銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#11

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 ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの、正統新星帥皇への即位が交付されたその日、ノヴァルナは『ゴーショ・ウルム』を参内していた。自分的に内心では面倒臭い限りなのだが、行事が行事だけに出向かないわけにはいかない。純白の第一種軍装に身を包んだノヴァルナは、玉座に付いたジョシュアの前に片膝をつき、祝いの言葉を述べる。

「この度のジョシュア陛下のご即位。まことにおめでとうございます。我等一同、これに優る慶びはございません。これより先はさらなる力を尽くし、皇国の秩序回復に努める所存にございます」

 ノヴァルナの言葉を受け、ジョシュアは鷹揚に頷いた。キヨウに来るまでに側近や上級貴族達に、星帥皇という地位に相応しい立ち居振る舞いの、レクチャーでも受けたのであろう、初めて会った頃の浮ついた感じはかなり抑制されている。その上級貴族達は玉座の右側。星帥皇室の直臣達は玉座の左側に並んで立っていた。

「ノヴァルナ殿とウォーダ家並びにトクルガル家、アーザイル家のここまでの多大なる支援に、深く感謝する。余にこの日が迎えられたのも、ノヴァルナ殿らの尽力があっての事。この恩は決して仇や疎かにするものではない。この大功に如何なる恩賞を持って報いるべきか…望むものがあれば、遠慮なく申されよ」

 早くも恩賞の話か…と、ノヴァルナは内心で舌打ちする。この辺りもどうせ、上級貴族達が吹き込んだのだろう。NNLのシステムを掌握したと言っても、まだ何も始めていないというのに、いい気なものである。
 するとジョシュアの側近のトーエル=ミッドベルが、ノヴァルナの批判的な気持ちを知る由も無く、むしろ逆なでするような事を言い出した。

「ジョシュア陛下におかれては、まず第一にノヴァルナ殿への摂政もしくは、関白の地位の授与をもって、大恩に報いたいと思っておられる。望まれる方をノヴァルナ殿に選んで頂きたい」

 “関白”という言葉を聞いて、ノヴァルナは反射的に「やなこった!」と、言いそうになるのを堪えた。別に確定した論理的理由があるわけでは無いが、かつてムツルー宙域へ飛ばされた時の出来事から、自分が関白の地位を得る事で、妻のノアの生死が関わって来る気がしてならないからだ。
 ただそのような理由は抜きにしても、今のノヴァルナにそんな地位は、どうでもいいものであった。他にやるべき事は幾らでもある。

「関白か摂政…にございますか」

 ノヴァルナが確認すると、トーエルは「さよう」と、返答を待つ眼をする。それに対しノヴァルナは、あっけらかんと告げた。


「要りませんな」


 ノヴァルナの素っ気ない拒絶の言葉を聞き、ジョシュア以上に呆気にとられたのが、トーエル=ミッドベルをはじめとする側近達と、バルガット・ヅカーザ=セッツァーをはじめとする上級貴族達であった。摂政も関白も、星帥皇の権威を代行する者であって、地方の星大名がその地位を望んだとしても、容易く手に入るようなものではないからだ。

 ノヴァルナがきっと喜ぶはず…と想像していたらしいジョシュアは、困惑気味に左右のバルガットやトーエルに視線を走らせる。

「ご、ご不要と申されるか? 摂政もしくは関白ですぞ?」

 トーエルもノヴァルナのこの反応は、予想外だったのだろう。口ごもりながら問い質す。無論、ノヴァルナもその地位の価値は知っている。だがノアの生死云々の話を抜きにしても、今のノヴァルナはそのような地位を、欲してはいなかった。必要なのは、銀河皇国にとっての実利である。友であったテルーザも、それを望んでいるだろう。

「折角の有難き思し召しなれど、今は時期尚早と考えまする。まだまだ片づけてゆかねばならぬ事多きゆえ、銀河皇国に秩序と安寧を取り戻したそののちに、改めてゆるりと考えさせて頂きとうございます」

 “興味ねーし”という本音を、無意味な言葉で幾重にも重ね着させ、ノヴァルナはやんわりと言い放った。すると上級貴族の一人が提案する。

「では、どこかの植民星系を領されるのは、如何でしょう? 皇国直轄領の中からお望みの星系を幾つか、譲渡させて頂きまするが」

 しかしノヴァルナは、「それも結構にございます」と首を左右に振る。戦国の世で、“飛び地”のような植民星系をもらっても、維持に無用な戦力を裂かねばならないだけだ。「それよりも―――」と、ノヴァルナはこれから自分と、ジョシュア達が為さねばならぬ事を口にした。

「必要なのはまず、この皇都キヨウの復興。皇国の中心たる皇都惑星と、そこに暮らす人々が落ち着いてこそ、皇国再興の基盤となりまする。そして然るのちに各宙域の戦乱を鎮め、銀河に秩序と安寧をもたらす。そのために陛下と星帥皇室におかれましては、不肖このノヴァルナに、ご助力を頂きとうございます」

 そう言うノヴァルナに、ジョシュアは「勿論、協力は惜しまない」と応じる。だが上級貴族筆頭のバルガットは、思う所があるようで太い眉をピクリと震わせた。それでも口には、そのような気配を出しはしない。

「流石はノヴァルナ公ですな。戦勝に奢らず、常に先を見ておられる。我等としても最大限のご支援をさせて頂きますぞ…もっとも、現状で出来る事などは、知れておりますが」



▶#12につづく
 
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