銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第15話:カノン・ガルザック撤退戦

#14

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 敵の鑓を弾くと同時に急加速で前進し、袈裟懸けの斬撃を浴びせようとするフェルデーサ。しかし敵の『ハヤテGC』は手にしたランスを即座に半回転、石突き側の柄でパイクの刃を打ち防ぐ。
 これに対しフェルデーサは、重力子ジェネレーターの出力を上げ、力で切り込もうとした。バックパックの背後に、重力子の黄色い光のリングが二重、三重に強く輝く。エネルギーフィールドを帯びた鑓の柄と、パイクの刃がバチバチと青白い火花を散らし、双方の機体を照らす。

 だが『ハヤテGC』のパイロットも優秀だ。フェルデーサが力押しに来たのを察知し、鑓を握る手首を返して機体を翻し、『シデン・カイXS-TF』の押し込みを受け流した。

「く!…」

 機体位置を入れ替えられたフェルデーサに、『ハヤテGC』はポジトロンランスを宇宙空間に手放し、ほぼ同時に超電磁ライフルを向ける早業を見せる。歯を食いしばり、フェルデーサは操縦桿を引いて、フットペダルを二度踏み込んだ。機体を“く”の字に曲げながら半回転する、『シデン・カイXS-TF』のバックパックを銃弾が掠め、重力子ノズルのカバーが抉り取られる。それでもこの程度で済んだのは、御の字である。

“強い!…強いけど!”

 もしこの相手がマーディンだったなら、バックパックのカバーだけでは、済まなかっただろう。そしてさらに敵は宇宙空間に浮かべた鑓を掴み取って刺突。被弾警報がヘルメット内になり続ける中、フェルデーサは全力の反射神経によって、短く握ったパイクの刃で鑓の刃を滑らせた。
 踏み込んだ形になった『シデン・カイXS-TF』は、『ハヤテGC』の脇腹にショルダーアーマーのタックルを喰らわせる。ガガン!と激しく揺さぶられるコクピット。その全周囲モニターに一瞬映ったのは、敵機の腰部アーマーに描かれた、大量の星。おそらく撃破した敵の数だ。

 だが蹴りを返して来る『ハヤテGC』。ショルダータックル以上の激震が、フェルデーサを襲う。内部機構への損害報告が、赤いホログラムの文字表示で幾つも浮かび上がった。
 それでもフェルデーサは怯まない。蹴りを喰らって仰向けに崩れた体勢を逆用、バックパック横に固定されたままの、ライフルに手を回してトリガーを引く。この一弾は命中はしなかったが相手の意表を突いた。主導権を握ったフェルデーサは、立て続けに銃撃を行う。回避せざるを得なくなった『ハヤテGC』に、弾倉八発を撃ち尽くしたフェルデーサの『シデン・カイXS-TF』は、ポジトロンパイクを下段に構えて吶喊を仕掛けた。
 
“強い相手に誘い込む技はまだ危険。ここは相討ち覚悟で!”

 相手の技量はマーディン程では無いにせよ、自分よりは上だとここまでの戦闘で見極めたフェルデーサは、機体を激突させるつもりで飛び込んでいく。敵に射撃やポジトロンランスで、複数回攻撃されるのを防ぐためだ。これに対応し、柄による打撃も見込んだ上で、敵機はポジトロンランスを上段から最高出力で振り抜いた。

 その打撃は下段から跳ね上げて来た、『シデン・カイXS-TF』のポジトロンパイクを宇宙空間へ弾き飛ばし、穂先が左のショルダーアーマーを叩き割る。そしてさらに、左の上腕部に亀裂を作り出した。
 ところがフェルデーサは機体を止める事なくポジトロンパイクを放置、相手の機体に激突しながら、左腰部に装備したクァンタムブレードを逆手に握り、すれ違いざまに居合抜きの如く真横へ一閃させる。
 相手も技量が高く、反射的に機体を半回転させて回避しようとした。しかしここで相手が不運だったのは、フェルデーサの『シデン・カイXS-TF』のブレードの握りが、逆手だった事だ。通常の握りとは切っ先の角度が変わる事により、半回転した『ハヤテGC』は、バックパック内の小型対消滅反応炉の、炉心まで抉られてしまった。

 猛烈な閃光を放って爆発する対消滅反応炉に、『ハヤテGC』はひとたまりもなく、機体をズタズタに引き裂かれて砕け散る。
 至近距離にいた『シデン・カイXS-TF』も、両脚の全ての関節部に大きなダメージを受けたが、宇宙空間での戦闘にはあまり支障はない。

「や…やった!」

 肩で大きく息をしながら、フェルデーサは独り言ちた。強敵の一機を引き付けておくだけの目的が、成り行きとはいえ勝利を得たのだから、やはり彼女の才覚には驚くべきものがあると言っていい。


だがそこへ突如鳴り響く、近接警戒警報音―――


「!!!!」

 センサー連動のサイバーリンクが、敵の飛来位置を意識の中へダイレクトに知らせた。フェルデーサは反射的に機体を翻し、クァンタムブレードを握る右腕を伸ばさせる。その直後、コクピットを包むズシリと重い衝撃。そしてやや間を置いて、新たな…そして最大の脅威から全周波数帯通信が届いた。

「ほほう。へし折られる事無く、我が豪刀『タイロン』を受け止めたか…」

 その声の主…全周囲モニターに映る、相手の機体を見据えたフェルデーサの表情が強張る。そこにいたのは部下の機体が撃破された事を知った、敵将マガランの乗るBSHO『キョウマ』であった………



 フェルデーサの乗る『シデン・カイXS-TF』が、ネオターク・ジュロス=マガランのBSHO『キョウマ』と遭遇していた頃、撤退中の部隊もアーザイル家の待ち伏せ部隊の一部と会敵していた。


 エテューゼ宙域EH-7891346星系近郊―――

 ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』の司令官席に座る、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダの元へ、前哨駆逐艦から緊急情報が届く。

「左舷前方EH-7891346星系から、接近中の艦隊反応。アーザイル軍の艦隊だと思われます」

 艦隊参謀の報告に、ヴァルミスは顔を隠す狐の仮面に左手を遣り、落ち着いた口調で尋ねた。

「戦力は?」

「現在のところ詳細は不明ですが、我々より有力である可能性が高いです」

 撤退中のウォーダ軍主力部隊は、ノヴァルナに代わりヴァルミスが直卒する第1艦隊と、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータの第7艦隊、トゥ・シェイ=マーディンの第8艦隊、そしてナルマルザ=ササーラの第31艦隊で構成されている。この自軍戦力より有力だというなら、敵は六個艦隊以上…アーザイル軍の主力部隊に捕捉されたのかもしれない。

「重力子チャージ完了までの時間は?」

 とヴァルミスは尋ねた。第1艦隊はノヴァルナを『クォルガルード』に送り届けた後、第7艦隊らと合流したばかりで、どの艦もDFドライヴ用の重力子をチャージ中だった。

「約一時間半…といったところです」

 航宙参謀の返答に「そうか」と頷いたヴァルミスは、致し方ない…といった口調で命令を発する。

「状況的に、一戦する必要がありそうだな。合戦準備」



 しかもさらに彼等から約二百光年離れた、CW-1424893星系近郊では、こちらも撤退中のトクルガル軍二個艦隊が、アザン・グラン軍の別働艦隊に捕捉されていた。
 敵戦力は二個艦隊。トクルガル軍と同規模の戦力だが、高速宇宙空母が多数編制された、BSI部隊中心の機動打撃群である。命令を告げるイェルサス。

「艦隊針路040。速度上げ、全艦戦闘態勢」

 相手が高速艦で編制された艦隊であるなら、振り切るのは難しい。そう判断したイェルサスは、部隊を右前方に位置するCW-1424893星系の、最外縁準惑星へ向けさせた。半ば砕けたような奇妙な形状のその準惑星の周囲には、無数の岩塊が浮かんでいる。イェルサスはBSI部隊主体の敵を、そこで迎え撃とうと考えたのだ。

 そして戦うのであれば、全力で立ち向かわなければならない。苦笑いと共にイェルサスは命令を付け加えた。

「ティガカーツ=ホーンダートの謹慎を解いてやってくれ。すぐにだ」


 撤退戦の本番はこれからであった………
 




▶#15につづく
 
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