銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#15

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 ノヴァルナが強く感じたのは、この時のヴォクスデンが見せた、機体性能に頼らないパイロット個人としての強さであった。地上の湿原地を戦場とした環境で、老パイロットヴォクスデンは、BSHO1機と陸戦型BSIユニット32機を、陸戦用に調整もされていない、二世代前バージョンの親衛隊仕様で圧倒したのである。

 そして特筆すべきは、最後に放った奥義“秘剣・一つの太刀”を含む、ヴォクスデンの戦いの全てが“トランサー”能力もない、機体性能と操縦技術のみで行われたという事だ。
 対するノヴァルナは自分を顧みて、“トランサー”に頼り過ぎていた事に、気付いたのであった。ヴォクスデンのように集中力と感覚を研ぎ澄まし、『センクウ・カイFX』の機体性能を余すことなく引き出す事こそを、まずやらなければならない手順だったのである。それを忘れ、“トランサー”の効果が失われた事に動揺したのが、不利な状況を招いた原因だったのだ。

 これに気付いた時、ノヴァルナには新たな視界が開けた。いや、眠っていた才覚が芽吹いた。その才覚とは機体に乗らずに、自分自身の眼だけで、初見のヴォクスデンの“秘剣・一つの太刀”の太刀筋を、一部だが見切る事が出来た集中力だ。
 これを知ったヴォクスデン本人をして、稀代のパイロットだったテルーザ・シスラウェラ=アスルーガと、肩を並べる才能を秘めていると、畏怖を感じた程のものだった。

 ただノヴァルナは、マゴディからの“思い出した大事な事とは?”の問いを、この若者流に茶化して返す。

「なぁに、俺の嫁が今、旅行中だったって事を、思い出してなぁ!」

「なんの話だ!?」

 マゴディからすれば、意味不明なノヴァルナの返答である。その間にも双方の機体の刃が、目にもとまらぬ速さで打ち合わされて、青白い火花が無数に花を咲かせる。

「わかんねーか? 旅行から帰ってみたら、旦那が死んでましたって、シャレになんねーだろって話さ!!」

「ふざけた事を!!」

「こんだけ真面目な話は、ねーだろ!!」

 『オロチ』の全力をもって、大太刀を一閃するマゴディ。ノヴァルナも研ぎ澄ました感覚の全てで、クァンタムブレードを振るう。一瞬後、クロスカウンターと化した双方のブレードは、相手の機体の左腕を切り飛ばした。

「くそっ!!!!」

「野郎!!」

 素早く返す刀で両機はもう一撃。その刀身は『センクウ・カイFX』と、『オロチ』の間で切り結ばれ、大量の火花を散らせる。
 
“くそッ。これでまだ浅いってのかよ!”とノヴァルナ。

“ここまで踏み込まれただと!?”とマゴディ。

 互いに相手の手強さを痛感するノヴァルナとマゴディ。するとその時、マゴディの仲間のパイロットから通信が入った。

「マゴディ、敵の増援だ。BSIの大部隊が接近中!」

 これを聞いたマゴディは、NNLのデータリンクを限定的に再稼働させる。通信を入れて来た僚機の警戒センサーによる、敵の接近情報が戦術状況ホログラムに上書き更新される。確かに多数のBSI部隊がこちらに向かっている反応だ。数は百機近くいるだろう。それはノヴァルナ達の苦戦状況を知った副将のナルガヒルデ=ニーワスが、“ミョルジ三人衆”の主力部隊に差し向けた部隊の一部を、救援に回したものだった。スクリーンを見詰めてボソリと呟く。

「ふん。ここまでか…」

 機体の片腕を失ったところに敵の大増援、この戦いは育ての親であった先代“マゴディ”の、敵討ちでもある戦いだったが、あくまでも傭兵集団“サイガン衆”としてのビジネスが優先である。したがって報酬を無視した、相討ち覚悟や相手を斃したあとの生還を考えずに戦うのは、マゴディにとって愚策以外の何物でもない。

