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第12話:天下の駆け引き
#02
しおりを挟む少々火花が散りそうなやり取りがあっても、やはりキノッサとP1-0号は相性がいいらしい。
仕切り直しの時間をとって、P1-0号のアドバイスのもと、改めてソークン=イーマイアと、ザーカ・イー星系の経済界や造船業界の実情、さらに商習慣といったものまで情報の洗い直しを行うと、確かに今までキノッサには見えていなかったものが、見えて来るようになった。
その中でも気になる部分としてピックアップされて来たのが、“商取引で信用されるためには、まず文化人たらねばならない”という、ザーカ・イー星系の上級経済界の思想である。
これはザーカ・イー星系の歴史にも関わる話で、キノッサも歴史そのものはソークン=イーマイアとの交渉開始前に、NNLの歴史アーカイブ目を通してはいたものの、さしたる興味も持たなかった部分であった。その大まかな内容は以下の通りである。
超巨大企業十五社の長が星系の行政をも司るという、特異な政治形態を持つザーカ・イー星系では、およそ百年前に自治権を獲得し、経済界が国家運営行うようになった当初、営利目的を優先した経済政策ばかりが打ち出された結果、住民達の経済格差が広がり、人心は乱れ、経済収支の黒字の伸びに反して、社会不安の問題が顕著となった。
やがてその社会不安が低所得層による、テロを含んだ惑星規模の抗議活動を生むに至り、当時の行政評議会議員は、自分が所属する企業のトップ職と合わせて、総辞職するという事態に陥る。
以後この時の反省を踏まえて、行政評議会議員となるものはまず、文化的見識の高いことが求められる事となる。それはさらに年月を経て、政治交渉だけでなく商取引においても、特にトップ間の交渉において重要視されるようになり、文化的な懐の深さが重要な要素となっているのであった。
「つまり…俺っちの交渉には、その文化人的要素が足りないって事ッスか?」
こりゃあ、面倒臭い事になった…という表情で、キノッサはP1-0号の開陳した情報に、自分の考えを述べた。
「そういう事だね」
自分が泊まるホテルの一室…あっさりと言い切るP1-0号に、キノッサは苦虫を嚙み潰したような顔をする。文化人であるのは、キノッサが最も苦手とする所であって、これをソークン=イーマイアとの交渉で活かすなど、“スノン・マーダーの一夜城”以上に至難の業だ。
「文化人的なものって、何をどうすればいいんスかねぇ…」
困惑した顔でキノッサは、テーブルを囲むカズージとホーリオを見渡す。対するカズージはあらぬ方を向いて、「ズマペッシはサズンア・メックなもんだバ」と、バイシャー語を混ぜ込んで意味不明な事を口走り、元々無口なホーリオは腕組みをし、無言で首を左右に振るばかり。軍務的な事では頼りになる二人だが、やはりこういった事案は守備範囲外だった。
そこに複数のホログラムスクリーンを周囲に浮かせているP1-0号が、アンドロイドならではの目にも止まらぬ速度で、全てのスクリーンの情報を読み取ると、その中の一枚をピックアップ、百八十度回転させて、三人にも見えるようにする。
「これがヒントになりそうだね」とP1-0号。
キノッサ達が覗き込むように視線を送るスクリーンには、ソークン=イーマイアをはじめとする、十五人のザーカ=イー行政評議会議員の顔写真と、簡単な略歴が列記されている。ただこのような名簿なら、キノッサは何度も見ているものだ。
「議員名簿なら何度も見たッス。これが何だって言うんスか?」
P1-0号に訝しげな眼を向けるキノッサ。だがこれは同じ名簿でも、行政評議会の名簿ではなかった。
「これは行政評議会の議員名簿ではなくて、“銀河皇国惑星文明文化財保存協会”の協会員名簿だよ」
「ぎ?…銀河わくわく…き、協会…?」
聞き慣れない名称に、キノッサはしどろもどろになる。そのキノッサに対するP1-0号の得た最適解は、単なる訂正ではなく的確なツッコミだった。
「そんな、何かを期待して嬉しそうな名称の協会は、銀河皇国には存在しない」
「わかってるッス。ったく、PON1号は!」
「だれがPON1号やねん!」
脱線しかけた会話を、無口なホーリオが珍しく止めに入る。
「いいから話を進めましょう」
ホーリオの圧力に、気まずそうに小さく咳払いをしたキノッサは、あらためてP1-0号に問い質した。
「…で? このナントカ協会ってのが、なんでヒントになるんスか?」
「“銀河皇国惑星文明文化財保存協会”…覚えられない、もしくは覚える気がないなら、“銀文協”と呼んだらいい。彼等は銀河皇国やその他の惑星文明の、古美術品を収集し、保存するのを目的としている」
「それは?」
「砕けた言い方をすれば、銀河皇国の歴史的、美術的価値のある骨董品を、集めているという事だよ。皇国だけでなく、滅亡したかつての惑星文明の美術品なども、収集の対象にしているようだけど」
「つまりみんな骨董品集めが趣味、というわけッスか?」
▶#03につづく
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