銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#13

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 出鼻を挫かれる形となったノヴァルナ一行だったが、残った七基の偵察用プローブを、カーズマルスに制御させて態勢を立て直すと、『アクレイド傭兵団』の秘密施設に向かって出発した。施設までは北西におよそ三十五キロである。プローブを密林の上空ギリギリの高さで、進行方向に半円状に飛ばせて警戒。周りを五人の陸戦隊員で固めている。

「どう? 怪獣に出逢えて満足した?」

 樹木の枝から垂れた蔓草が、髪に掛かるのを手で払いながら歩くノアは、少々嫌味を込めてノヴァルナに問い掛けた。最初から乗り気ではないところに、到着早々えらい目に遭ったのだから、嫌味の一つも言いたくなるというものだ。だがノヴァルナは首を捻り、今しがたの騒ぎを他人事のように言う。

「さっきのデカい竜みたいなのや、食獣植物のバケモンか?…うーん、俺の見てぇのとは、ちょっと違うんだよなぁ」

「呆れた…まだ懲りてないの?」

「てゆーか、俺達は怪獣見物に、来たんじゃねーからな。目的は秘密施設だって事を忘れんな」

 これを聞いてノアは天を仰ぎ、肩を大袈裟にすくめた。

「あなたにだけは、そんな事言われたく無かったわ!」

 とは文句を言うものの、ノアはふと懐かしい気持ちになる。ノヴァルナと出逢った頃の事を思い出したのだ。皇国暦1589年のムツルー宙域、未開惑星パグナック・ムシュで、サバイバル生活を余儀なくされた自分とノヴァルナは、原住民のトカゲ人間に追いかけられたり、ワニとカバを融合させたような、体長十メートルはある怪物に、襲われたりしたのである。

 惑星の環境はこのジュマとは正反対の荒涼な星だったが、二人はサバイバル生活の中で、互いを理解出来るようになったのだった。出逢った頃だったら、今のやり取りだけで、口喧嘩にまで発展していたであろう二人が、その八年後には、夫婦となっているのだから、世の中は分からない。

 すると偵察用プローブを操作していたカーズマルスが、コントローラーを兼ねたデータパッドの画面を、ひと睨みして報告する。

「ノヴァルナ様。この先二キロ。なにか大きな生物がいます。迂回致しましょう」

「どれ、見せてみろ」

 そう言ってカーズマルスに歩み寄ったノヴァルナは、データパッドの画面を覗き込むと、「おおおっ!!」と声を上げた。
 画面に映し出されたのは、樹海から背を伸び出した、濃い青灰色の体を持つ二足歩行の巨大な怪物だ。赤い瞳を持つ眼は三つ。大きく裂けたような口には、三重の尖った歯が不規則に並び、腕も二足歩行の恐竜に見られるような細さはない。
 
「おおお、キタぁーーーー!!!!」

 両手でガッツポーズをして叫ぶノヴァルナ。その後頭部をノアが平手で、ペン!とはたく。

「こら! 大きな声で、無闇に叫ぶな!」

 しかしノヴァルナは、お構いなしだ。データパッドの画面を指さして言う。

「これこれ。こういうのを、見たかったってーの!!」

 確かに、画面に映っている偵察用プローブからの映像は、であった。ノヴァルナが喜ぶのも尤もかも知れない。

「よぉおおおおし!!―――」

 さらに叫ぼうとするノヴァルナに、ノアは先回りする。

「絶対に、見に行かないからね!!!!」

 ところがノヴァルナは真顔になって、ノアに「は? なに言ってんだ。おまえ」と、肩透かしの言葉を投げかけた。

「はぁ!?」

 と、しかめっ面をするノア。あっけらかんと言い放つノヴァルナ。

「いやいやいや。逃げるに決まってんじゃねーか!!」

「ここまでの流れ的に、おかしいでしょうが!?」

「なんだノア。てめ、この怪獣見てぇのか!?」

「どうして私なのよ! あなたが言い出したんでしょ!!」

「てか、これじゃどっちがボケで、どっちがツッコミか分かんねーって!」

「そういう話じゃ無い!!」

 また始まった…という顔をするカーズマルス。初見のために“なんだこいつら”という表情のガンザザ。笠とホログラムスクリーンで顔を隠すテン=カイも、無言ではあるが、突然開始されたノヴァルナとノアの掛け合いに、唖然としている空気を感じさせる。まだ子供が生まれていない事もあるのだろうが、八年経っても二人の変わらない部分だ。怪訝そうに問い質すガンザザ。

