銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
235 / 526
第9話:魔境の星

#22

しおりを挟む
 
 “強化奴隷”―――表向き正式には“環境適応化労働者”と名付けられているそれは、銀河皇国の版図拡大における闇の部分であった。

 まだ年端もいかぬ子供を、遺伝子操作によって強化・洗脳、過重労働に耐えられるように改造し、植民星開拓に使役する。銀河皇国がその版図を拡張し始めた頃から、裏社会で取引されていた“商品”だ。

 対象となる子供は、植民に失敗した惑星などで、困窮を極めている貧民家庭から多額の“保護費”で、引き取ったもので、平たく言えば“人身売買”である。買い取られた子供は、闇バイヤーを通じて改造業者に売り渡され、クローン技術を応用した肉体の再構成が行われる。
 改造が完了した“強化奴隷”は、常人より高い身体能力を持つ反面、常人より少ない食料と睡眠時間で、体力の維持が可能となっている。しかしそのリスクは肉体に蓄積されていき、寿命は三十年程度しかない。それにNNL端末の半生体ユニットも摘出され、皇国のNNLネットワークからも、切り離されている。

 当然ながら彼等“強化奴隷”は非合法で、銀河皇国では製作と使役が固く禁じられており、人道的観点からも厳しく取り締まられていた。だがそういった非合法なものに、需要があるのも世の常である。植民惑星開拓業者の孫請け辺りでは、悪質な業者も存在していて、そういった者達が“強化奴隷”を求めているのだ。


 メイアとマイアはこの『バノピア』号へ着くまでに、ヤスーク少年を注意深く観察し、深い密林をものともせず、鍛えられた陸戦隊員を置いてけぼりにして、どんどん進んでいく身体能力の高さと、食べ尽くすまで何年も、船の非常用食料ばかりを食べていたという、ノヴァルナやノアとの会話から感じた、味や嗜好に対する執着の無さに、違和感を覚えていたのである。

 そこでメイアとマイアは、ヤスーク少年に公用語と生きるための情報を与えたという、マスターコンピューターの“フロス”に、直球の問いを投げ掛けるのではなく、情報開示が可能な範囲で肯定または否定が回答となる、単純な質問を積み重ねていく手法で、ヤスーク少年の素性を導き出した。

 そしてヤスーク少年が本当に“強化奴隷”であるなら、『バノピア』号の素性もおのずと知れて来る。“強化奴隷”を届ける“奴隷輸送船”だ。“フロス”がマスターコンピューターでありながら、皇国のNNLシステムとのリンクを遮断されていたり、著しい情報の開示制限を受けている理由も、これで説明がつくというものである。
 
 果たしてこの直後、タイミングを合わせたかのように、ガンザザや配下の陸戦隊員と共に、『バノピア』号の船内調査に出ていたカーズマルスから連絡が入った。

「俺だ。何かあったか? カーズマルス」

 呼出音に通信機の回線を開いて呼び掛けるノヴァルナ。対するカーズマルスは普段から冷静な人物だが、通信の口調は冷静さの中に、悲痛さが加わっているような気がする。

「はっ。現在、船の最後尾区画に来ているのですが…」

「どうした?」

「ミイラ化した子供の遺体を発見致しました。数は二十五。破損したクローニングシリンダーらしき装置の中に入っております」

 それを聞いてノアは身をすくめた。カーズマルスは「映像を送りましょうか?」と訊いて来るが、ノヴァルナはノアのこの反応を見て、「いいや、必要ねぇ」と告げる。さらにカーズマルスは、クローニングシリンダーらしき装置はもう一基あるが、それはからである事を報告した。おそらくこの空の一基が、ヤスーク少年の入れられていたものだろう。テン=カイが顔を隠す黒いホログラムスクリーンの向こうで、控え目な声で言う。

