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第14話:齟齬と軋轢
#06
しおりを挟む皇国歴1564年8月15日。キルバルター家の支城を攻略し、イーセ宙域の大半を支配下に置いたウォーダ家だったが、本拠地のオルガワット城と、そこに集結させた主要戦力は頑強なままであり、これを攻めあぐねたノヴァルナは、キルバルター家と和睦する道を選んだ。
特にキルバルター家で際立っていたのが、前当主トバルクルツ=キルバルターである。トバルクルツは前星帥皇テルーザ・シスラウェラ=アスルーガと同じく、伝説のBSIパイロットの、ヴォクスデン=トゥ・カラーバの弟子であり、“秘剣・一つの太刀”の免許皆伝を受けた男だった。
四十代後半のトバルクルツは、早々に当主の座を嫡男のトバルボルトに譲渡し、パイロットとしての道をさらに精進していた。
そのトバルクルツが専用BSHOの『マキグモND』に乗り、自らが率いた親衛隊中隊は、恐るべき戦闘力を発揮。首都惑星スラーマに近づくウォーダ軍に、大打撃を与えては撃退していたのである。
これがウォーダ家の興亡を賭けたような戦いであるなら、ノヴァルナも『センクウ・カイFX』で自ら出撃し、トバルクルツと雌雄を決したのであろうが、そうではない今回は自重。BSI部隊ではすぐに到達できない、遠く離れた宇宙空間からの艦砲射撃を、一日に何回も繰り返すという、“嫌がらせ”な戦術に切り替えたのち、半月後に和睦を申し込んだ。
ただ和睦と言っても、実際の中身はウォーダ家が有利な条件となっており、事実上はキルバルター家の降伏に近い。これはウォーダ家の遠距離艦砲射撃の反復に、物理的損害は大きく無かったものの、城兵をはじめとする守備側の精神的疲労と、首都惑星スラーマ全体の経済が麻痺し始め、厭戦気分が高まりつつあったからだ。
それにキルバルター側も、全体的に見れば戦意は高くなかった。この戦いに先立ち味方であったはずの多くの独立管領が、ウォーダ側に寝返ったのも大きな要因である。これは現キルバルター家当主のトバルボルトが、政治的センスに長けておらず、複数の独立管領の中で不満が溜まっていたためだった。
さらにノヴァルナには、イーセ宙域進攻を長引かせたくない理由が他にもある。例の星帥皇室の独断専行によるハルマー宙域征伐だ。こちらも約一カ月の遠征において、一定の戦果は挙げたようで、ノヴァルナのキルバルター家との和睦に合わせる形で帰還を始めているらしいが、これについて自分が直接、星帥皇や上級貴族と議論する必要があった。ミディルツやフジッガといった家臣とは、会おうとしないという報告が入っていたからである。こういった足の引っ張られ方は、ノヴァルナにとって腹立たしい限りだ。
そして皇国歴1564年8月28日。ノヴァルナは星帥皇に拝謁するため『ゴーショ・ウルム』へ参内した。副官のラン・マリュウ=フォレスタに、事務補佐官のジークザルト・トルティア=ガモフ、さらに身辺警護のヤスーク=ハイマンサを引き連れたノヴァルナは、腹の中で煮え立ちそうな怒りを抑えて謁見の間に入る。
謁見の間では、玉座に座る星帥皇ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを中央奥に、バルガット・ヅカーサ=セッツァーを筆頭とした上級貴族と、トーエル=ミッドベルを筆頭とした側近達が横一列に並んでいた。
ウォーダ家の紫紺の軍装に身を包んだノヴァルナは、ジョシュアの前まで進み出ると、従えて来た家臣と共に恭しく、かつ華麗に片膝をついて、挨拶の言葉を口にする。
「星帥皇陛下におかれましては、益々ご健勝の御様子。ノヴァルナ・ダン=ウォーダ、イーセ宙域より戻りましてございます」
これに頷いたジョシュアは星帥皇らしく、鷹揚な態度で応じる。
「遠征ご苦労であった、ノヴァルナ殿。立つがいい」
ジョシュアの言葉に「御意」と返し、ノヴァルナとその供回りは立ち上がった。そこへ問い掛けるジョシュア。
「キルバルター家とは、和睦を結ぶ方向に定まったそうであるな?」
「はい。ここは互いに損害を増してまで、意地を張るべき時ではないと、判断致しましたゆえ、兵を引く事に決めましてございます」
「うむ。なるほど」
頷くジョシュアの態度に、ノヴァルナは違和感に近い変化を感じた。イーセ宙域に遠征する前までよく見せていた、しどろもどろの反応が極端に減っているのだ。一カ月半の間に、随分と変わったものである…もっとも、これがいい傾向であるのかは、怪しいものだが。
するとここで、貴族院議員筆頭のバルガット・ヅカーサ=セッツァーが、口を挟んで来る。口調がどこか嫌味っぽい。
「しかし、お珍しいですな。“銀河布武”を標題とされるノヴァルナ公が、キルバルター家を滅ぼす事無く和睦とは」
俗っぽく言えば、セッツァーは意識的に因縁を吹っかけて来たわけであるが、このような手合いの扱いには慣れているノヴァルナは、“何を言っているか分からない”という、すっとぼけた表情で首を傾げた。話をはぐらかされたセッツァーは、舌打ちしたそうな顔で話を続ける。
「キルバルター家は、ノヴァルナ公が“銀河布武”を打ち出されての、最初の討伐対象でありましょう。決着をつけずに終わるは、今後のためにも画竜点睛を欠くのではございませんかな?」
▶#07につづく
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