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第9話:魔境の星
#12
しおりを挟む密林の中に姿を現した超大型のイソギンチャクのような怪物。動物なのか植物なのかも不明な“それ”は、触手で捕らえた巨大怪鳥を、さらに他に生えた触手も使ってがんじがらめにし、てっぺんにある口へと運んで行く。ギャーギャーと甲高い金切り声を上げてもがく巨大怪鳥。残りの巨大怪鳥は、捕らわれた仲間を見捨てて、我先にと散り散りに飛び去った。
この光景を見て、泡を喰った表情をしたのがガンザザである。
「馬鹿な! コイツはもっと南の方が、棲息地のはずだろう!」
そしてガンザザはノヴァルナ達を見渡して言う。
「この近辺から逃げるんだ。早く!」
「どういう事だ!?」
ノヴァルナの問いに、ガンザザは「根が襲って来る!」と応じるが早いか、走り出した。これは只事ではないと察したノヴァルナも、「みんな、行くぞ」と言って駆け出す。その間に触手に絡み付かれた巨大怪鳥は、イソギンチャク型巨大生物の口の中へ飲み込まれてしまった。
するとその直後である。イソギンチャク型巨大生物を中心として、地中から無数の根が、触手のようにうごめきながら、四方八方に伸び出した。そしてそれらは、密林の中にいた様々な動物に襲い掛かり始める。いつしかノヴァルナ達の周囲を、見た事もない動物が追い抜き、走り去るようになった。しかもその種類も数も、次第に増えて来る。動物たちの一目散に逃げる様子に、ノヴァルナも“かなりヤバそうだ”という気になる。
とその時、ノヴァルナの右隣を追い抜こうとする、鹿のような動物が二本の幹の間をジャンプしたところを、下草の中から飛び出した根に巻き付かれ、あっという間に引きずられて行った。“かなりヤバそうだ”ではなく、“かなりヤバい”状況で間違いない。しかも左隣ではノアが並走しているのだから、今の根が右側ではなく、左側に飛び出していたらと思うと、ぞっとする。
そのうえ密林の中を駆けるのであるから、速度は上がらない。それに右隣のノア以外の仲間の姿も、見えなくなってしまっていた。視界を遮る木々の向こうでまた、根に捕えられたらしい、何かの動物の悲痛な叫びが響く。
それから二分ほど無我夢中で走り続けると、不意に密林の中にガンザザの大きな声が聞こえて来た。
「よぉおーーし。この辺りまで来たら、大丈夫なはずだ! 集まってくれ!!」
これに立ち止まり、顔を見合わせるノヴァルナとノア。辺りは知らない間に静けさを取り戻し、逃げ惑う動物の姿も消えていた。周囲を見回しながら「逃げ切れたのかよ?」と言うノヴァルナに、ノアは同じ動作で「そうみたい」と応じる。
密林の中でバラバラに分散してしまったノヴァルナ達は、通信機に備わっているビーコン機能を使って一箇所に集まった。幸いにも今の根の襲撃で、護衛の陸戦隊員も含め、死傷者は出ていないようだ。
「なんだ、さっきのバケモンは?」
首筋の汗を手の甲で拭いながら、ノヴァルナはガンザザに問い掛ける。ガンザザは上衣の懐から取り出したタオルで、顔を擦り「食虫植物ならぬ、食獣植物さ」と告げて続ける。
「アイツは、普段はしぼんで眠ってるんだが、何かの刺激を受けると、“お食事タイム”が始まって、根が張っている範囲…あのサイズだと、だいたい半径三百メートル内にいる、あらゆる動物を捕え始めるんだ―――」
ガンザザの解説では、どうやらあのイソギンチャク型巨大生物は、植物に近い生き物で、普段は植物として活動しているのだが、巨大怪鳥が急降下して来た事を察知し、捕食活動に入ったようだ。そして一度捕食活動を始めると、地中の根が張っている範囲の動物にも襲い掛かるらしい。
ただ本来ならもっと南方に棲息しており、この辺りにまで居るとは、ガンザザも思っていなかったという話だった。
「それにしてもおっさん。えらく詳しいじゃねーか?」
「前にこの星に来た時、仲間が襲われてな。かなりの数が喰われたんだ」
「かなりの数? ここが危険な星だと知ってて、大挙して来る事ような事案が、あったのかよ?」
ノヴァルナに尋ねられたガンザザは、四つ並んだ眼を、二つずつ交互に瞬きさせて、昔話を口にする。
「もう十年…いんや十一年前になるか。このジュマに、お宝を満載した宇宙船が墜落したって話が持ち上がってな。その価値は一生遊んで暮らしても、まだ余るぐらいだって聞いて、命知らずで一攫千金を狙う連中が、こぞって乗り込んだのさ」
「その中の一人が、おっさんだったって、ワケか」
「ああ。皇国科学院の調査資料で、この星は危険な巨大生物だらけだって、みんな知ってはいたんだがな。正直、舐めてかかってた。最初の一日で、半数がさっきのバケモンに喰われて、三日も持たずにラジェに逃げ帰ったんだ」
「なるほど…で、そのお宝満載の墜落船は、見つかったのか?」
それを聞いてガンザザは首を左右に振りながら、苦笑いを浮かべた。
「ここからもっと南の予想墜落地点を、あてずっぽうに探しただけだからな。とりあえず、金属反応があった場所の近くに、着陸はしてみたんだが、地上に剥き出しになった鉱床ばっかりだった」
「無茶苦茶だな」
ガンザザの話に、さしものノヴァルナも呆れ顔になる。
▶#13につづく
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