銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#23

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 事実の在処は今となっては分からないが、『バノピア』号の乗組員が全員船を捨てて、どこかへ消えたのは確かなようである。それより問題は、ヤスーク少年をこのままにはしておけない…という事だ。

 ヤスーク少年と向き合うノヴァルナ達。そこへ船内を捜索していたカーズマルスらが帰って来る。ノヴァルナはガンザザに不敵な笑みで声を掛けた。

「よぉ、ガンザザのおっさん。お宝は見つかったか?」

 俯き気味のガンザザは、渋面々じゅうめんづらをノヴァルナに向けて、迷惑そうに言う。あったのは強化奴隷の子供のミイラだけで、お宝など見つかるはずはない。

「ウォーダの殿さん…あんた、人が悪いな」

 ガンザザが肩を落とす一方、カーズマルスはノヴァルナのもとに進み出て、データパッドを差し出した。ウォーダ家で使用している物で、この船の備品ではない。

「ノヴァルナ様。この船の医療用コンピューターから、データをダウンロード致しました」

「医療用コンピューター?」

 僅かに首を傾げて、データパッドを起動するノヴァルナ。即座に表示されたデータには、『バノピア』号の医療記録が移されていた。

「こいつは…」

 眼を見開くノヴァルナ。医療記録によると、『バノピア』号がこの惑星ジュマに不時着して十六日後、未知のバクテリアによる感染症が乗員の間に広がり始め、その感染を避けるため、この船を離れたのだという。事実、カーズマルスの話では、医務室に病死したと乗員と思われる、十体以上の遺体が安置されていたらしい。
 裏社会に属していた『バノピア』号の乗組員であるから、銀河皇国に対して正式な救援要請も出来ず、ある意味自業自得とは言え感染を免れた者も、ジュマの過酷な環境の中で、絶望しながら死んでいったのだろう。

「記録を照会したところでは、感染症が蔓延した時はまだ、この少年は強化再構成シリンダーの中にいたようです。それで感染を免れたのでしょう」

 カーズマルスの推察にノヴァルナも、「だろうな」と同意する。そして皆が揃ったところでヤスーク少年を指差して、ノヴァルナは自分の考えを述べた。

「ともかく、コイツをこのままここに、置いておくワケにもいかねーからな。この先の仕事に連れて行く事にする」

 ノヴァルナなら必ずそう言うだろう、と思っていたらしく全員が納得顔で頷く。そこでノヴァルナは、さらに付け加えた。

「それで国に帰ったらコイツの体を再調整して、三十年そこそこしかない寿命を、普通の人間並みに延ばすよう指示するつもりだ」
 
 ノヴァルナのこの考えに称賛の眼を向けたのは、カレンガミノ姉妹である。自分と似た境遇のヤスーク少年に対する想いが、そうさせたのだろう。そして姉妹の気持ちを汲み取ったノアが、代わりに「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。

 そこにテン=カイが控え目な声で問い掛けて来る。

「“フロス”の方は、如何致します?」

「コアメモリーを抜き取って持ち帰る。それぐらいなら、荷物にはならねぇだろうからな」

 そう言うノヴァルナの意図は明らかだった。ウォーダ軍の装備でコアメモリーを解析すれば、『バノピア』号の船長権限で封印されていた、詳細な情報を入手する事ができるはずだ。そこから先はノヴァルナの判断次第であるが、今のウォーダ家は星帥皇室直臣と同格であるから、背後にあるであろう組織の、摘発に動く可能性も考えられる。

「かしこまりました。ではその役目はわたくしが」

 テン=カイが軽く頭を下げて応じる。「おう。そうしてくれ」と言って頷いたノヴァルナは、全員を見回して指示を出した。

「…というこった。今日はここで休んで、夜が明けたら出発する。コアメモリーの取り外しにかかれ。それとカーズマルス。おまえは部下を率いて、見つけた遺体を埋葬してやれ」

 それぞれに“了解”を意味する反応をして動き出す。テン=カイはガンザザに、自分の作業を手伝ってくれるよう声を掛けた。

「ガンザザ殿。手を貸してもらえまいか」

「あいよ」

 ノヴァルナ一行の中でも、見た目が胡散臭い二人が、円柱型の“フロス”本体を両側から“解体”し始めるのを見て、ここまでずっとノヴァルナ達の会話の意味が分からず、きょとんとしていただけのヤスーク少年は、急に不安そうな様子になった。

「ヤスーク?」

 背後から声を掛けるノアに、ヤスークは振り返って告げる。

「フ…“フロス”をどうするの?」

 ヤスークの表情を見て、ノアは気付いた。親しい誰かの受難を気遣う眼だ。彼にとって“フロス”はこの世界での、唯一の肉親なのだろう。たとえその正体が、強化奴隷を教育するための機械であったとしても。

 そんなヤスーク少年に、ノアは宥めるように言葉を返した。

「心配しなくていいわ。“フロス”も私達と一緒に来られるようにするの」

「一緒に?」

「そう。ヤスークも“フロス”も、私達と一緒に行くのよ」

 ノアにそう聞かされ、ヤスークも即座に納得したらしく、リラックスした空気を纏い始める。もっとも、人の言う事に従い易いというのも、強化奴隷の特性なのかも知れないが………





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