銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#02

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 ユラン星系は第三惑星ジュマと第四惑星ラジェが、人類の居住に適した環境にある。このうち二十年ほど前から、銀河皇国の入植が開始されているのが、第四惑星ラジェであった。第三惑星ジュマの方は、環境そのものは前述の通り人類の居住に適してはいるが、別の理由で入植は行われていない。

 旗艦『ラブリードーター』に率いられた『クーギス党』船団六隻は、ユラン星系に到着すると、惑星間巡航速度で第四惑星ラジェへ向かった。主恒星ユーラの光を受けたラジェは、水色をした半月型に見えている。また第三惑星ジュマも公転位置が近くなっており、こちらはラジェの向こう側で、緑色をした色づき始める前のレモンのような姿を、宇宙の闇に浮かべていた。

 あと一時間ほどでラジェへ着くという距離に達した時、『ラブリードーター』のオペレーターの男がモルタナに報告する。

「お嬢。ラジェから、小型船がこちらへ向かって来やす。どうやら交易保安局の船のようですぜ」

「オーケー。このまま進みな。普段通りさ」

 到着前に保安局が船で積荷の検査にやって来る事は、開拓が始まったばかりの植民惑星では、よくある事であった。宇宙港の検疫設備が、まだ充分に稼働していない場合の代替措置である。そして想像通り、直後に小型船から、“自分達はラジェ宇宙運輸管理局で、検閲に来た”という趣旨の通信が入った。受け入れ了解の返信を命じたモルタナは、艦橋に来ていたノヴァルナに向き直って言う。

「ここはあたいに任せてもらうよ」

 頷くノヴァルナは、カーキ色をベースにした船員の衣服に着替えていた。それだけではなく、ナグヤ=ウォーダ時代のように頭髪の一部に、ピンク色のメッシュを入れるのを復活させ、ノアを呆れさせている。

 やがてラジェ宇宙運輸管理局の小型船が、『ラブリードーター』に接舷した。どこか別の植民星系で、使い古されたものを持って来たらしく、な外観をしている。小型船から乗り込んで来たのは十五名。うち五人が軽武装の護衛兵だ。スーツ姿の十名が管理局職員で、データパッドを手に持った小太りの中年男が、彼等のチーフらしい。

「えーと…『パリウス宙運』ですか。聞いた事のない会社ですな」

 チーフの男が片手で側頭部を掻きながら、もう一方の手に持つデータパッドに表示された、船籍登録票を眺めて問う。『パリウス宙運』などという名もそうだが、登録票自体が偽造なのは言うまでもない。ただ応じるモルタナは慣れたものだ。

「市場開拓ってヤツですよ。これからはこっちの方でも、稼がせてもらおうと思いましてね」
 
 小太りの管理局チーフは「ふぅむ、なるほど…」と応じて、積荷リストに眼を遣る。対消滅反応炉内部の中性子吸着エンハンサーに使用する、希少金属のアヴェラル・コゥや、重力子誘導の効率を大幅に上げるアクアダイト。反転水素の不活性化に欠かせないマフター結晶体など、リストに並んだ品目はエネルギー発生関係の、確かに新興植民惑星では自前で調達しにくく、輸入が必要とされる品々ばかりである。

 …いや、それよりも気になるのは管理局チーフの視線だった。顔は積荷リストを見てはいるが、その眼球はモルタナの方と激しく行き来している。なるほどモルタナはいつもながらの、豊かな胸の谷間も露わにしたへそ出しショートパンツの、肌の露出の多い衣服を身に着けていた。男の視線が行く理由も分かるというものだ。
 モルタナ自身も男の視線に気付いたらしく、“ん…?”といった表情をする。しかも彼女に視線を注いでいたのは、チーフだけでなく同行している他の男達もだ。ただそこからがモルタナらしく、わざと男達に自分の体を晒すように向き直った。

「むほん」

 ひとつ咳払いをしたチーフは、相変わらずモルタナの体と視線を行き来させながら、勿体ぶるような口調で告げる。

「リストは確認しましたが、このラジェはご存じの通り新興植民惑星でして、正式な税関通過となると、審査に少々時間が…」

「時間とは?…どれぐらいでしょうか?」

 キャラ違いの丁寧な言葉遣いを続けるモルタナは、傍らでノヴァルナが吹き出しそうになっている姿を睨みつけて、チーフに問い掛けた。

「一週間ほどになりますかな」

 すまし顔で言い放つチーフ。そんなに長く足止めを喰らっていられる、ノヴァルナ達ではない。しかしモルタナに慌てる様子はなかった。こういう展開を予想していたようで、大きくはだけさせた胸の谷間から、小型の細い六角形の透明スティックを指で摘まみだすと、チーフの男に胸が触れる寸前まで歩み寄って囁く。

「私達、急いで積荷を降ろすよう依頼されていますの…これで、何とかして頂けませんか?」

 そう言ってモルタナが差し出した透明スティックを、チーフは受け取って、先端部分をデータパッドの画面隅に触れさせた。すると画面に数字が表示される。乗り込んで来た男達が、三日ほどは飲み代に困らない金額だ。
 チーフの小太りの男は視線を落とし、間近に迫ったモルタナの胸の谷間を堪能しながら、フリーペイジスティックをポケットにしまい込んで告げた。

「それほどお急ぎなら仕方ないですな…なんとか手配して差し上げましょう」




▶#03につづく
 
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