「そのクローニングシリンダーらしき装置が、肉体の強化再構成を行う装置なのでしょうな」

「航行しながら、肉体改造をする仕組みってワケか?」

 見解を述べるノヴァルナに、「仰る通りでしょう」と応じたのはマイアだった。さらにメイアが言葉を続ける。

「宇宙を自由に航行しながら強化改造を施した方が、当局から摘発され難いという利点がありますし」

 これを聞いて、なるほど…とノヴァルナは感じた。星大名は須らく銀河皇国の方針に従って“強化奴隷”の存在を認めていない。どの宙域であれ、どこかに拠点を構えると、摘発される可能性が高まる。だが売買する宇宙船そのものが、強化処理拠点であるなら、簡単に捕捉される事は無い。モルタナ辺りが聞いたなら、一緒くたにされて激怒するであろうが、大型タンカーの『ビッグ・マム』を根城にして、中立宙域を自由気ままに遊弋ゆうよくしていた、宇宙海賊『クーギス党』と同じ理屈だ。

「それにしてもメイアもマイアも、この少年の素性がよくわかりましたね」

 感心したように言うノア。これに対しメイアが淡々とした口調で応じた。

「子供の頃の私とマイアは、この少年が使役されるべき環境と、近しい世界に居りました。事実、使役されている“強化奴隷”を見た事もあります」

 その言葉を聞いた途端、ノアはハッ!…として表情を暗くする。このカレンガミノ姉妹も、奴隷のような少女時代を過ごして来たからだ。
 
「ご…ごめんなさい」

 自分の発言が不用意だったと感じたノアは、メイアとマイアに詫びの言葉を告げる。それに対して「いいえ」と返すメイアとマイアの表情は、姉のように優しい。パフォーマンス集団を名乗る売春組織で、奴隷のような日々を送っていたメイアとマイアを、陽の当たる場所へ導いてくれたのは他ならぬ、ノアとその母オルミラなのである。

 そんなメイアとマイアが見た“強化奴隷”は、パフォーマンス集団でアクロバットをやらされていた、三人の少年だったという。

「たぶん、闇業者間の借金のカタで、流れて来た少年らだったのでしょう…」

 宇宙船の天井を見上げ、当時を思い出しながらマイアが言う。見物人達は三人の少年が強化奴隷だとは知らず、高い身体能力から繰り出されるパフォーマンスに、驚いていたという。だがこの三人も多聞に漏れず、そちらの趣味の客を取らされていたようである。メイアとマイアは途中で逃げ出す事が出来たが、三人がその後、どうなったかは不明らしい。


 話を本筋に戻し、メイアとマイアは“フロス”に、『バノピア』号がどこから来て、どこへ行こうとしていたか尋ねた。しかし予想通り船長命令で、情報の開示は許されていないとの事であった。
 ただ引き続き、“フロス”が開示できる範囲の情報で得たヤスーク少年は、カーズマルスの報告にあった通り、この船の中で肉体の強化再構成が、行われていたようである。その一方で幸いな事に、洗脳処理は行われていない。これはヤスーク少年が当時まだ四歳であり、買い手が見つかる前であったからだと思われる。

 『バノピア』号の現在の状態を見ればわかるが、左舷側には大きな穴が開いており、実際のところ不時着というよりは、墜落に近いものであったのだろう。その時の衝撃で、ヤスーク少年が入っていた強化再構成シリンダー以外は損傷。内部にいた強化奴隷は死亡したに違いない。
 そして“フロス”の役目の一つが、強化奴隷の身体維持と最低限の教育であった事から、生き残ったヤスークを今日までサポートしていたのだ。

「でも他に船の乗組員が、複数生き残っていたようじゃない。この子だけ置いて、どこへ行ったのかしら?」

 ノアが疑問を口にすると、ノヴァルナが推論を述べた。

「いくら強化されてるったって、四歳のガキじゃ足手まといになるのは、同じだろうからな。おおかた見捨てて逃げて、怪獣どもにでも喰われたんだろうぜ」




▶#23につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

獅子の末裔

卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。 和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。 前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...