銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第14話:齟齬と軋轢

#08

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 中央行政府『ゴーショ・ウルム』から、キヨウの衛星軌道上に停泊するウォーダ軍総旗艦『ヒテン』にノヴァルナが戻ると、“セッツー三守護”のカトラス=イ・クーダとティーカウォック=イ・ターミ、コレット=ワッダーが来艦しており、ノヴァルナの帰りを待っていた。ハルマー宙域へ出兵した事に、ノヴァルナが不快感を示していると知り、急いで詫びを入れに来たのである。

 武人である彼等は上級貴族達などとは違い、ノヴァルナの実力を知っている。そうであるからこそ、ノヴァルナがジョシュアを伴って上洛してきた際に、ウォーダ軍へ参陣したのだ。
 その後、新参者ながら星帥皇室からセッツー宙域の、守護職に取り立てられた三家は、その恩義からハルマー宙域討伐の兵を出す事を断れず、言われるがままに艦隊を派遣するしか、仕方なかったのだった。

 ただ三人と会ったノヴァルナは、『ゴーショ・ウルム』を訪れていた時とは打って変わり、快く彼等の謝罪を受け入れ、「どうぞ、気になさらぬよう」と穏やかに応じたのである。ノヴァルナからすれば、権力者の板挟みになって困惑する、三人の気持ちが理解できたのだろう。それどころかノヴァルナはその場で、三家のハルマー宙域での戦い方の分析評価会を即席で始め、戦いぶりを称賛する度量の広さを見せたのだ。



 “セッツー三守護”の三人が“やはり我らが従うはノヴァルナ様”と、感じ入りながら総旗艦『ヒテン』を去った一方、『ゴーショ・ウルム』ではバルガット・ヅカーサ=セッツァーのもとを、新たな訪問者が訪れていた。

「お待たせ致した。ようこそ、『ゴーショ・ウルム』へ」

 五人の側近を連れ、身分が高い者を相手にする場合に使用される、第二応接室へ入って来たセッツァーは、会議用とはいえ豪華な造りの長机の向こうで、椅子から立ち上がった、八人の来訪者に声を掛ける。
 来訪者は四人ずつの二組が一団となったものらしく、一組は濃緑色、もう一組は暗いグレーの軍装に身を包んでいた。グレーの軍装の方は『アクレイド傭兵団』のもの、しかもここにノヴァルナがいれば、中の一人には見覚えがあるはずである。来訪者達は、セッツァーに深々と頭を下げると、それぞれの代表が名乗った。まずは濃緑色の軍装の男。五十代半ばに見え、怜悧な印象を感じさせる。

「アン・キー宙域星大名モーリー家筆頭家老、サードティス=フックバルトにございます」

 続いてノヴァルナの知る、『アクレイド傭兵団』の軍装を着た初老の男。

「お初にお目にかかります。『アクレイド傭兵団』最高評議会議員、バルハート=ハノーヴァと申します」
 
 モーリー家はアン・キー宙域を中心に現在、領域拡張の勢いが著しい星大名家である。現当主はティルモルドゥであるが、まだ十一歳と若く、六十七歳になる祖父のモータナル・シェス=モーリーが後見人として、実際の政務を執り行っている。

 元はアン・キー宙域のエスダン星系を治める、独立管領であったモーリー家だったが、こちらもその台頭は戦国大名に相応しい。
 奇しくもオ・ワーリ宙域でノヴァルナが、活動を目立たせ始めたのと同じ皇国暦1550年代半ば、モータナルはそれまで従属していた星大名オーティス家が、内紛で乱れたのに乗じ、これを滅ぼして星大名の座を奪うことに成功。
 さらに同宙域の、二つの有力独立管領であったキッカート家に次男モルトバル、コベックカート家に三男のタックゲルトを、養子として送り込み、支配体制を盤石なものにした。

 現在のモーリー家は、ブンゴッサ宙域星大名オルトモス家と、イーズモン宙域星大名アマゴン家の二大勢力の他、周辺の星大名や独立管領と、領域の取り合いをしている状況である。
 多方面に敵対勢力を作ってしまった事により、一時は全戦線が膠着状態に陥ったモーリー家だが、『アクレイド傭兵団』と契約を結んで戦力を増強した現在は、全方面で戦いを有利に進めていた。

「どうぞ、ゆるりとなされませ」

 セッツァーはそう言って、会談相手に着席を促す。そして自らも側近たちと共に席へ着いたセッツァーは、穏やかな口調で語りかけた。

「まずは紛争中の宙域を抜けてまで、ようこそお越し下さった。大変でございましたでしょう?」

「なんの。こちらのハノーヴァー殿が指揮される、『アクレイド傭兵団』の基幹艦隊に送って頂きましたゆえ、文字通り“大船に乗った気分”を、味合わせて頂きました」

 フックバルトの下手な冗談に、セッツァーは「ハッハッハッ…」と、愛想笑いを返してから、ハノーヴァーにやんわりと釘を刺した。

「アクレイドの主力艦隊の武威は、我等も身に染みておりますからな。さぞや安心であったでしょうな」

 言外に嫌味を交えたセッツァーの言葉だったが、ハノーヴァーは動じず頭を下げてみせる。つい昨年まで、『アクレイド傭兵団』はミョルジ家に雇われ、皇都占領の一翼を担っていたのであるから、彼等に圧迫されていたセッツァーが、嫌味の一つも言いたくなるのは当然だ。そして頭を上げたハノーヴァーは、平然と痛いところを突いて来る。

「我等傭兵団をご批判なさるのであれば、もう少し、テルーザ陛下とご協調なさるべきでありましたな」




▶#09につづく
 
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