482 / 526
第18話:閉じられし罠
#15
しおりを挟むノヴァルナが強く感じたのは、この時のヴォクスデンが見せた、機体性能に頼らないパイロット個人としての強さであった。地上の湿原地を戦場とした環境で、老パイロットヴォクスデンは、BSHO1機と陸戦型BSIユニット32機を、陸戦用に調整もされていない、二世代前バージョンの親衛隊仕様で圧倒したのである。
そして特筆すべきは、最後に放った奥義“秘剣・一つの太刀”を含む、ヴォクスデンの戦いの全てが“トランサー”能力もない、機体性能と操縦技術のみで行われたという事だ。
対するノヴァルナは自分を顧みて、“トランサー”に頼り過ぎていた事に、気付いたのであった。ヴォクスデンのように集中力と感覚を研ぎ澄まし、『センクウ・カイFX』の機体性能を余すことなく引き出す事こそを、まずやらなければならない手順だったのである。それを忘れ、“トランサー”の効果が失われた事に動揺したのが、不利な状況を招いた原因だったのだ。
これに気付いた時、ノヴァルナには新たな視界が開けた。いや、眠っていた才覚が芽吹いた。その才覚とは機体に乗らずに、自分自身の眼だけで、初見のヴォクスデンの“秘剣・一つの太刀”の太刀筋を、一部だが見切る事が出来た集中力だ。
これを知ったヴォクスデン本人をして、稀代のパイロットだったテルーザ・シスラウェラ=アスルーガと、肩を並べる才能を秘めていると、畏怖を感じた程のものだった。
ただノヴァルナは、マゴディからの“思い出した大事な事とは?”の問いを、この若者流に茶化して返す。
「なぁに、俺の嫁が今、旅行中だったって事を、思い出してなぁ!」
「なんの話だ!?」
マゴディからすれば、意味不明なノヴァルナの返答である。その間にも双方の機体の刃が、目にもとまらぬ速さで打ち合わされて、青白い火花が無数に花を咲かせる。
「わかんねーか? 旅行から帰ってみたら、旦那が死んでましたって、シャレになんねーだろって話さ!!」
「ふざけた事を!!」
「こんだけ真面目な話は、ねーだろ!!」
『オロチ』の全力をもって、大太刀を一閃するマゴディ。ノヴァルナも研ぎ澄ました感覚の全てで、クァンタムブレードを振るう。一瞬後、クロスカウンターと化した双方のブレードは、相手の機体の左腕を切り飛ばした。
「くそっ!!!!」
「野郎!!」
素早く返す刀で両機はもう一撃。その刀身は『センクウ・カイFX』と、『オロチ』の間で切り結ばれ、大量の火花を散らせる。
“くそッ。これでまだ浅いってのかよ!”とノヴァルナ。
“ここまで踏み込まれただと!?”とマゴディ。
互いに相手の手強さを痛感するノヴァルナとマゴディ。するとその時、マゴディの仲間のパイロットから通信が入った。
「マゴディ、敵の増援だ。BSIの大部隊が接近中!」
これを聞いたマゴディは、NNLのデータリンクを限定的に再稼働させる。通信を入れて来た僚機の警戒センサーによる、敵の接近情報が戦術状況ホログラムに上書き更新される。確かに多数のBSI部隊がこちらに向かっている反応だ。数は百機近くいるだろう。それはノヴァルナ達の苦戦状況を知った副将のナルガヒルデ=ニーワスが、“ミョルジ三人衆”の主力部隊に差し向けた部隊の一部を、救援に回したものだった。スクリーンを見詰めてボソリと呟く。
「ふん。ここまでか…」
機体の片腕を失ったところに敵の大増援、この戦いは育ての親であった先代“マゴディ”の、敵討ちでもある戦いだったが、あくまでも傭兵集団“サイガン衆”としてのビジネスが優先である。したがって報酬を無視した、相討ち覚悟や相手を斃したあとの生還を考えずに戦うのは、マゴディにとって愚策以外の何物でもない。
「ノヴァルナ・ダン=ウォーダ」
