銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第12話:天下の駆け引き

#03

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 古美術品収集と聞いて、キノッサは頭の中でソークン=イーマイアが嬉々として古い壺を、柔らかな布で磨いている姿を想像する。

「なんかオッサン趣味ッスねぇ…要は、古い壺の一つでも手土産に、交渉に行けばいいって事なんスか?」

 冗談のつもりで言ったキノッサだったが、P1-0号が「平たく言えば、そういう事だろうね」と答えたため驚いた。

 ただこれは本当に平たく言えば・・・・・・で、実際は些か事情が違う。P1-0号が正しく説明したところによれば、彼等が主に集めて保存しているのは、本来は銀河皇国公式の美術館や博物館で収蔵、展示されるべきものであるらしい。
 そのようなものまで集めている理由は、単なる趣味ではなく、銀河皇国全域にわたって、およそ百年に及ぶ戦国の世が関係していた。

 “オーニン・ノーラ戦役”から始まった戦国時代の被災者…それは、それまでのほぼ平穏だった時代に保存され、大切に扱われて来た文化財も含んでいた。戦乱が広がり、誰も美術品や文化財に見向きする余裕と、それを維持する予算捻出の意志を失い、放置するがままとなったのである。
 そして皇都惑星キヨウまで戦火に包まれ、攻め入った兵達が略奪行為を働いた結果、多くの美術品や文化財が持ち去られ、或いは破壊されてしまった。そこでこれらの救済措置に乗り出したのが、ザーカ=イー星系の行政評議会が中心となって自主設立した、“銀河皇国惑星文明文化財保存協会”である。

 前述の通り自治権獲得当初は、経済政策最優先で大きな経済格差を生み、社会不安を増大させるという失策を犯したザーカ=イーの行政評議会は、その反省を踏まえ、高い文化的見識の保有が求められるようになった。そしてその方向性の一つとなったのが、奪い去られた美術品・文化財の収集と修復だ。

 その一方、幾ら巨大な経済力を有する自治星系であっても、私設協会がここまで行うのは行き過ぎなようでもある。再収集された美術品のかなりの数が、実はキヨウを襲撃した『アクレイド傭兵団』の第三、第四階層の兵が奪ったものであり、それをザーカ=イー行政評議会が法外な高値で買い取っていたのだ。一時期、ザーカ=イー星系が『アクレイド傭兵団』のスポンサー的立場にあったのも、銀河中から集めた略奪品の買取を行っていたためのようだ。

「略奪者に高い金払ってまで、美術品を買い取るなんて…むしろ、文化的見識の低い話のようにも、思えるんスが」

 ここまでのP1-0号の解説を聞いたキノッサは、納得できない様子で首を傾げる。しかしP1-0号は「そう思えるけど、現実的に考えると理解はできる」と、淡々と応じた。
 
 ザーカ=イー星系はその強大な経済力と裏腹に、防衛戦力は貧弱なものだ。星系防衛艦隊は二個で、それなりに戦力は整っているがそれだけである。攻撃側戦力三倍の原則をもってすれば、艦隊六個に攻め込まれれば耐えられない。
 そうであれば、略奪品の買い取りを契約料への上乗せと考える事により、超強力な『アクレイド傭兵団』中央本営艦隊を、防衛戦力として繋ぎ止めておけるのは、合理的というものであった。

 そしてそれでも納得顔にならないキノッサに、P1-0号は現実を提示する。

「どういう形であれ、美術品や文化財を保管する場所は必要だよ。そして今の皇都惑星にそんな安全な場所はない。それに傭兵団から買い取ったものであれば、傭兵団本営が関係した以上、第三階層や第四階層の略奪者も、もう一度は手を出せないだろう」

「そうかも知れないッスけど…」

「今のこの戦国の世が終焉し、銀河に秩序と安寧が回復された時、美術館や博物館に展示されているものが、何一つ無かったとしたら、それは寂しい事だと思わないかい?」

 そう問い掛けるP1-0号に、カズージが興味深そうに尋ねる。

「あんたはァ、アンドロイドじゃに、“寂しい”とかの気持ちバ分かるんか?」

「それこそが僕の存在命題だからね。理解出来ていると思いたいよ」

 P1-0号はカズージを振り向いて小さく頷いた。特殊タイプの自分に人間と同じ感情はあるのか。人間と接し、人間の感情を理解する事で、それを検証する事こそがP1-0号の開発目的であり、このアンドロイド自身、今回の案件が人間というものを知る、一助となるに違いないとの判断があった。

 P1-0号は改めて三人を見渡し、ここまでに得た自分の見解を述べる。

「そして一つ、見落としてはいけない事がある。それは彼等評議会議員には、自分達が皇国文化の、大きな一翼を担っているという自負があるという事だ。ここに、彼等が所有する大企業間での、大きな商談の資料があるんだけど、商談の半分は美術品の話に費やされているようだ」

「それがこの星の、商習慣…ということッスか」

「ああ。文化と言っても、過言ではないだろうね」

 それを聞いてようやくキノッサには、自分の交渉の失敗の原因を、理解し始める事が出来た。要は、自分は急ぎ過ぎたのだろう。思い返せばソークンとの交渉は本題ばかりで、応接室に飾ってあった絵画一つすら、褒める事もしていなかったではないか。少々奇異だがP1-0号の言う通り、これが彼等の文化なのだ。そして外交交渉においては、相手の文化を尊重しなければならないのは当然である。

“なるほど、最初からやるべき事が出来て無かった、って事ッスか”

 胸の内で呟いたキノッサは、ふぅ…とため息をついた。



▶#04につづく
 
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