「あんたら芸人か? 事前にネタ合わせしてるんか?」

 これに対してノヴァルナとノアは、調子も強く、声を揃えて言い返した。

「芸人じゃねーし!」
「芸人じゃないです!」

「そ…そうか」

 なんで俺が怒られるんだ?…と言いたげな不納得顔のガンザザが、手で頭を掻きながら引き下がると、カーズマルスが進み出て、一つ咳払いをして告げる。

「ノヴァルナ様、ノア様。そろそろ…」

 カーズマルスに冷静に諫められて、バツが悪そうなノア。一方でノヴァルナは、気にするふうも無く応じる。

「おう、そうだった。とっとと逃げるとすっか! カーズマルス。案内を頼むぜ」

「かしこまりました。ではこちらへ」

 会釈したカーズマルスは、二足歩行の巨大生物の予想進路を、左回りに迂回するため、北西に向かっていた足を真西に向けた。
 
 ところがノヴァルナ達が、迂回コースを取ってから数分も経たないうちに、カーズマルスは新たな警告を出す。どうやら二足歩行の巨大生物が、こちらを追って来ているらしい。

「なんで追って来るんだ?」

「分かりませんが、プローブの誘導電波に、反応している可能性があります」

「距離はどれぐらいですか?」とテン=カイ。

「約二キロです。ただ歩幅のスケールが違いますので、このままでは程なく、追いつかれるでしょう」」

 カーズマルスの言うとおりである。こちらは密林の樹木の間を、縫うようにして進んでいるのに対し、巨大生物は太い樹木も易々と掻き分けて、真っ直ぐ追って来ているのだ。

「プローブを使うのを、止めちゃどうなんだ?」

 ガンザザが提案するが、これは現実的ではない。カーズマルスが否定する。

「それはだめだ。プローブがないと、警戒能力が大幅に減退する」

 確かに上空警戒のプローブが無いと、視界の悪い密林の中だけで、周囲の脅威を警戒しなければならないからだ。生命反応検知センサーは、この惑星に降り立った時点で、反応が多すぎて小型動物の群れか、巨大生物の個体なのかも判別が難しいため、使い物にならないのは分かっている。そこでノヴァルナは妥協案を出した。

「カーズマルス。プローブを三基か四基、ヤツへの囮にして、別方向へ飛ばせ。警戒能力は低下するが―――」

 だがその言葉を言い終える前に、事態は急転した。複数の偵察用プローブが、ノヴァルナ達の進行方向に大きな動きを感知したのだ。

「ノヴァルナ様! 前方約五百メートル、森が動いています!」

「なにっ!?」

 データパッドの画面を見て声を上げるカーズマルスのもとへ、ノヴァルナは歩み寄る。同時に地震のような揺れが、ここまで伝わり始めた。画面を覗き込むとカーズマルスの言葉通り、密林が盛り上がっていく。するとやがて、樹木と地面を割って、象牙に似た質感の巨大な長い角が一本、さらにやや短い角が二本、伸び出して来た。続いて地中から這い出して来る、鎧のような外皮に包まれた、四足の巨大生物。その姿にノヴァルナは叫んだ。

「こりゃぁ、地底怪獣ってヤツですかぁーーー!!!!」

「やっぱり、喜んでるじゃない!!」

 すかさずツッコミを入れるノア。しかし当然ながら、そんな事をやっている場合ではない。こんどの巨大生物―――地底怪獣は、正面からこちらへ向けて、木々をなぎ倒しながら走り始めたからだ。
 
「総員! 散開して回避! カーズマルス、一旦プローブを切れ!」

 叫んだノヴァルナは、ノアの手を引いて南へと走った。メイアとマイアが二人に続く。あとのガンザザやテン=カイ、カーズマルスと陸戦隊員も木々の間へ。中でも陸戦隊員のカマキリのようなマーティシア星人は、幹をスルスルと登って、枝葉の中へ身を隠した。どうやらこの惑星の巨大生物は、カーズマルスの推察通り、偵察用プローブの誘導電波に反応すると思われる。先程の巨大怪鳥がプローブに襲い掛かったのも、誘導電波のせいだろう。

 四足歩行の巨大生物は、未開惑星パグナック・ムシュでノヴァルナとノアが遭遇した、ワニとカバを合わせたような水陸両用巨大生物の、倍以上の大きさだった。ノヴァルナに命じられて、カーズマルスは即座にプローブの電源を落としたが、地響きは大きくなるばかりである。それに伴いメリメリ、バキバキという、樹木が倒れる音も加わって来た。

「こっちに来てるわ!!」

 轟音の迫って来る方角から、自分達が追われていると感じ取ったノアが、叫ぶように言う。二人の後方を走るメイアとマイアは、ブラスターライフルの安全装置を外した。だがそれを撃ったところで、鎧のような外皮に覆われた巨大生物には、通用しそうにない。
 密林の中を出せるだけの速度で疾駆する四人。前方では枯死した巨木が横倒しになっている。飛び越えられるような高さではない。咄嗟に指示するノヴァルナ。

「下だ!」

 ノヴァルナ達は、横倒しになった巨木が別の巨木の根元に掛かって出来た、下側の隙間をくぐり抜けて先を急いだ。しかし時間を取られたのは否めない。そして程なくしてやって来た“地底怪獣”は、横倒しになっていた巨木など、頭部から突き出した長太い三本の角ですくい上げ、軽々と放り投げてしまう。
 空中を舞った巨木は百メートル近くも飛び、ノヴァルナ達の目の前に落下した。落雷が幾つも重なったような物凄い音響と、大地を揺さぶる震動が起こり、ノアは思わず「きゃあああっ!!」と悲鳴を上げる。さらに最悪なのは落下した巨木が、ノヴァルナ達の行く手を塞いだ事だ。左右どちらかに行くしかないが、“地底怪獣”に追いつかれるのは必至である。視線を合わせて小さく頷いたメイアとマイアは、向かって来る“地底怪獣”にブラスターライフルを構えて、ノアとノヴァルナに告げた。

「私達があれを引き付けます。お二人は今のうちにご退去下さい!」

 立ち止まって「無茶はお止めなさい!」と言葉を返すノア。“地底怪獣”のものではない、新たな咆哮が聞こえたのはその時だった。




▶#14につづく
 
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