「ノヴァルナ・ダン=ウォーダ」

 呼び掛けて来るマゴディの考えは、ノヴァルナも理解していた。

「おう。勝負は預かっておくぜ!」

 その言葉にマゴディは口許を歪め、『オロチ』の機体を翻す。ノヴァルナ自身もここで強引に戦いを続ける気はない。僚機を呼び寄せながら、戦場からの離脱を始めるマゴディの遠ざかる姿を眺め、ノヴァルナも『ホロウシュ』達の生存確認と、第1戦隊への旗艦を命じたのであった。



 結果として戦死者は、ノヴァルナに撃破された『マガツ』のパイロット一名。しかし機体の損害は『ホロウシュ』の方が圧倒的に大きく、ナガート=ヤーグマー、ヴェール=イーテス、モス=エイオン、トーハ=サ・ワッツの四名は機体が大破。本人も大腿骨骨折や脊椎損傷などの、大怪我を負う有様だ。いずれもこの時代の医療技術であれば、リハビリ込みで二週間ほどで復帰は出来るが、大損害であるのは間違いない。それでもモルンゴール製BSHOと一対一の状況へ持ち込まれ、自機は親衛隊仕様『シデン・カイXS』という不利な状況で、最期まで一人の死者も出さなかった事を、ノヴァルナは高く評価した。

 それにASGULを使った、簡易型『D-ストライカー』三段撃ち実験部隊が、無傷であった事は戦略的に非常に大きい。
 
 総旗艦『ヒテン』に戻ったノヴァルナのもとに、副将を務めるナルガヒルデから通信が入る。パイロットスーツのまま司令官席に座ったノヴァルナは、肘掛けの操作パネルで通信回線を開いた。

「おう、ナルガ。増援を出してくれてありがとな。危ねぇトコだったぜ」

「いえ。向かわせるの遅くなり、申し訳ありませんでした」

「気にすんな。それよか戦況は?」

 マゴディの部隊とのあまりの激闘のため、ノヴァルナは現在の戦況を、把握できていなかったのだ。ナルガヒルデは彼女らしく、冷静な口調で報告する。

「はい。三人衆の主力部隊は、第二惑星ルオタの公転軌道上まで後退。そこで我が主力部隊と交戦中です。第三惑星ノルダと第四惑星フェクサンの、敵宇宙要塞については攻略戦を継続中。総じて戦況は、我が軍優勢と判断致します」

 ノヴァルナ達とマゴディの傭兵部隊による、BSIの戦闘は激しくはあったが、局地戦だったため、戦場全体の流れに大きな影響はない。ノヴァルナ自身が予期せぬ戦いに巻き込まれた事で、僅かながら指揮系統に混乱が生じた程度だ。もっともこれはノヴァルナが生還できたからで、マゴディに討ち取られていたなら、事態は全く違っていたのは当然である。

「わかった。ケチがついたし、今日は三段撃ち実験は店じまいだ。第1艦隊もそちらと合流、艦隊戦に加わる。以上」

 そう告げてナルガヒルデとの通信を終えたノヴァルナは、次に参謀長のマグナー准将に振り向いて、立ち去ったマゴディ達の事を尋ねた。

「俺達を襲って来た連中はどうした?」

「我が艦隊後方に、母艦らしき六つの反応が出現し、敵BSI部隊の反応と合わせて、すぐに消失しました。おそらく艦載機搭載能力を有する潜宙艦かと」

「だろうな…“潜宙空母”とかいう、奇襲用の艦種だ」

「現在、後詰のマツァルナルガ様の艦隊が、行方を追っております。発見の際には即座に、撃破するとのこと…」

 頷くノヴァルナだったが、潜宙空母艦隊の発見は、難しいだろうと考えている。自分自身が戦ったマゴディ達の手強さからすれば、潜宙空母艦隊の方も、相当な手練れのはずだからだ。もっともそれ以前に、マツァルナルガ艦隊が敵に内通しており、端から潜宙空母艦隊の探索を真面目に行うつもりは無い事までは、さしものノヴァルナでも、気付けはしなかったのだが。

 そしてウォーダ軍に迫る本当の脅威は、まだこれからが始まりだったのである。




▶#16につづく
 
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