363 / 526
第14話:齟齬と軋轢
#08
しおりを挟む中央行政府『ゴーショ・ウルム』から、キヨウの衛星軌道上に停泊するウォーダ軍総旗艦『ヒテン』にノヴァルナが戻ると、“セッツー三守護”のカトラス=イ・クーダとティーカウォック=イ・ターミ、コレット=ワッダーが来艦しており、ノヴァルナの帰りを待っていた。ハルマー宙域へ出兵した事に、ノヴァルナが不快感を示していると知り、急いで詫びを入れに来たのである。
武人である彼等は上級貴族達などとは違い、ノヴァルナの実力を知っている。そうであるからこそ、ノヴァルナがジョシュアを伴って上洛してきた際に、ウォーダ軍へ参陣したのだ。
その後、新参者ながら星帥皇室からセッツー宙域の、守護職に取り立てられた三家は、その恩義からハルマー宙域討伐の兵を出す事を断れず、言われるがままに艦隊を派遣するしか、仕方なかったのだった。
ただ三人と会ったノヴァルナは、『ゴーショ・ウルム』を訪れていた時とは打って変わり、快く彼等の謝罪を受け入れ、「どうぞ、気になさらぬよう」と穏やかに応じたのである。ノヴァルナからすれば、権力者の板挟みになって困惑する、三人の気持ちが理解できたのだろう。それどころかノヴァルナはその場で、三家のハルマー宙域での戦い方の分析評価会を即席で始め、戦いぶりを称賛する度量の広さを見せたのだ。
“セッツー三守護”の三人が“やはり我らが従うはノヴァルナ様”と、感じ入りながら総旗艦『ヒテン』を去った一方、『ゴーショ・ウルム』ではバルガット・ヅカーサ=セッツァーのもとを、新たな訪問者が訪れていた。
「お待たせ致した。ようこそ、『ゴーショ・ウルム』へ」
五人の側近を連れ、身分が高い者を相手にする場合に使用される、第二応接室へ入って来たセッツァーは、会議用とはいえ豪華な造りの長机の向こうで、椅子から立ち上がった、八人の来訪者に声を掛ける。
来訪者は四人ずつの二組が一団となったものらしく、一組は濃緑色、もう一組は暗いグレーの軍装に身を包んでいた。グレーの軍装の方は『アクレイド傭兵団』のもの、しかもここにノヴァルナがいれば、中の一人には見覚えがあるはずである。来訪者達は、セッツァーに深々と頭を下げると、それぞれの代表が名乗った。まずは濃緑色の軍装の男。五十代半ばに見え、怜悧な印象を感じさせる。
「アン・キー宙域星大名モーリー家筆頭家老、サードティス=フックバルトにございます」
続いてノヴァルナの知る、『アクレイド傭兵団』の軍装を着た初老の男。
「お初にお目にかかります。『アクレイド傭兵団』最高評議会議員、バルハート=ハノーヴァと申します」
モーリー家はアン・キー宙域を中心に現在、領域拡張の勢いが著しい星大名家である。現当主はティルモルドゥであるが、まだ十一歳と若く、六十七歳になる祖父のモータナル・シェス=モーリーが後見人として、実際の政務を執り行っている。
元はアン・キー宙域のエスダン星系を治める、独立管領であったモーリー家だったが、こちらもその台頭は戦国大名に相応しい。
奇しくもオ・ワーリ宙域でノヴァルナが、活動を目立たせ始めたのと同じ皇国暦1550年代半ば、モータナルはそれまで従属していた星大名オーティス家が、内紛で乱れたのに乗じ、これを滅ぼして星大名の座を奪うことに成功。
さらに同宙域の、二つの有力独立管領であったキッカート家に次男モルトバル、コベックカート家に三男のタックゲルトを、養子として送り込み、支配体制を盤石なものにした。
現在のモーリー家は、ブンゴッサ宙域星大名オルトモス家と、イーズモン宙域星大名アマゴン家の二大勢力の他、周辺の星大名や独立管領と、領域の取り合いをしている状況である。
多方面に敵対勢力を作ってしまった事により、一時は全戦線が膠着状態に陥ったモーリー家だが、『アクレイド傭兵団』と契約を結んで戦力を増強した現在は、全方面で戦いを有利に進めていた。
「どうぞ、ゆるりとなされませ」
セッツァーはそう言って、会談相手に着席を促す。そして自らも側近たちと共に席へ着いたセッツァーは、穏やかな口調で語りかけた。
「まずは紛争中の宙域を抜けてまで、ようこそお越し下さった。大変でございましたでしょう?」
「なんの。こちらのハノーヴァー殿が指揮される、『アクレイド傭兵団』の基幹艦隊に送って頂きましたゆえ、文字通り“大船に乗った気分”を、味合わせて頂きました」
フックバルトの下手な冗談に、セッツァーは「ハッハッハッ…」と、愛想笑いを返してから、ハノーヴァーにやんわりと釘を刺した。
「アクレイドの主力艦隊の武威は、我等も身に染みておりますからな。さぞや安心であったでしょうな」
言外に嫌味を交えたセッツァーの言葉だったが、ハノーヴァーは動じず頭を下げてみせる。つい昨年まで、『アクレイド傭兵団』はミョルジ家に雇われ、皇都占領の一翼を担っていたのであるから、彼等に圧迫されていたセッツァーが、嫌味の一つも言いたくなるのは当然だ。そして頭を上げたハノーヴァーは、平然と痛いところを突いて来る。
「我等傭兵団をご批判なさるのであれば、もう少し、テルーザ陛下とご協調なさるべきでありましたな」
▶#09につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる