銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
115 / 526
第4話:ミノネリラ騒乱

#32

しおりを挟む
 
「敵宙雷戦隊、急速接近!」

「迎撃だ。迎撃しろ!」

 正体不明の爆発に混乱するイースキー軍第2艦隊にとって、ウォーダ軍の宙雷戦隊に頭を押さえられる形になるのは非常にまずい。戦艦は副砲を、重巡以下の宇宙艦は主砲を、宙雷戦隊へ向けて撃ち始める。しかし艦列が乱れ、各艦がてんでばらばらに射撃しては、命中率は上がらない。しかも戦艦の主砲ではなく副砲、そして重巡以下の主砲では、“タクバークの雲”を構成する氷塊が障害となる。これに宙雷戦隊が激しく、上下左右にランダムな針路を取って突撃して来るとなれば、命中率はぐんと下がる。

「敵宙雷戦隊、速度変わらず。なおも接近中!」

 イースキー軍のオペレーターの言葉通り、ウォーダ軍の二つの宙雷戦隊には、損害らしい損害がない。僅かに駆逐艦三隻が被弾しただけで、戦闘行動に支障はなさそうである。
 こういった場合、本来なら宙雷戦隊より高機動戦闘に優れる、BSI部隊で迎撃するのが常道であるのだが、緒戦でノヴァルナがBSHOで戦場に出ている事に気付いたイースキー側が、BSI部隊の全力出撃を行ったため、迎撃は出来なくなっていた。

「敵宙雷戦隊。全艦、魚雷発射した模様!!」

 オペレーターの声が緊張の度合いを増す。宙雷戦隊の統制雷撃は、高い能力を持つ基幹艦隊にとっても重大な脅威だ。発射された無数の自律思考式宇宙魚雷が、思い思いに氷塊の間を縫って迫って来る。

「宇宙魚雷。総数約三百!」

「迎撃急げ! 誘導弾発射!」

 各艦が発射した迎撃誘導弾は六百を超える。しかしこちらは誘導式であっても、宇宙魚雷のような自律思考型ではないため、氷塊に激突するものも少なくない。撃破されたのは百本ほどの魚雷で、残りは艦隊へ殺到して来た。ここまで接近されると、艦隊全体の防御というより、各艦個々の防御距離となる。それぞれの宇宙艦がCIWS(近接迎撃武器システム)を起動させ、激しくビームを放ち始める。艦の至近距離で立て続けに起きる、宇宙魚雷の爆発。そしてそれを搔い潜った魚雷より、宇宙艦にもまた爆発が起きた。

 結果としてイースキー軍第2艦隊で魚雷を喰らったのは二十三隻。艦隊の三分の一程度である。戦艦で撃破されたものは無かったが、重巡4・軽巡7・駆逐艦9・空母3が撃破されるという、少なくない損害を受けた。この状況にトモスは艦隊を一時後退させ、態勢を立て直すよう命じる。

 ところがこれが、ノヴァルナの張った第二の罠であった。
 
 状況が悪化しないうちに、態勢を立て直そうというトモスの判断は正しい。彼等にとっては正体不明のノヴァルナからの超空間狙撃も、試射用弾丸が尽きて打ち止めとなった事を知るはずもなく、そちらへの警戒も続けなければならないからだ。

 ただこういった、戦闘経験を幾度も積んだ武将ほど、ノヴァルナの計略に掛かり易くもある。隊列を乱したまま、一時的に氷塊の密集地帯から離脱しようとする、イースキー軍第2艦隊に襲い掛かったのは、ウォーダ軍の魚雷艇部隊だった。

 すでに述べた通り今回のノヴァルナの第1特務艦隊には、八隻の『クォルガルード』型戦闘輸送艦が含まれていて、その内の四隻には、合計二十四隻の魚雷艇が搭載されている。それらは第1特務艦隊がノヴァルナのBSI部隊を出撃させた後、現在位置に達する前に発進。氷塊に紛れて宇宙空間を漂いながら、敵艦隊をやり過ごし、背後へ回り込む事に成功していたのである。

 突撃して来たウォーダ軍の二つの宙雷戦隊の撃退と、立て直しのための後退運動に気を取られていたイースキー軍第2艦隊が、新たに九十六本の宇宙魚雷を感知したのは、その時であった。

「近距離に魚雷反応!」

「魚雷発射を感知! 近い!」

「魚雷発見! 緊急回避の要有り!!」

 イースキー軍の複数の艦で、悲鳴のような報告が上がる。完全に不意打ちを喰らう形となった状況に、パニックが発生した。慌てて針路を変更しようとする戦艦同士が衝突、互いに艦腹を大きく抉り合ったかと思えば、大型の氷塊に真正面から通込み、艦首をグシャグシャに潰される重巡航艦。艦列が乱れた状態で主砲を旋回しながら連射し、味方の空母の艦底部を撃ち抜く軽巡航艦。CIWSによる魚雷の迎撃に成功したものの、至近距離で自爆され、舷側が醜くささくれだつ駆逐艦など、宙雷戦隊が突撃して来た時以上の損害が出始める。

 すでにノヴァルナの狙撃で速度が低下していたトモスの旗艦も、この襲撃で魚雷を一本受け、いよいよ戦闘指揮は難しくなった。

「旗艦を変更なされますか?」

 艦隊参謀が表情を強張らせて、トモスに問い掛ける。これに対しトモスは苦虫を嚙み潰したような顔で「うーむ…」と唸ったあと、絞り出すような声で命じた。

「いや…撤退する」

 ドボラ城への増援は、付近の独立管領ダルタ=ヴェルタに艦隊を出すよう、依頼している。ここはノヴァルナの戦力を引き付けた、という意味でドボラ城への一定の援護は出来たと見るべきだ…と、自分に言い聞かせての言葉であった。




▶#33につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...