呼び掛けて来るマゴディの考えは、ノヴァルナも理解していた。
「おう。勝負は預かっておくぜ!」
その言葉にマゴディは口許を歪め、『オロチ』の機体を翻す。ノヴァルナ自身もここで強引に戦いを続ける気はない。僚機を呼び寄せながら、戦場からの離脱を始めるマゴディの遠ざかる姿を眺め、ノヴァルナも『ホロウシュ』達の生存確認と、第1戦隊への旗艦を命じたのであった。
結果として戦死者は、ノヴァルナに撃破された『マガツ』のパイロット一名。しかし機体の損害は『ホロウシュ』の方が圧倒的に大きく、ナガート=ヤーグマー、ヴェール=イーテス、モス=エイオン、トーハ=サ・ワッツの四名は機体が大破。本人も大腿骨骨折や脊椎損傷などの、大怪我を負う有様だ。いずれもこの時代の医療技術であれば、リハビリ込みで二週間ほどで復帰は出来るが、大損害であるのは間違いない。それでもモルンゴール製BSHOと一対一の状況へ持ち込まれ、自機は親衛隊仕様『シデン・カイXS』という不利な状況で、最期まで一人の死者も出さなかった事を、ノヴァルナは高く評価した。
それにASGULを使った、簡易型『D-ストライカー』三段撃ち実験部隊が、無傷であった事は戦略的に非常に大きい。
総旗艦『ヒテン』に戻ったノヴァルナのもとに、副将を務めるナルガヒルデから通信が入る。パイロットスーツのまま司令官席に座ったノヴァルナは、肘掛けの操作パネルで通信回線を開いた。
「おう、ナルガ。増援を出してくれてありがとな。危ねぇトコだったぜ」
「いえ。向かわせるの遅くなり、申し訳ありませんでした」
「気にすんな。それよか戦況は?」
マゴディの部隊とのあまりの激闘のため、ノヴァルナは現在の戦況を、把握できていなかったのだ。ナルガヒルデは彼女らしく、冷静な口調で報告する。
「はい。三人衆の主力部隊は、第二惑星ルオタの公転軌道上まで後退。そこで我が主力部隊と交戦中です。第三惑星ノルダと第四惑星フェクサンの、敵宇宙要塞については攻略戦を継続中。総じて戦況は、我が軍優勢と判断致します」
ノヴァルナ達とマゴディの傭兵部隊による、BSIの戦闘は激しくはあったが、局地戦だったため、戦場全体の流れに大きな影響はない。ノヴァルナ自身が予期せぬ戦いに巻き込まれた事で、僅かながら指揮系統に混乱が生じた程度だ。もっともこれはノヴァルナが生還できたからで、マゴディに討ち取られていたなら、事態は全く違っていたのは当然である。
「わかった。ケチがついたし、今日は三段撃ち実験は店じまいだ。第1艦隊もそちらと合流、艦隊戦に加わる。以上」
そう告げてナルガヒルデとの通信を終えたノヴァルナは、次に参謀長のマグナー准将に振り向いて、立ち去ったマゴディ達の事を尋ねた。
「俺達を襲って来た連中はどうした?」
「我が艦隊後方に、母艦らしき六つの反応が出現し、敵BSI部隊の反応と合わせて、すぐに消失しました。おそらく艦載機搭載能力を有する潜宙艦かと」
「だろうな…“潜宙空母”とかいう、奇襲用の艦種だ」
「現在、後詰のマツァルナルガ様の艦隊が、行方を追っております。発見の際には即座に、撃破するとのこと…」
頷くノヴァルナだったが、潜宙空母艦隊の発見は、難しいだろうと考えている。自分自身が戦ったマゴディ達の手強さからすれば、潜宙空母艦隊の方も、相当な手練れのはずだからだ。もっともそれ以前に、マツァルナルガ艦隊が敵に内通しており、端から潜宙空母艦隊の探索を真面目に行うつもりは無い事までは、さしものノヴァルナでも、気付けはしなかったのだが。
そしてウォーダ軍に迫る本当の脅威は、まだこれからが始まりだったのである。
▶#16につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる