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第14話:齟齬と軋轢
#22
しおりを挟むイェルサスから謹慎を喰らった事はともかく、ティガカーツの『カヅノーVC』が護衛に付いた宇宙城突入隊に、敵の迎撃部隊が及び腰になったのは確かだった。
宇宙城に設置される対消滅反応炉の総数と総出力は、宇宙戦艦十隻分以上となっており、展開するアクティブシールドも数十枚に及ぶ。このため、戦艦の艦砲射撃で幾重にも張られたアクティブシールドを、一枚ずつ貫くのは至難の業となる。また要塞砲による反撃もあって、危険度は高くなる。
そうなると重要になって来るのが、BSIユニットやASGUL、攻撃艇などによる機動戦だった。
機体の持ち味である高い機動力を活かし、アクティブシールドの間をすり抜けて宇宙城へ肉迫、対艦徹甲弾をさらに強化大型化した城塞貫通弾を直撃させ、宇宙城の防御機能を低下させるのである。
「ふーん…やるじゃねーか」
総旗艦『ヒテン』の艦橋で、戦術状況ホログラムが映し出す戦場の動きを眺め、ノヴァルナはトクルガル軍の動きを称賛した。
ティガカーツ個人の単騎駆けに対する評価は、賛否が分かれるところだが、それで出来た敵陣形の穴を利用する、トクルガル軍の抜け目のなさは称賛されるべきであろう。
「よっしゃー。俺も出るかぁ!」
トクルガル軍の動きを見て自分も気分が高揚したのか、ノヴァルナは司令官席から立ち上がり、首を二度三度傾げてコキコキと鳴らした。
「俺の機体は準備出来てるか?」
ノヴァルナがそう問うと、『ヒテン』の艦長は「完了しております」と、言葉を返す。頷いたノヴァルナは、副官のランに命じた。
「よし『ホロウシュ』に伝えろ、出撃すんぞ!」
このノヴァルナ率いる“ウイザード中隊”の出撃が、艦隊戦での決定的な局面となった。ティガカーツの活躍で浮足立っていた、アザン・グラン軍のBSI部隊を易々と突破。ノヴァルナの『センクウ・カイFX』が、敵の戦艦戦隊へ超空間狙撃砲『サモンジ』による、射撃を行い始めたからである。
次々と艦内へ超空間転移して来る銃弾に、アザン・グラン軍の戦艦はなす術もなく、撤退を開始。
またトクルガル軍とイ・クーダ軍の攻城BSI部隊に、アクティブシールドの防御陣を抜かれた『カノン・ガルザック』宇宙城も、城塞貫通弾を大量に撃ち込まれるに至り、城主カーティス=アザン・グランは、降伏と開城を申し出た。
「敵の増援部隊…来ませんでしたね」
『ヒテン』へ戻ったノヴァルナに、事務補佐官のジークザルトが声を掛ける。パイロットスーツから通常の軍装へ着替えながら、ノヴァルナは応じた。
「ああ。思ったより早く片付いたからな。だけど先行させた哨戒駆逐艦が、何か見つけるかも知れねぇ。まずは艦隊の補給と応急修理を最優先だ」
このノヴァルナの予想は当たっていた。宇宙城攻略戦には加わらず、さらに前進を続けていた前哨駆逐艦十二隻のうちの一隻が、ガルザック星雲の出口に位置するキーメラ星団付近で、アザン・グラン軍の複数の艦隊を発見したのだ。
『カノン・ガルザック』宇宙城から、キーメラ星団までは約二光年離れており、アザン・グランの艦隊はまだ集結中であるらしい。これへの対応を決めるため、ノヴァルナは総旗艦『ヒテン』の会議室に、各艦隊司令をオンラインホログラムで集めた。
長円形の大きな机が置かれた会議室に、ノヴァルナとヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガ、そしてジークザルト・トルティア=ガモフの三人と等身大ホログラムの各艦隊司令官十人。さらに皇都惑星キヨウから同行して来た皇国貴族、テスバルーゴ・セーニ=フィノスの等身大ホログラムが集まって、それぞれ席についている。
なおこの光景は、各司令官が居る自分の艦隊旗艦でも同様で、自分以外の出席者は全て等身大ホログラムとなっていた。このような会議形式にしているのは、『カノン・ガルザック』城攻略の前哨戦となった、宇宙要塞『トゥ・ズール』攻略部隊の三個艦隊が、まだ到着していないのと、前哨駆逐艦が発見した集結中の敵艦隊との距離が約二光年であり、一回のDFドライヴで到達可能な距離にある以上、奇襲を仕掛けて来る可能性があるからだ。
会議の冒頭、予想外にも最初に口を開いたのは、皇国貴族のフィノスである。色白で細身のこのヒト種の男は三十代半ば。皇国軍のライトグリーンの軍装は、全くと言っていいほど似合わない。
「まずはノヴァルナ殿。宇宙城攻略達成、おめでとうございます」
ここまで全くと言っていいほど存在感が無く、会議を開くに至ってノヴァルナ自身、“ああ。そういやこんなヤツいたっけ”と失念していた人物からの賛辞に、さしものノヴァルナも「ああ。こりゃどーも」と、些か無礼な物言いで感謝を返すのが精一杯だった。
ただこのフィノスという貴族はノヴァルナとの軋轢が大きくなりつつある、バルガット・ヅカーサ=セッツァーら上級貴族に属しておらず、ノヴァルナからすれば人畜無害であるがゆえに、存在を意識する必要がないのだとも言える。自分に対するそんなノヴァルナの認識を知る由もなく、フィノスはさらに続ける。
「この上は、早々にモルトアーク殿の解放を目指し、アザン・グラン家との交渉に入るべきでありましょう」
フィノスの言葉を受け流すようにして発言したのは、ミディルツであった。
「アザン・グラン家との交渉を始めるには、集結中の敵艦隊に、さらなる打撃を与える必要があると考えます」
アザン・グラン家に囚われているタクンダール家当主、モルトアークの解放が今回の討伐戦の目的だが、『カノン・ガルザック』城の占拠程度でアザン・グラン家が、交渉のテーブルにつくとは思えない。
ノヴァルナの隣に着席している、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが、ミディルツの方向性に賛意を示す。ヒルザードは降伏した城主、カーティス=アザン・グランの尋問にあたっており、新しい情報を入手していた。
「どうやらやはりアザン・グラン内では、一門衆の軋轢があるようですな。この先の星団にいる艦隊も、当主のウィンゲートが主力部隊を出し渋ったのが、集結が遅れている原因と思われます」
アザン・グラン家主筋のウィンゲートと、一門衆筆頭のカーティスの関係が良くないのは、以前にもヒルザードから聞かされていた話である。それがここに来て表面化したという事であろうか。
「この期に及んで、呆れたものですなぁ」
どこかのんびりした口調で言うのは、キノッサであった。宇宙要塞『トゥ・ズール』攻略戦では、参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックの献策で、勝利への突破口を開いたらしい。そのキノッサに出し抜かれた形の、別動隊司令官だったシルバータが、強い口調で意見を述べた。
「ともかく、キーメラ星団に集結中の敵艦隊を叩くという、ミディルツ殿の言は正しいと思いまする。ここは先手必勝にて、補給と応急修理を終え次第、出撃するべきでありましょう!」
如何にも猪突猛進が持ち味の、シルバータらしい発言である。そしてこの判断は間違いではない。軽く頷いたノヴァルナは客将となっているイェルサスと、カトラス=イ・クーダにも気遣いを見せ、意見を求めた。
「トクルガル殿と、イ・クーダ殿はどう思われるか?」
「はっ。わたくしもシルバータ殿と同じく、ここは打って出るべきかと」
イェルサスがそう言うと、カトラスも同調する。
「私も、連続で敵に打撃を与えるが、今は肝要と存じます」
するとそこに、『クォルガルード』を旗艦とした第1特務艦隊で、補給部隊の護衛を行っているヴァルミス・ナベラ=ウォーダが、「お待ちください」と声を掛けて来た。「どうした?」と尋ねるノヴァルナに、仮面を被ったヴァルミスは訝しげな声で告げる。
「後方部隊より、妙な通信が届いています」
ヴァルミスの第1特務艦隊は、ノヴァルナ達の主力部隊から遅れること、およそ百光年後方の位置を、輸送艦五十二隻を護衛して進んでいる。
こちらの部隊は主力部隊とは別の戦略フェイズにいるため、駆逐艦を使った哨戒網を独自に展開していた。アザン・グラン家の伏兵部隊が、補給部隊を狙う可能性もあるからだ。
長距離センサーが、どこかの宇宙艦隊らしき奇妙な反応を捉えたのは、その哨戒網の一番後方を定点としていた、『ラズシーダ』という名の駆逐艦であった。第一報を旗艦『クォルガルード』に発信後、詳細を報告せよとの返信を受けて、解析を続けているのだ。艦橋に詰めている電探科士官が、最新の解析情報を艦長に報告する。
「やはり間違いありません。後方距離八万…かなりの数の艦隊と思われます」
報告を聞いた艦長は「わかった」と応じて、戦術状況ホログラムに視線を走らせた。彼が疑問に思ったのは、宇宙艦隊らしき反応が現れたのが、オウ・ルミル宙域のノーザ恒星群方向…つまり、アーザイル家の領域方向だという事である。
「副長。どう思う?」
艦長は自分よりベテランの副長に意見を求めた。士官学校を出たばかりの若手艦長にとって、父親ほども歳の離れた特務大尉の副長は、この上もなく頼もしい。
「これが本当にアーザイル家の艦隊であったなら、事態は由々しきものです」
“特務大尉”とは、士官学校にも行かず、ただの一兵卒から本当の叩き上げで昇進した民間人が行きつく、最高の階級であった。“叩き上げ組の提督”と言ってもいい存在で、特務大尉の階級を得られるものは、何百万人といる非士官学校出の中の、ほんのひと握りしかいない。
「由々しきもの…それは?」
「アーザイル家が我等の敵となった可能性が高い、という事です」
淡々と答える特務大尉の副長に若い艦長は、背筋に冷たいものが流れるのを感じながら、努めて冷静に問い質した。
「根拠を聴かせてくれ」
「まず、今回の戦いでアーザイル家が増援を出す、という話はありません。変更になったのなら通達があるはずですし、味方としてのサプライズ参戦というのであれば、宇宙城攻略戦の直前に為されるべき事です。距離的にも向こうから、何らかの呼びかけがあっていいはずであり、それにこの謎の艦隊の針路は、我等の退路を断とうするものです」
「つまりは?」
表情を硬くする艦長に、特務大尉の副長はさらりと告げる。
「我等は挟撃されつつあります」
アーザイル家に、裏切りの可能性大―――
数分後、この哨戒情報は艦長の意見具申を添えて、続報として艦隊司令のヴァルミス・ナベラ=ウォーダを通じ、ノヴァルナのもとへ届けられたのであった………
【第15話につづく】
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