214 / 526
第9話:魔境の星
#01
しおりを挟むアルワジ宙域はセッツー宙域とアーワーガ宙域の間に位置する、比較的狭い宙域である。昔からミョルジ家の支配下にあり、ミョルジ家が銀河皇国中央部に進出する際の、補給拠点となっていた。
宙域の領主はミョルジ一門のブラグ・ジルダン=アターグ。父親はナーグ・ヨッグ=ミョルジが誤って暗殺した弟の、フーバン・イスケンデル=アターグ。ミョルジ家と姓が違うのは、アルワジ宙域最大の独立管領であった、アターグ家の養子に入ったためだ。この養子縁組によってミョルジ家は、アルワジ宙域の支配権を得たのである。
ノヴァルナ・ダン=ウォーダはここにいた―――
現在ヤヴァルト宙域のナグオーク・キヨウ星系で戦っている、仮面のノヴァルナは二人とも影武者であった。
彼等に現地での戦術を授けた本物のノヴァルナは、ミョルジ家討伐部隊を大規模な“陽動”に使い、正式に家臣となった宇宙海賊『クーギス党』と共に、このアルワジ宙域へ潜入した。その目的はこの宙域にもう一人の星帥皇、エルヴィス・サーマッド=アスルーガがいるという、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガからの情報を得て、彼と直接会うためだ。無論、どのような出会いとなるかは予想もつかず、“命懸けのアポなし突撃”というわけである。
今回の『クーギス党』の編制は『ラブリードーター』と、『プリティドーター』の輸送艦二隻。それに四隻の貨物船と、高々度ステルス艦―――潜宙艦が一隻。潜宙艦はかつてヴァルキス=ウォーダが治めていた、アイノンザン=ウォーダ軍のものであった。四隻の貨物船がいるのは、小規模な恒星間運輸企業を装っているためであり、それぞれの船倉にはカモフラージュとして、希少鉱物の詰まったコンテナが搭載されている。
旗艦は改造高速輸送艦の『ラブリードーター』。こちらの船倉には『センクウ・カイFX』が格納されているが、機体はこれだけではなく『サイウンCN』と、二機の親衛隊仕様『ライカSS』も一緒にいる。つまりノヴァルナの妻のノアと、彼女の護衛としてメイアとマイアの双子姉妹も、同行しているという事だ。
さらに『ホロウシュ』の代わりにノヴァルナの護衛役として、カーズマルス・タキーガーとその配下の特殊陸戦隊が付いていた。
旗艦『ラブリードーター』の艦橋で、「着いたよ。殿様」とノヴァルナに声を掛けた、『クーギス党』副頭領のモルタナ=クーギスは、さらに確認の問いをする。
「最初の目的地は、ユラン星系でいいんだね?」
それに対してノヴァルナは頷いて告げる。
「おう。そこで現地協力者と落ち合う」
いきなりエルヴィスに会うにしても、初めて訪れた宙域である。右も左も分からない状況では、さすがのノヴァルナでもどうしようもない。
そこで元はミョルジ家の重臣であった、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが手を回し、事情に詳しい者をノヴァルナの協力者として、手配してくれていたのである。
「ユラン星系は…っと」
モルタナは航法用スクリーンに、アーカイブからアルワジ宙域の宇宙地図を呼び出し、ユラン星系を検索する。ものの十秒も経たずして、宇宙地図にユラン星系の位置と自分達の現在位置、さらに最短コースの航路と、所要時間等の情報が表示された。
「ここからの距離は直線距離で約350光年…。だけど途中に、強力な放射線を出してるパルサーがあるから、これを回避しながらDFドライヴを繰り返して、一日半程度ってところだね」
「おう。早速向かってくれ」
「あいよ」
正式にウォーダ家の家臣となった以上、ノヴァルナとの間に主従関係が発生しているモルタナだが、対等な言葉遣いであった。これはノヴァルナからの要請であったのだが、あくまでもこういった内輪の状況下にある場合であって、ウォーダ家の公式の場では、他の家臣と同じように臣下の礼を取っている。
ノヴァルナはモルタナに指示を出すと、艦橋奥にある『ラブリードーター』のラウンジへ向かった。そこにはノアとカレンガミノ姉妹。カーズマルス・タキーガーに、事務補佐官のジークザルト・トルティア=ガモフがいる。
「ユラン星系に着くのは、明日の終わりぐらいになりそうだ」
ラウンジに入るなりそう告げたノヴァルナは、ソファーに座るノアの隣に腰を下ろした。ノアは気にしている事を口にする。
「協力者という人…信用がおける人物だといいんだけど」
ノアの懸念は、要はその協力者を手配したという、ヒルザードの人格に対するものだ。しかしノヴァルナは、「大丈夫なんじゃね」と、軽い調子で応じる。
「またそんな適当な…」
溜息交じりに反応するノア。ただ同席しているカーズマルスも、ノヴァルナに賛意を示す。
「マツァルナルガ殿は確かに信用の置けない人物ではありますが、このような事で誰かを罠に嵌めるような、そういった信用の置けなさではないと思います。ここは信じてよいのではないかと…」
「タ・キーガー殿がそう言うなら、信じると致しましょう」
ノアの言葉を聞いて、ノヴァルナは「なんか気に入らねー言い方だな」と、口を尖らせた。
▶#02につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる