236 / 526
第9話:魔境の星
#23
しおりを挟む事実の在処は今となっては分からないが、『バノピア』号の乗組員が全員船を捨てて、どこかへ消えたのは確かなようである。それより問題は、ヤスーク少年をこのままにはしておけない…という事だ。
ヤスーク少年と向き合うノヴァルナ達。そこへ船内を捜索していたカーズマルスらが帰って来る。ノヴァルナはガンザザに不敵な笑みで声を掛けた。
「よぉ、ガンザザのおっさん。お宝は見つかったか?」
俯き気味のガンザザは、渋面々をノヴァルナに向けて、迷惑そうに言う。あったのは強化奴隷の子供のミイラだけで、お宝など見つかるはずはない。
「ウォーダの殿さん…あんた、人が悪いな」
ガンザザが肩を落とす一方、カーズマルスはノヴァルナのもとに進み出て、データパッドを差し出した。ウォーダ家で使用している物で、この船の備品ではない。
「ノヴァルナ様。この船の医療用コンピューターから、データをダウンロード致しました」
「医療用コンピューター?」
僅かに首を傾げて、データパッドを起動するノヴァルナ。即座に表示されたデータには、『バノピア』号の医療記録が移されていた。
「こいつは…」
眼を見開くノヴァルナ。医療記録によると、『バノピア』号がこの惑星ジュマに不時着して十六日後、未知のバクテリアによる感染症が乗員の間に広がり始め、その感染を避けるため、この船を離れたのだという。事実、カーズマルスの話では、医務室に病死したと乗員と思われる、十体以上の遺体が安置されていたらしい。
裏社会に属していた『バノピア』号の乗組員であるから、銀河皇国に対して正式な救援要請も出来ず、ある意味自業自得とは言え感染を免れた者も、ジュマの過酷な環境の中で、絶望しながら死んでいったのだろう。
「記録を照会したところでは、感染症が蔓延した時はまだ、この少年は強化再構成シリンダーの中にいたようです。それで感染を免れたのでしょう」
カーズマルスの推察にノヴァルナも、「だろうな」と同意する。そして皆が揃ったところでヤスーク少年を指差して、ノヴァルナは自分の考えを述べた。
「ともかく、コイツをこのままここに、置いておくワケにもいかねーからな。この先の仕事に連れて行く事にする」
ノヴァルナなら必ずそう言うだろう、と思っていたらしく全員が納得顔で頷く。そこでノヴァルナは、さらに付け加えた。
「それで国に帰ったらコイツの体を再調整して、三十年そこそこしかない寿命を、普通の人間並みに延ばすよう指示するつもりだ」
ノヴァルナのこの考えに称賛の眼を向けたのは、カレンガミノ姉妹である。自分と似た境遇のヤスーク少年に対する想いが、そうさせたのだろう。そして姉妹の気持ちを汲み取ったノアが、代わりに「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
そこにテン=カイが控え目な声で問い掛けて来る。
「“フロス”の方は、如何致します?」
「コアメモリーを抜き取って持ち帰る。それぐらいなら、荷物にはならねぇだろうからな」
そう言うノヴァルナの意図は明らかだった。ウォーダ軍の装備でコアメモリーを解析すれば、『バノピア』号の船長権限で封印されていた、詳細な情報を入手する事ができるはずだ。そこから先はノヴァルナの判断次第であるが、今のウォーダ家は星帥皇室直臣と同格であるから、背後にあるであろう組織の、摘発に動く可能性も考えられる。
「かしこまりました。ではその役目はわたくしが」
テン=カイが軽く頭を下げて応じる。「おう。そうしてくれ」と言って頷いたノヴァルナは、全員を見回して指示を出した。
「…というこった。今日はここで休んで、夜が明けたら出発する。コアメモリーの取り外しにかかれ。それとカーズマルス。おまえは部下を率いて、見つけた遺体を埋葬してやれ」
それぞれに“了解”を意味する反応をして動き出す。テン=カイはガンザザに、自分の作業を手伝ってくれるよう声を掛けた。
「ガンザザ殿。手を貸してもらえまいか」
「あいよ」
ノヴァルナ一行の中でも、見た目が胡散臭い二人が、円柱型の“フロス”本体を両側から“解体”し始めるのを見て、ここまでずっとノヴァルナ達の会話の意味が分からず、きょとんとしていただけのヤスーク少年は、急に不安そうな様子になった。
「ヤスーク?」
背後から声を掛けるノアに、ヤスークは振り返って告げる。
「フ…“フロス”をどうするの?」
ヤスークの表情を見て、ノアは気付いた。親しい誰かの受難を気遣う眼だ。彼にとって“フロス”はこの世界での、唯一の肉親なのだろう。たとえその正体が、強化奴隷を教育するための機械であったとしても。
そんなヤスーク少年に、ノアは宥めるように言葉を返した。
「心配しなくていいわ。“フロス”も私達と一緒に来られるようにするの」
「一緒に?」
「そう。ヤスークも“フロス”も、私達と一緒に行くのよ」
ノアにそう聞かされ、ヤスークも即座に納得したらしく、リラックスした空気を纏い始める。もっとも、人の言う事に従い易いというのも、強化奴隷の特性なのかも知れないが………
▶#24につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる