銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第11話:我、其を求めたり

#29

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 アクターヴァン城に到着したノヴァルナは、一足先に入城していたジョシュア・キーラレイ=アスルーガに拝謁した。新星帥皇よりあとの入城とは、些か経緯を失する事になるが、新たに支配下に置いた、セッツー宙域の巡察に出ていたという、理由付けが為されている。

 謁見の間に向かうノヴァルナは、当然ながら仮面は被っていない。仮面の影武者を使った“ミョルジ家掃討作戦”が終了したのであるから、ここはむしろ、素顔を見せた状態で拝謁する必要があった。ジョシュア自身はともかく、ここに来てジョシュアの周囲に纏わりつき始めた、バルガット・ヅカーザ=セッツァーをはじめとする上級貴族達が、拝謁の際にも仮面を外さなかったノヴァルナに、不敬と不審を抱き始めているという報告を、ヴァルミスから受けていたからだ。もっともその時はノヴァルナは不在で、皇国軍の中にはヴァルミスや『ホロウシュ』の誰かといった、仮面の影武者しかいなかったのだが。

 ラン・マリュウ=フォレスタとミディルツ・ヒュウム=アルケティを従え、謁見の間に入ったノヴァルナは、貴族やアスルーガ家直臣が居並ぶ間を真っ直ぐに歩を進め、玉座に座る星帥皇ジョシュアの前へ出ると片膝をつき、恭しく頭を下げた。その動きには優雅ささえ感じさせる。

此度こたびは陛下の御威光の賜物にて、戦勝を収める事ができましたること、心より御礼申し上げます」

 こういった時のノヴァルナは、どこか適当そうな普段とは打って変わり、立ち居振る舞いに一部の隙も見せない。オ・ワーリ宙域、ミノネリラ宙域、そしてオウ・ルミル宙域のロッガ家支配地の大半に加え、今や皇都惑星キヨウのある皇国中心部のヤヴァルト宙域をも、事実上の支配地とした威風というものであろう。

「う…うむ。誠にた…大義であった、ノヴァルナ殿。余の方こそ今の地位にあるはノヴァルナ殿の、じ…尽力に他ならぬ。深く礼を申す。ささ、立たれるがよい」

 対するジョシュアの態度には、いまだおどおどとした印象があった。「ありがとうございます」と言って、鷹揚に立ち上がるノヴァルナの方が、星帥皇らしくさえ見える。玉座の左側に立つ直臣のトーエル=ミッドベルが、二人の格の違いに困惑の眼を向ける一方、玉座の右側に立つ上級貴族筆頭のバルガット・ヅカーザ=セッツァーは、“これでいい…”といった眼をジョシュアに向けたあと、ノヴァルナにわざとらしい親しさで呼び掛けた。

「今日は仮面は無しですかな? ノヴァルナ様」
 
 皮肉めいたセッツァーの問いに、ノヴァルナは当たり前のように応じる。

「その節は失礼仕りました。作戦も終了致しましたゆえ、もはや仮面を付けて陛下の御前ごぜんに出る、必要もございませんでしょう」

 セッツァーはそれから二つ三つ、仮面のノヴァルナとの謁見の際のやり取りを、思い出話のように問い質した。その全てに、にこやかに答えるノヴァルナ。
 じつはセッツァーは、あの時のノヴァルナが本物かどうかを今だに疑っており、思い出話にかこつけてそれを確かめたのだ。もし謁見したのが偽物のノヴァルナであった場合、その不敬な事極まりなく、大きな揺さぶりをかける事が出来る…と、セッツァーは考えていたからである。

 だがこれはノヴァルナ…というより、ノヴァルナを演じたヴァルミスが周到だった。ヴァルミスはジョシュアへの拝謁の際、自分か被った狐の仮面に、映像と音声の記録装置を仕込んでいたのである。そしてヴァルミスと合流したノヴァルナは、この時の記録を観て、拝謁でどのようなやり取りが行われたのかを、詳細に把握していたのだ。

 上手く躱したノヴァルナに、セッツァーは詮索するのを諦め、今度は懐柔を試みようとする。

「ところでどうでありましょう? ミョルジ家も元のアーワーガ宙域へ退散した事ですし…以前、『ゴーショ・ウルム』にてご提案させて頂いた、関白または摂政の地位、もしくは幾つかの植民星系の割譲など…何か、ご希望の事案が出来ておりましては、これを機会にその…如何かと?」

 これに対してノヴァルナは、表情にこそ出さなかったが内心で、“またか、こいつは…”と、吐き捨てるように呟いた。以前にも『ゴーショ・ウルム』で同様の事を尋ねられ、その時は“今はまだ、銀河皇国の秩序回復を最優先にすべき時”であると、全ての褒章を辞退したのであった。

「それについては以前に時期尚早にて、銀河の秩序を回復したのちに改めて…と、申し上げました通りにございますれば…」

 するとセッツァーは、すぐさま畳み掛けて来る。

「ミョルジ家を排除した今、ジョシュア陛下に弓を弾く輩は、ヤヴァルト宙域周辺からは姿を消したはず。褒章を受けられても、良いのではありませんかな?」

「いえ。まだヤヴァルト宙域周辺にはウーサー家をはじめ、少なからず敵対勢力が存在しております。これらを平定するまでは、自分への戒めとして遠慮させて頂きます」

 これに対しセッツァーは、しめた…とばかりに薄笑いと共に問い質した。

「ほほう…いまだ敵対勢力が周辺に存在しながら、此度の拝謁では仮面をお外しになる?…先のご発言と鑑みて、趣旨に矛盾がございますのでは?」
 



▶#30につづく
 
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