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第10話:シンギュラリティ・プラネット
#21
しおりを挟むしかしながら、どんな時でも一筋縄ではいかないのが、ノヴァルナという若者である。現在地のユラン星系外縁部に達したところで、時間的余裕は無いというのにアヴァージ星系への超空間転移を命じず、高速クルーザーを停船させたのだ。
操船担当の陸戦隊員達が困惑する中、ノヴァルナは自分用に割り振られている、高級キャビンに、カーズマルスと共にテン=カイを呼びつけた。
惑星ジュマでのバタバタの疲れを、たっぷりの睡眠で回復したノヴァルナは、頭も冴えわたった表情で、カーズマルスとテン=カイと向かい合わせに、ソファーに腰を下ろしている。呼ばれて早々に口を開いたのは、ノヴァルナではなくテン=カイであった。
「ノヴァルナ様。船を停船させられたのは、どのような仕儀にございましょう?」
困惑の響きを漂わせるテン=カイに、ノヴァルナは「ふふん…」と、軽く鼻を鳴らして言い放つ。
「さて。どうしたもんかな…と思ってな?」
「は?」
困惑した相手にド直球を投げ込んで、自分のペースに巻き込むのも、またノヴァルナの真骨頂だ。しかし今回は変化球、外角高めへのスライダーといったところだろう。
「このまま帰っちまうのも、アリなんじゃねーか」
「!!??」
ここまで来て、当初の目的を放棄するのも、選択肢の一つだと持ち出して来るノヴァルナの強かさである。ここでテン=カイは、今の自分が立たされている立場を理解する。惑星ラジェから惑星ジュマまでは、ガンザザの宇宙船を使用していたのだが、いま乗っている高速クルーザーは、カーズマルス=タ・キーガーの部下達が操船しており、完全にノヴァルナの支配下にあったのだ。つまり、テン=カイは人質と言っていい。そして、何に対する人質かといえば―――
「テン=カイ殿。あんたが何処の誰かは、まぁ今はいい。だがな、コイツには答えてもらうぜ―――」
そう切り出すノヴァルナの顔に、いつもの不敵な笑みが浮かぶ。
「マツァルナルガの奴が言った、“現地協力者”ってあんただけじゃねーんだろ。背後にいるのは誰だ?」
「………」
ノヴァルナのこの問い掛けに、顔を隠す黒いホログラムスクリーンの向こうで、眼の位置にある赤い光が一瞬、ギラリと光量を増す。
「なるほど…マツァルナルガ殿の言われた通り、ノヴァルナ様…あなたは喰えぬ御仁のようですね」
そしてテン=カイは、自分の背後に存在する者達の名を告げた。
「ノヴァルナ様が仰せになるところの、わたくし以外の“現地協力者”…それは、ブラグ・ジルダン=アターグ様にございます」
その名を聞いて驚いた表情になったのは、同席しているカーズマルスだった。ブラグ・ジルダン=アターグは、このアルワジ宙域を治めている星大名であり、血縁的にはミョルジ家の前当主ナーグ・ヨッグ=ミョルジの甥にあたる人物、つまりノヴァルナ達、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを星帥皇として奉じる者とは、敵対関係にある中心人物の一人だからだ。
事実このアルワジ宙域はミョルジ家が、本来の領地であるアーワーガ宙域から皇都惑星キヨウのある、ヤヴァルト宙域へ進攻する際の重要な補給地となっていた。その地を治める領主が、自分達をここへ招き入れ、エルヴィスと対面させようとしている、というのであるから、カーズマルスが驚くのも無理はない。
ところがノヴァルナの方は、この名が出る事もある程度予想していたのか、驚いた様子も無く、「なるほどな」と応じただけである。このノヴァルナの反応の薄さに、テン=カイは探りを入れて来た。
「もしや、すでにマツァルナルガ殿から、お聞き及びでしたか?」
ミョルジ家の重臣の一人であった、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガは、ノヴァルナ側に寝返った際に、様々な重要情報を漏らしている。そしてその中にバイオノイド:エルヴィスの居場所があった。これを知ったノヴァルナが、直接エルヴィスと会見する事を望んだのだ。
ただテン=カイの問いにノヴァルナは、「うんにゃ」と首を振って答えた。
「だがマツァルナルガに、俺が“直接エルヴィスに会ってみる”と言った時、ヤツは“やはりそう出るか”って眼をしてた。つまりヤツも含め、あんたらは俺の反応も、織り込み済みだったってワケだろ?」
「仰せの通り」
「そんでもってラジェであんたが、“現地協力者”の触れ込みで来た時、俺の思ってた以上に身軽だったもんで、“こりゃあバックに、もっと大物がいるな”って考えたのさ…まぁ、それでもブラグ殿の名は、想定の最大値だったけどな」
「…恐れ入りました」
感嘆の響きを帯びた言葉と共に、テン=カイは一つ、頭を下げた。ノヴァルナはこのバイオノイド:エルヴィスに直接会うという計画が、自分だけでなく、テン=カイらにとっても重要な計画である事を見抜いて、ここに来て高速クルーザーを停船させ、真実を得る交渉に出たのだ。
▶#22につづく
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