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第8話:皇都への暗夜行路
#15
しおりを挟む話によると今から八年前、ナーグ・ヨッグに『アクレイド傭兵団』との、提携話を持ち掛けたのは、“三人衆”だったらしい。ただ以前に触れた機会があったが、ミョルジ家と『アクレイド傭兵団』の提携を決定づけたのは、すでに当時のノヴァルナの行動が大きかった。
当初はミョルジ家を中心に、セッツー宙域やカウ・アーチ宙域など、周辺宙域の有力独立管領を糾合した戦力のみで、キヨウを占領する予定であり、『アクレイド傭兵団』との提携は見送られる予定だったらしい。
ところが同時期に全く無関係な所で発生した、ノヴァルナとロッガ家との抗争で、ロッガ家が極秘裏に、対ミョルジ家用の宇宙艦艇を大量に建造中である事が発覚。これを知ったナーグ・ヨッグは一転、『アクレイド傭兵団』との提携を承認し、キヨウ侵攻の開始時期を、前倒しして早めたのである。
「あとはノヴァルナ様もご存じの通り、次第にミョルジ家は傭兵団と癒着の度合いを深め、傭兵団の戦力に頼り切るようになってしまいました。そしてナーグ・ヨッグ様の服毒自殺…これもまた実のところ、本当に自殺だったのか怪しいもの、と言わざるを得ません」
ヒルザードがそう言うと、ノヴァルナは腕組みをし、胸を反らせて応じた。
「誰かが毒を盛った可能性も、否定的できねーと?」
「はい」
頷くヒルザードに、ノヴァルナは不意に不敵な笑みを浮かべ、上体を屈めると覗き込むようにして問い掛ける。
「あんたが毒を盛った可能性も…あるってこったな?」
これを聞いたヒルザードもまた、口許を大きく歪めて悪魔的な笑みを浮かべ、ノヴァルナの視線を真正面から受け止めながら言い放つ。
「…滅相も無い」
「………」
「………」
無言の時間が流れたあと、ヒルザードの方から、ゆっくりと口を開いた。
「精神を病まれていたとはいえ、私はナーグ・ヨッグ様の戦略眼を高く評価し、忠義を尽くすに値するものと考えておりました。そのようなお方を、手に懸けるような事は致しませんよ」
ノヴァルナは「ふん…」と鼻を鳴らした。ヒルザードの言っている事はつまり、相手が使える間は忠誠を誓うという事であり、最初に言ったミョルジ家から寝返った理由である、“使えなくなった”と、同じ意味なのだ。
「て事は、ウチに寝返ったのも、ウチがあんたにとって使える存在だからか?」
ノヴァルナの問いに、ヒルザードは恭しく…いや、わざとらしく深く頭を下げて応じた。
「このヒルザード、ノヴァルナ様に忠義を尽くさせて頂きますぞ」
ノヴァルナの質問を肯定も否定もせず、一方的に忠誠を誓って来るヒルザードの厚顔さである。これにはさしものノヴァルナも、苦笑するしかない。
ただヒルザードは、ミョルジ家の重臣中の重臣であった。したがってノヴァルナが知りたがっていた、『アクレイド傭兵団』についての重要な情報も、多く握っているのは間違いない。特にテルーザを基にした、バイオノイドのエルヴィスに関しては、決定的な情報を持っているはずだ。
薄い笑みを顔に張り付けたまま、言葉を待つヒルザードにノヴァルナは告げる。
「俺に付こうってんなら、『アクレイド傭兵団』についても、洗いざらい話してもらう事になるが、いいんだな?」
するとヒルザードはむしろ、我が意を得たりとばかりに条件を出して来た。
「それにはまず、ヤーマト宙域に得た我が領域の安堵の保証。そしてこのわたくしめを、ノヴァルナ様の政権中枢に置いて頂きたい」
これを聞いて、キッ!…と視線を鋭くしたのは、ノヴァルナではなく隣に座っているランであった。会ってから続いているヒルザードの不遜な態度に、苛立ちを募らせているのだろう。ヒルザードはそんなランに一瞥を送っておいて、ノヴァルナにさらに告げる。
「このヒルザード。必ずやノヴァルナ様の、お役に立ちまするぞ」
前日ノヴァルナの家臣となった、才気あふれるガモフ家の若者、ジークザルト・トルティア=ガモフが自分を売り込んだ時と同じ台詞だが、ヒルザードの言いようは、悪意という名のシロップに漬け込んだような響きがあった。対するノヴァルナは、無頓着に言い放つ。
「要は俺が勝ち続ければ、いいってこったな?」
「そういう事になりましょうなぁ」
「わかった! 明日からここへ出仕しろ」
あっさりと了承するノヴァルナに、ヒルザードもやや虚を突かれた眼をする。
「かように単純にお答えになられて、宜しいので?」
「構わねーさ。その代わりコキ使わせてもらうからな」
「御存分に」
ここに来てようやくヒルザードは表情を穏やかにし、姿勢を正して席を立つと、ノヴァルナの前で優雅に片膝をついて宣した。
「我が忠節は、ノヴァルナ公の御為に」
こんだけ見事で、嘘臭ぇ宣誓もねーな…とノヴァルナは吹き出しそうになりながら、「宜しく頼む」と応じる。そしてすかさず続けた。
「じゃ早速だが、いろいろ訊かせてもらおうじゃねーか」
そこから得た『アクレイド傭兵団』に関する情報は、これよりのちのノヴァルナの行動を、大きく左右させるものとなったのである………
▶#16につづく
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