイムな機体情報を取得・放出する。
リアルタイムである必要性は、たとえば本物の『センクウ・カイFX』が、すでに損傷を受けていた場合、偽情報との間で差異が発生して見分けがつきやすくなるためであり、イクマの機体が共鳴モジュールをコントロールするのは、発射後に後方へ下がるイクマの方が、前線のノヴァルナ本人より、精緻な操作が可能だからである。
敵のBSI部隊が混乱した機を逃さず、ノヴァルナは超電磁ライフルを構えて立て続けに“つるべ撃ち”する。たちまち砕け散る敵の量産型BSI『ライカ』や、ASGULの『エランドン』が三機…四機…
しかも『センクウ・カイFX』本体の動きは、“分身”にも反映されるため、実際に弾は撃たなくとも、センサーにライフルの射撃反応が表示されて、これも敵に混乱の度合いを大きくさせる。
「何が“分身の術”だ! そんな子供だま―――」
強がって見せても、銃弾という非情な現実に言葉途中で爆砕される僚機に、指揮官の一人が咄嗟の対抗策を講じようとする。
「本物のノヴァルナには、護衛が付いているはずだ。そちらの表示が出ているヤツを狙え!」
なるほど星大名家当主自身がBSHOで戦場へ出て来るなら、何機かの親衛隊がどんな時でも、護衛についているはずである。しかしそれはあくまでも、世間一般の“常識”の範疇においてだった。事実、三十二の“分身”が現れる前までは、ノヴァルナ機の護衛についていた二機の親衛隊、ランとフォークゼムの機体は、今では単独で行動し、次々と敵を撃破している。
そしてそこへ後続していた残りの『ホロウシュ』の、『シデン・カイXS』が到着して戦闘に加わると、状況を打開できずにいたイースキー軍BSI部隊は、数ばかりが多い、烏合の衆も同然となった。
恐慌とは、数が多いほど一度起こると、止まらなくなるものである。約360機もの戦力を有しながら、イースキー軍BSI部隊は、最前列でノヴァルナが起こした“分身の術”騒ぎによる混乱で、たった十八機のウォーダ軍BSI部隊の前に、完全に浮足立ってしまった。
「何をやっているのだ!? 味方のBSI部隊は!!」
敵将トモスは、BSI部隊などの機動兵器戦を担う参謀に、殴りかかりそうな勢いで詰問する。
「それが…ノヴァルナ殿の機体の、ダミー情報に翻弄されているようで…」
「それなら質量体スキャンをかけて、実体情報を味方に送信しろ」
トモスはオルグターツに従ってはいるが、子飼いではなくサイドゥ家時代からのベテラン武将であって、実戦経験も豊富で能力は低くない。本来なら高々度ステルス艦―――いわゆる“潜宙艦”の発見に使用する、質量を持ったものを検出する質量体スキャンで戦場を走査し、ダミー情報では欺瞞できない本物の『センクウ・カイFX』の質量を検出。これを艦隊からBSI部隊へ、リアルタイム送信させようと考えたのである。実戦経験の豊富な指揮官らしい応用判断だった。
ところが機動戦参謀の返答は、「すでに行っております」のだという。
「なに? それでなぜ、状況が改善されない!?」
苛立ちを隠せない様子で、トモスは問い質した。これに対する参謀の回答は、ノヴァルナのしたたかさを示すものと言える。
「スキャナーが、この“タクバークの雲”を構成している、大量の氷塊の質量まで拾ってしまい、どれがノヴァルナ殿の機体の質量なのか、判別不明なのです」
「むう!…」
ノヴァルナがイースキー第2艦隊の待ち伏せ場所に、この“タクバークの雲”を選んだのは、こういった理由からであった。トモスがビーダとラクシャスの子飼い武将のような“駆け出し”ではなく、ベテラン武将の一人である事はノヴァルナも知っており、電子共鳴弾の出す欺瞞情報だけでは、すぐに対抗策を思いつかれるかも知れないと考えたのだ。
残る打開策は肉眼で見る事だが、秒速数万キロの速度で宇宙空間を飛び回る物体など、実際の視覚で捉える事など不可能である。BSIユニットのコクピットを包む全周囲モニターの映像も、センサーが捉えた相手のデータを、視覚化して映し出しているのであって、カメラが捉えたものをそのまま映しているのではない。この実際の眼では確認できないというのが、“ノヴァルナ流分身の術”の極意だった。
▶#31につづく
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